障がいのある子どもが高校を卒業すると、家族の生活が大きく変わる、いわゆる「18歳の壁」。
この壁の存在を知って不安を感じるという保護者の方の声が、ファミケアにもよく届きます。
そこで今回、18歳の壁に向けた親の準備、というテーマで、長年障がい児福祉に携わってきた中西良介さんにお話を伺いました。18歳の壁を乗り越えるヒントが詰まったインタビューです。ぜひ最後までお読みください。
お話を聞いた方:中西良介さん

株式会社ノーサイド代表取締役。東大阪市で重症心身障害児・者の福祉に22年の間携わっている。
支える側、支えられる側にわかれるのではなく、みんなで支え合うことを大切に、重症心身障がい児・者への支援に長年携わる。障害者アートなど独自の取り組みや地域との連携を通じて多岐にわたる支援を行い、誰もが心豊かに楽しく暮らせる社会を目指している。
18歳の壁とは
ーまずは「18歳の壁」について教えていただけますか?
18歳の壁とは、障がいのある子どもが18歳になるとそれまで受けられていた支援が減ってしまい、生活が大きく変わることをいいます。
子ども時代の支援体制は、こども家庭庁・文部科学省・厚生労働省といった複数の省庁が関わる多層的な支援です。そのおかげで、お子さんは学校と放課後等デイサービスなどの福祉サービスで多角的な支援を受けられます。
しかし18歳以降は厚生労働省のみの管轄になり、支援は障害福祉サービスだけになります。
多くの場合、お子さんが関わる場所は生活介護もしくは就労支援いずれかだけになります。
すると、学校に通っているときより帰宅時間が早くなり、自宅で過ごす時間が増えます。場合によっては、通所先が見つからず、毎日通うことが難しいこともありえます。だいたい15時とか16時くらいには家にいることが多いですね。
そうなると子ども本人はもちろん、家族の生活も大きく変わります。
これを18歳の壁、と呼びます。
18歳の壁に備えて今からできること2つ
1. 制度を理解する
ーなるほど。18歳を迎える前に、どう準備したらよいでしょうか?
そうですね、まず高校卒業後に使える制度を理解することが大切です。学校の代わりに過ごす場所として、生活介護と就労支援があります。
生活介護とは、支援が必要な方が日中に通い、介護や見守りを受けながら安心して過ごすための福祉サービスです。
就労支援とは、障がいのある方が働くことを目的として利用する福祉サービスです。就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援があります。
就労継続支援A型は最低賃金が保障されますが、B型は保障されません。一方、就労移行支援は一般就労を目指すところです。
親御さんとしては、「うちの子はどこに通うのがいいのか?」と考えてみたり「近隣に施設はあるか?」と調べてみるのもいいかもしれません。
2. 支援者との人間関係を育てる
ーまずは制度の理解ですね。といってもまだ先の場合、今からどんなに考えても想像がつきにくく不安になることもあるような気がします。
そうですよね。だからこそ親御さんにまずお伝えしたいのは、「健康的に悩むことが大事」ということです。
将来のことを不安に思うのは当然のことです。でも、今から悩んでも仕方ないことがあるのも事実です。思い通りに行かないこと・どうなるかわからないことでずっと悩んでしまうと健康的でなくなります。
ですので、心を病むくらい悩むのはやめましょう。もしまだお子さんが小学生など小さい場合は、今はあまり考えすぎずに毎日しっかり楽しんで、たくさん褒めてあげてください。福祉制度は変わる可能性があるから、先を考えすぎて悩まないでくださいね。
ーたしかに、今から何年も後だと福祉制度が変わったり、事業所が新しくできたり、ということもあるかもしれないですもんね。それでもやはり不安が残る時は、何か具体的にできる準備はあるんでしょうか。
そうですね、何歳のお子さんでも今からできることとしては、一緒に悩んでくれる人を探して人間関係を育てることです。
利用している児童発達支援や放課後デイサービスの支援者、学校、相談支援専門員など、先のことをお話しできる方は周りにいないでしょうか。どうしたらよいか気軽に相談できる関係を築けるといいと思います。
すると、18歳以降の生活をより具体的にイメージしやすくなり、実際の暮らしを支える制度やサービスについての情報も得られるかもしれません。
あとは、18歳以降も使える福祉事業所の人と今から人間関係を築いておくのも大切です。
具体的には、たとえば今から居宅介護を導入し、支援に慣れておく、多くの支援者と関わり、助けてもらいやすい環境をつくる、ということをやっていくといいと思います。
生活介護や就労支援事業所で過ごす時間は、学校と放課後等デイサービスで過ごす時間より短くなります。そのサービスの不足を補うためには、現在の制度上、居宅介護の事業所を利用することが必要です。
そのために、今から人を家に受け入れる準備をすることを私は勧めています。日中の時間をヘルパーと過ごすことに慣れてもらうんです。
ー早めに居宅サービスを利用するんですね。
はい、そうすると人間関係も長期で築くことができます。高校生になると日中活動の事業所を探すだけで大変になるので、少なくとも中学生くらいから利用するのが個人的にはおすすめです。
本当はお子さんが小さければ小さいほどよいです。その方が事業所とご家族で人間関係が作りやすく、家族が困ったときに助けてくれるようになるかもしれません。
