子どもが胃ろうになった後って、実際どんな生活なんだろう?
今回の記事は、このような疑問にお答えする内容です。
実際に筆者の息子は4年前に胃ろう造成手術をしました。その後行っているケアや生活について、そして手術から4年経った今、生活の中で感じていることについて、綴っていきたいと思います。
胃ろう前の状況
まずは胃ろうにする前の息子の状態を簡単にお伝えしておきます。
胃ろう手術時の息子の状況
・年齢:1歳8ヶ月
・診断名:食道裂孔ヘルニア
・EDチューブを用いた経鼻経管栄養(経腸栄養)
・栄養注入は1回約2時間、1日5回実施
・嘔吐頻回(1日10回以上することも)
食道裂孔ヘルニアは手術をしないと治らないこと、当時は経管栄養のみで栄養を接種していたことから、食道裂孔ヘルニアが治ったとしても突然口から全栄養を摂るのは難しいと判断され、同時に胃ろう造成手術を行うことになりました。
▼手術に至った経緯について、詳細はこの記事で読めます▼
胃ろう後の看護・ケア
まずは胃ろうにした後に必要な看護・ケアについてです。
胃ろう後の看護・ケアは大きく4つです。
・栄養注入
・胃ろう部の衛生管理
・カテーテル管理
・数ヶ月に一度のカテーテル交換
馴染みのない言葉があるかと思いますが、補足をしながら一つずつお話ししていきますのでご安心くださいね。
胃ろうからの栄養注入
まずは栄養注入です。これについては、すでに経鼻経管栄養をされている方や、医師に説明されている、周りに聞いている方などは、もしかしたら想像がついている方も多いかもしれません。
念のため説明をしておくと、胃ろう造設手術後は、胃ろうを通じて胃に直接栄養を送れるようになります。また、逆流防止手術を同時に行うことで、嘔吐が多い子どもの嘔吐防止も図ることができます。胃ろう造設によって、嚥下障害や摂食障害で食事が難しい子や嘔吐が多い子も栄養がしっかりとれるようになるのです。
栄養を胃に送ることを注入といい、方法は子どもの年齢や症状によって異なります。今回は息子が行っている栄養注入を一例として紹介します。
注入に使うものは、
・栄養剤
・栄養剤を入れるためのカップ
・シリンジ
・採液ノズル
・胃ろう接続チューブ
です。
言葉だけでは分かりにくいと思うので、実際の写真を用意しました。
シリンジは病院から月に一度、20本支給されます(支給本数は病院によって異なるようです)。採液ノズルは栄養剤を吸い上げる時に使用すると便利な器具ですが、息子のかかりつけの病院では支給はされないので購入する必要がありました。胃ろう接続チューブはカテーテル(胃ろうの穴に挿入しておく医療器具のこと。後ほど詳しく説明します)に付属するものなので、こちらももらえます。
息子の場合、栄養注入は主に処方された栄養剤です。その時の症状や体調に応じてこれまで色々試しましたが、今は半固形ラコールに落ち着きました。
注入の手順と時間は次のようになっています。
絶対に必要な作業ではないようですが、お腹に直接入れるので、注入した時に「冷たい」という感覚が出ないように、我が家では毎回必ず行う作業です。温める際に電子レンジは使用しないように、と薬剤師から指導がありましたので、湯せんで行っています。
胃の中に残っている内容物が多い状態で通常の量を注入すると、お腹が張ってしまったり嘔吐を誘発することがあるので、注入前に残量チェックが必要です。この行為を「胃残(いざん)を引く」と言います。息子の場合は医師の指示で、50cc以上の胃残がある場合には注入量を減らしたり、消化されるまで少し注入の時間を遅らせる、などの対応をしています。
息子に「ご飯入れるよー」と声をかけて、ゆっくり注入します。息子が嫌がることもあるので、我が家では、子どもが好きな歌を歌いながら注入することも。少しでもリラックスできるように、苦痛な時間にならないように工夫しています。
急に多くの量が入らないように、10分間隔で注入しています。
この作業を医師と相談して決めた注入容量分を繰り返して一回の注入が終了です。全量注入したら最後に少量(20〜30cc)の白湯(湯冷まし)を入れ、胃ろう接続チューブに残った栄養剤を流します。(この作業を「フラッシュする」と言います。)注入容量は年齢や体重の増え方を見て医師が調整してくれます。
息子はお腹が弱く下痢をしやすいので、あまり急速に入れるとよくないと聞き、比較的時間をかけて注入を行っています。かかる時間はトータルで30分〜1時間ほどです。
また、機会は少ないですが胃ろうからペースト食も注入します。息子は今、口から食べる訓練も行っているのですが、訓練中なので口から食べきれないことも。この余った分を注入します。これを「残注入(ざんちゅうにゅう)」と言うそうです。
胃ろう友達の中には、栄養剤ではなくペースト食のみを注入している子もいます。大人の食事を取り分け、それを毎食ミキサーにかけ、ペースト状にして注入しているそうです。手間がかかりますが、家族と同じものが食べられる、栄養剤よりも摂れる栄養が豊富になる、カロリーのコントロールがしやすい、などのメリットがあるようです。
▼ミキサー食についてはこちらの記事で解説しています
胃ろう部の衛生管理
胃ろう周りの皮膚の衛生管理にも気を配ります。胃ろうは胃に穴を開けてチューブを入れているので、子どもが動いたりお腹に力が入ったりすると、胃ろうの穴とチューブの隙間から胃の内容物や胃液などが漏れてしまうことがあります。そのままにしておくと皮膚トラブルにつながってしまうことがあるので、着替えや注入前後、外出前後など、タイミングを見て観察を行い、衛生を保たなくてはいけません。
主な留意点
・胃ろう部やYガーゼが汚れていないか?
