嚥下障害などで口からご飯を食べるのが難しい場合に、胃や腸へチューブを通して直接栄養を届ける医療的ケアを経管栄養といいます。経管栄養にはいくつか種類があるため、

経管栄養と胃ろうってどう違う?



胃ろうを勧められているけど、メリットってなに?
など、疑問を持っている方もいるのではないでしょうか?
そこでこの記事では胃ろうの子どもを育てている看護師ママが、経管栄養と胃ろうの違いについて、それぞれのメリット・デメリットについても詳しく解説していきます。
経管栄養と胃ろうの違いは?
経管栄養にはいくつか種類があり、胃ろうはその中の一つです。
後で解説する「経鼻経管栄養」のことを略して「経管栄養」と呼ぶこともあるので、もしかしたら混乱することもあるかもしれません。
経管栄養とその種類を理解すると言葉の違いもわかりやすくなると思いますので、まずは経管栄養について解説していきます。
経管栄養とは
経管栄養とは口からご飯を食べるのが難しい場合に、胃や腸に直接管を通して栄養剤をいれる医療的ケアのことです。経管栄養には大きく分けて「経鼻経管栄養」と「経瘻孔栄養」の2種類があります。
経鼻経管栄養
細いチューブを鼻から入れ、胃や腸に直接栄養を届ける方法です。経鼻胃管栄養にはNGチューブとEDチューブと呼ばれるものがあります。
NGチューブとEDチューブの違いはチューブを留置する場所です。チューブの先端を胃に留置するものを経鼻胃管栄養(NGチューブ)といい、十二指腸に留置するものを経鼻腸管栄養(EDチューブ)といいます。


こちらのイラストのように鼻から喉、食道を経て、胃や腸までチューブを入れます。鼻に通すため細めのチューブを使用します。交換頻度はNGチューブの場合1~2週間ごと、EDチューブの場合1~2ヶ月ごととなることが多いです。
NGチューブの挿入は、手技を習得すれば家族が行うことができます。一方、EDチューブの場合は医師がX線透視下でないと挿入できないので、病院の受診が必要です。
経瘻孔栄養
手術で胃や腸に直接穴(瘻孔)を空けて、チューブを通す方法です。胃に作った瘻孔を胃ろうといい、腸に作った瘻孔を腸ろうといいます。


経鼻経管栄養と比較するとチューブは太めです。チューブの種類もいくつかありますが、小児はボタン型バルーンタイプを使用していることが多いです。ボタン型バルーンの場合は、1〜3ヶ月に1度交換となります。
▼経管栄養についてはこちらでも解説しています


経鼻経管栄養と胃ろうの比較
経管栄養の中でも、経鼻経管栄養と胃ろうについては、胃ろう手術前の検討材料としてなど、比較されることも多いです。そこでここからは、経鼻経管栄養と胃ろうの違いについて解説します。まずは違いを以下の表にまとめました。
経鼻経管栄養 | 胃ろう | |
経路の違い | 鼻→のど→食道→胃や腸 | お腹の皮膚→胃 |
チューブの太さ | 細い | 太い |
交換頻度 | NGチューブ:1~2週ごと EDチューブ:1〜2ヶ月ごと | 種類によるが多くは1〜2ヶ月ごと |
交換場所 | NGチューブ:自宅で交換可能EDチューブ:病院 | 病院 |
では、それぞれにどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
経鼻経管栄養のメリット・デメリット


経鼻経管栄養のメリット
手術を行う必要がない
経鼻経管栄養は鼻からチューブを通すというシンプルな方法で、手術を行う必要がありません。何らかの理由により、手術ができない子どもにも対応できます。
経鼻経管栄養のデメリット
子どもの負担が大きい
鼻からチューブを入れる際にどうしても苦痛が伴い、子どもの負担が大きいです。また、顔にチューブを固定するため見た目にも重篤感があり、固定テープによる皮膚トラブルを起こすこともあります。嚥下訓練や口からの食事を併用する場合、のど周辺の違和感によって飲み込みがしにくいことがあります。
栄養剤のみの注入
また、チューブが細めで詰まりやすく、液体状のさらさらした栄養剤しか注入できません。栄養剤は栄養バランスがとれていて優れたものですが、長期間の使用では食物繊維の不足や微量元素の欠乏を起こす可能性があります。