さらに、親が健康なうちに子どもにヘルパーが関わってもらうことにも大きなメリットがあります。
親も年を取り、子どもも大きくなって物理的に介助がつらくなるときは必ずきます。今はまだ自分でできる、自宅に人を入れるのはちょっと、と先延ばしにしていると、いざ突然体を壊すなどした時に、子どもを支えられなくなることもありえますよね。
そうしてヘルパーに依頼する必要性が出てきたときに、自分に余裕のない状態で利用しはじめることになると、体がつらい中、初めましての人とコミュニケーションをとることになり、大変です。それよりも、自分に余裕があったときに整える方が断然よいと思います。
お母さんの中には「自分で子どもをみなければいけない」という呪文をかけられて、ヘルパーにお願いできない人もいます。療育センターや学校など、いろんなところから「子どもをきちんとみるように」と言われてきた人も多いです。親御さんの方も、自分以外の人がみる環境にも慣れる必要があります。
ー自分にかけられた呪文を解く必要があるのですね。
そうです。ヘルパーを利用するといっても、すべてのお世話から完全に手を離すという意味ではないんです。親がマネージャーに役割を変えるイメージです。
さまざまなサービスのスケジュールを調整したり、子どもの感情を読み取ったり、対人関係がうまくいっていないところを見抜いたり。そういった見守りの部分を親が担えるようにし、支援は人に任せる、こんな役割分担ができるといいのではないかなと思います。
そうして人の手を借りることに慣れたら、できれば複数の事業所を利用することをおすすめします。メインで利用する事業所を決めて、サポートの事業所として他を広げていく流れです。
1つの事業所より複数に頼った方が支援の選択肢が広がります。これはノーサイドの利用者さんにもお伝えしています。ただ、多すぎると軸となる事業所がなくなり、主体的に関わろうとせずに人間関係の構築が難しくなるかもしれませんので、バランスが大事ですね。
そうやって関わってくれる支援者を増やし、利用者と事業者という顧客関係だけでなく、同じ地域で過ごす人としての関係を作れるのが理想です。悩んでしまうときは、自分だけで抱え込まず、一緒に悩んでくれる人を探して人間関係を育てる。
支援者として「福祉」の本質は身体的な介助そのものではなく、家族とともに悩みながら考えていく関係性を築くことだと思っています。身体的な介助は「介護」です。「福祉」を実践している人を見つけられるとよいですね。
ーなるほど…では、事業所の人といい人間関係を築くのに大切なことはありますか?
大切なのは、事業所も家族もこだわりを持ちすぎないことだと思っています。お互いに「こうするべき」が強いと交われなくなります。
事業所は「こうするべき」にとらわれすぎず、家族が望んでいることを優先する。親は事業所に対して「あれもこれもしてほしい」と言いすぎないことも大事。事業所は結局できなくて引いていってしまうこともあります。
もし「本当はこうしてほしい」と事業所に対して気になることが出てきたら、第三者の意見を交えてやわらかく伝えるとよいですよ。例えば、「保湿クリームをもっと塗ってください」という代わりに、「主治医が乾燥しやすいからもう少し保湿した方がいいと言っていました」と伝えることで相手も受け入れやすくなります。
第三者は主治医だけでなく、学校の先生や相談支援員さんなどでもいいです。「相談支援員さんとも話して、最近少し変化が出てきていると言われているのですが、どう思いますか?少しだけ見守りを手厚くしていただくことは可能でしょうか」「学校で少し頭の皮脂が気になると言われてしまって、もしよければシャンプー2回していただけないでしょうか」など、周りの意見も踏まえて伝えるようにしましょう。
そうやってコミュニケーションをとり、信頼関係を少しずつ築く姿勢が、よりよい人間関係につながります。
ーお互いに歩み寄りながら人間関係を広げ、支援の環境を整えていくことが大切なのですね。
はい。まさに環境を整えるというところがポイントです。
ノーサイドのサービスをやっている中で、障がいは環境や社会が作っているんだと気づきました。歩けない、医療的ケアがある、精神的に落ち着かないなど、どんな障がいも環境が整わないから障がいになるんだなと。
例えば、車椅子の人が飲食店に行きたいけど、入り口に階段があって行けない、ということがあったとします。でも階段がない店だったら普通に入れますよね。ということは、その人自身の障がいではなく、階段という環境が障がいということだと思うんです。
だから環境次第で障がいはなくなっていくと思っています。
18歳の壁も同じで、本人の問題というより18歳を境に支援が減ってしまう社会側の壁だと思います。人とのつながりを大切にし環境を整えることで、その壁を乗り越える助けになります。
人とのつながりで18歳の壁に備えよう
「18歳の壁」は、知ることで今からできる準備が見えてきます。制度を理解し、人間関係を育てておくことが子どもの18歳以降の生活を支える助けになります。
まずは人間関係を構築できそうな人や事業所を見つけることからはじめてみてはいかがでしょうか。それは、今利用している事業所かもしれないし、新しく出会う事業所かもしれません。焦らず、少しずつ環境を整えていくことが、18歳の壁を乗り越える未来につながっていきます。




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