・胃ろう部から内容物が漏れて皮膚やYガーゼが濡れたりしていないか?
・傷やかぶれがないか?
Yガーゼとは、皮膚と胃ろうの間に挟む、Y字型に切り込みの入ったガーゼのことです。滲出液の吸収や摩擦の防止に活用します。
【参照】滅菌カニューゼ(PAGE2)|ハクゾウメディカル
URL:https://www.hakuzo.co.jp/images/pdf/use/flow08.pdf
我が家の場合は朝の着替え時、注入前後、入浴後は必ず状態を観察するようにしていて、何かあれば適切に処置をします。濡れたり汚れたりしているときは、「拭き取り」「Yガーゼの交換」などを行い、かぶれや傷が見られた場合には医師の指示通りに軟膏を塗るなどして対処します。
Yガーゼも病院からの支給物品です。支給される物品や個数については各病院でルールが違うようですので、何がどのくらい支給されるのか、あらかじめ確認しておくと安心です。
カテーテル管理
カテーテルとは、胃ろう部に常時挿入している器具のことです。
文章で説明を読むよりも実物を見た方が分かりやすいと思うので、まずはカテーテルについて詳しいサイトをご覧いただいた方がイメージがつきやすいかもしれません。
▼こちらのサイトの4ページ目にイラストでカテーテルの説明がされています▼
在宅における胃ろう管理の手引き|長崎市訪問看護ステーション連絡協議会
https://nagasaki-nurse.or.jp/nursenet/reference/iroukanri.pdf
カテーテルは抜けないように固定されていますが、事故で抜けてしまうことがあるので注意が必要です。
具体的には以下のようなことを行います。
- 状態の観察(カテーテルが抜けかけたりしていないか)
- 自己抜去防止の見守り(手が器用な子どもの場合抜いてしまったり、胃ろう周りにかゆみがあると、かいた拍子に手に引っかかり抜いてしまったりすることがある)
- カテーテルの種類によっては、蒸留水の交換が必要
カテーテルにはバルーン型とバンパー型があり、そのうちバルーン型は、「蒸留水」という水を入れてカテーテルを固定しています。ただ、蒸留水は日が経つにつれて少しずつ減ってしまい、カテーテルが抜けやすくなってしまいます。そのため、定期的な蒸留水交換(今入っている水を抜いて、新たに十分な量の水を注入すること)が必要です。
▼先ほども紹介したこちらのサイトにはカテーテルの種類についても詳しく書いてあります▼
在宅における胃ろう管理の手引き|長崎市訪問看護ステーション連絡協議会
https://nagasaki-nurse.or.jp/nursenet/reference/iroukanri.pdf
蒸留水の交換は、我が家ではひと月に一度、自宅で行っています。蒸留水とそれ専用のシリンジは、病院から定期的にもらえます。
カテーテルの交換
蒸留水だけでなく、カテーテル自体も定期的に交換が必要です。交換処置は医師が行います。交換処置は数分で終わり、特に子どもが痛がる様子もありません。
息子の場合、手術をしてくれた病院の外科で交換してもらっていて、頻度は2ヶ月に一回です。そこで同時に、胃ろう部周辺の皮膚状態を診てもらったり、かぶれた場合の処置を確認したり、軟膏を処方してもらったりもしています。
普段は「カテーテルの交換」とは言わず、先生も私も「胃ろう交換」と呼んでいます。交換頻度は3ヶ月に一回という時期もあったので、先生の考えや子どもの状況によっても違うかもしれません。
胃ろうにして4年後の今、感じていること
ここまでお話ししてきた胃ろう後の看護・ケアについては、そこまで大変なものではないと個人的には感じています。それもあって、胃ろうにしてから4年経ちますが、後悔したことはありません。むしろ手術をした直後より、「胃ろうがあってよかった」と思うことも増えています。
例えばこんな理由からです。
- 口から栄養が取れなくても注入すればいいや、と焦らず訓練ができるので、親にとってもも子どもにとっても、摂食訓練に対しての心理的負担が少なくなる(無理に食べようとしなくてもいい)
- チューブでの栄養よりもカテーテルの口径が大きくなるので、細かいペーストにならないような食事を注入しても詰まるなどの心配が少なく、摂れる栄養が増える
- 体調が悪く、食欲がないとしても注入で対応できるので、病院に行って点滴、とならず家で過ごすことができる
- 栄養剤を液体から半固形にすることができたため、滴下ではなくシリンジで入れることが可能になり、さらに注入時間が短縮でき活動時間が増えた
息子の場合トラブルが多く、漏れ、かぶれなど気を使うことも多いです(詳しくは前回の記事を参照)。
それでも胃ろうがあることで得られるメリットの方が圧倒的に多いですし、胃ろうがあるからこそ今、出かけたり遊んだりする時間が多く持てているため、感謝すらしています。
胃ろう手術は不安だし怖かった。でも今はしてよかったと思う。
息子の場合は胃ろう手術がほぼ避けられない状況でしたが、手術に際し「この先どんな生活になるんだろう?」と不安は大きかったです。
不安をなんとか解消して手術に臨み、4年経った今は、胃ろうにしてよかった、と心から思います。今は息子も親も、手術前よりも安定した毎日を過ごすことができているからです。
私の場合、手術前の不安は先輩たちの体験談を読んで解消しました。今も手術を控え不安を抱えている人にこの記事が届き、実体験を読むことで少しでも術後のイメージがついたり、不安が軽くなったりしたらとても嬉しく思います。
ファミケアには他にも子どもの胃ろうに関する記事があります。
ご関心に合う記事があれば嬉しいです。また、「こんなことも知りたい」というご要望がありましたらぜひお寄せください!
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