筆者は、栄養士さんから微量元素の欠乏を予防するためには昆布茶や牛乳を注入すると良いと聞き、たまに注入していました!
チューブを自己抜去してしまう可能性がある
一番注意が必要なのは、チューブの誤挿入や自分でチューブを引き抜いてしまうこと(自己抜去)です。誤ってチューブが気管に入ってしまったり、注入中に自己抜去をしてしまうと、誤嚥や肺炎に繋がりとても危険です。そのため、注入の度に胃の中にチューブが入っているかを確認する必要があります。さらに、自己抜去を防ぐための見守りや固定方法の工夫など、細やかな管理が必要となります。
▼経管栄養チューブの自己抜去について詳しくはこちらの記事をご覧ください


胃ろうのメリット・デメリット


胃ろうのメリット
経鼻経管栄養から胃ろうにすると、顔まわりがスッキリし管理が簡単になるほか、栄養摂取の面でもメリットがあります。
チューブの自己抜去リスクが低い
お腹から胃に直接チューブを通すので、普段は服に隠れていて見た目からはわかりません。自己抜去のリスクも低いです。顔にチューブを固定する必要もないので、お顔周りがスッキリし肌荒れの心配もなくなります。のどの周りに違和感がなく、飲み込みがしやすくなるケースもあります。
栄養剤以外も注入できて栄養が安定する
胃ろうのチューブは太めなので、ゼリーくらいの硬さのものでも注入可能です。さらさらではない半固形の食物を注入することで逆流が起こりにくく、注入時間も短縮できます。また、家族と同じ食事をミキサーにかけ、ミキサー食にして注入することも可能になります。自然の食材を摂ることで、必要な栄養素を補給することができるのは大きなメリットです。
リスクや負担が少ない
一度胃に穴をあけてしまえば痛みはありません。数ヶ月に一度チューブの交換もほとんど痛みはなく、数分で終わります。直接胃に栄養を注入するため、誤嚥や肺炎のリスクも低いです。



胃食道逆流症があり嘔吐や逆流が起こりやすい子どもの場合は、胃ろうの手術と同時に逆流防止術を行うことができます(必要性の判断は主治医によります)。また、一度手術で穴をあけても、胃ろうはチューブを抜くと1日〜数日ですぐにふさがります。口から十分食事が食べられるようになれば、胃ろうを閉じることも可能です。
胃ろうのデメリット
手術が必要
胃ろうの一番のデメリットは、手術が必要であることです。手術前後、1週間程度は入院しなければなりません。退院後も、チューブの入れ替えは医師が行うため、病院の受診が必要です。
皮膚トラブルがある
また胃ろうならではのトラブルもあります。胃ろうから栄養剤が漏れ出る胃ろう漏れや、胃ろう周囲の皮膚トラブルなどです。注入速度が速すぎると、腹痛や下痢、血糖値の大きな変動を起こすこともあります。
▼胃ろうのメリットデメリットについてはこちらの記事で体験談として詳しくお話ししています


経管栄養は命を繋ぐ大切なもの
経鼻経管栄養と胃ろうには、それぞれの良さがあります。どちらがより優れているかではなく、子どもの状態や家族の生活状況によって最適な栄養摂取の方法は変わってきます。



筆者は胃ろうのメリットを重要視していましたが、手術の決断ができず迷っていた期間がありました。いち早く、よりメリットの高い選択をするというのも考え方の一つですが、子どもや家族が納得のいく選択ができることが大切です。
この記事を読んで、経管栄養の種類や経鼻経管栄養と胃ろうの違いを知ってもらい、子どもと家族にとってより良い方法は何かを考える手助けになると嬉しいです。
▼この記事は下記サイトを参照して作成しました
第II章 喀痰吸引等を必要とする重度障害児・者等の障害及び支援に関する講義緊急時の対応及び危険防止に関する講義・演習 5.経管栄養|文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20210927-mxt_tokubetu01-000010176_13.pdf
重度心身障害児における経腸栄養管理の実際 小児保健研究 第79巻 第1号 2020年
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2020/007901/003/0010-0019.pdf
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