医療的ケアの1つである「喀痰吸引(たんの吸引)」。筆者も息子の医療的ケアとして吸引を毎日行っています。
飲み込む力や痰を吐き出す力が弱い筆者の息子にとって、喀痰吸引は生きる上でなくてはならない医療的ケアです。
今回は、喀痰吸引に必要なものや使い方、喀痰吸引をする上での注意点などを紹介します。
医師 おkら先生
呼吸器専門医、がん薬物療法専門医、総合内科専門医。嚥下機能評価研修会修了、医療型児童発達支援/放課後等デイサービスの嘱託医。仕事大好き、2児の母。長男がダウン症、気管切開をしている医療的ケア児。障害児を育てる環境が優しくなって欲しい。その為に自分に何か出来る事はないかと日々考えています。
X:@oke_et_al,ブログ:じょいく児。
医療的ケアとは
医療的ケアとは、疾患によって身体の医療的な管理が必要な人に対し、家族が自宅等の生活の中で行う医療的生活援助行為のことです。看護師や医師が行う「医療行為」とは別で、国家資格を持たない一般の人の行為です。
医療技術の進歩によって昔では助けられなかった命が助けられるようになりました。疾患や医療的な管理が必要で病院でしか過ごすことができなかった子どもも在宅での生活が可能になるになってきています。こういった背景から、医療的ケアという言葉もよく耳にする言葉になってきました。
医療的ケアには、病気や障がいによって多様な種類があります。頻度や子どもにあったやり方など様々ありますが、今回は筆者の息子に行っている医療的ケアの1つである喀痰吸引について紹介します。
筆者の息子の情報
年齢:1歳3ヶ月
体重:6.7kg
身長:81cm
病名:先天性ミオパチー(ミオチュブラーミオパチー)
医療的ケア:人工呼吸器管理、気管切開の管理、喀痰吸引、経管栄養
使ってる吸引器:スマイルケア(在宅用)、べべキュア(外出用)、持続吸引器
※医療的ケアは医療的ケアを受ける本人の状態や病院指導によってやり方が異なる場合があります。紹介する内容や方法は医療的ケアの理解促進を目的としており、あくまでも参考として情報をご利用ください。
喀痰吸引とは
喀痰吸引とは、喉や口、鼻に溜まっている分泌物を喀痰吸引用のカテーテルで吸うケアです。疾患や障がいによって唾液やたんを自力で出すことができない人や気管切開をしている人に行います。
自力で痰を出せないまま放っておくと、肺に分泌物が溜まってしまったり、喉や気管が詰まって呼吸困難を起こしてしまったりする可能性があります。
痰や唾液を取り除くことで呼吸を楽にし、肺炎のような感染症かかりにくくすることができます。
喀痰吸引に必要なものと使い方
喀痰吸引に必要なものは以下の物品です。
- 吸引器
- 吸引カテーテル
- 水
- 吸引に使うボトル
- アルコール綿
吸引器
吸引器は、鼻や口、喉、気管に溜まっている分泌物を吸うための機械です。チューブにカテーテルを接続し、圧力でカテーテルを通して分泌物を吸引します。吸引した分泌物は、吸引瓶に落ちていくので喀痰吸引が終わったら溜まった分泌物を捨てて、機器は清潔に保ちます。
吸引器には、吸引スイッチとダイアルがついており、圧力を調整しながら喀痰吸引することができます。
吸引カテーテル
喀痰吸引をするには、吸引カテーテルが必要です。吸引器のチューブに吸引カテーテルの接続部分を接続し吸引カテーテルの先端を吸引したい部分に挿入します。
筆者の場合は、1日1本の計算で、月に30本支給されています。支給の方針は症状や病院によって異なります。気管用・口鼻用・持続吸引用と1日に3本必要なので、最も清潔に保たなければならない気管用のカテーテルを新しいものにし、気管用のカテーテルを口鼻用・持続吸引用に交互に交換するようにしています。
喀痰吸引に必要なグッズセット
喀痰吸引をする時には、水や水を入れるボトル、カテーテルを保管するボトルなど細々としたグッズの用意を用意します。これらのグッズは物品を清潔な状態で吸引をしたり、保管したりするのに必要なものです。
息子の場合は口・鼻・気管の3箇所から喀痰吸引する必要があるため、「口鼻用」と「気管用」それぞれの容器が必要です。気管用はより清潔に保つ必要があるため、同じ容器は使いません。
【写真内のボトル内訳】
- 水用ボトル(口鼻用):口鼻の吸引をしたあとに使用する水が入っているボトルです。
- 水用ボトル(気管用):気管の吸引をしたあとに使用する水が入っているボトルです。
- カテーテル保存用ボトル(口鼻用):口鼻の吸引に使用するカテーテルを保管する用のボトルです。
- カテーテル保存用ボトル(気管用):気管の吸引に使用するカテーテルを保管する用のボトルです。
- ボトル固定用ボトル:真ん中にあるボトルは、使用目的ではなく、カゴの中でボトルが動かないように固定するためのボトルです。これがあることでカゴの中で全てのボトルがぴったり収まります。
水用ボトルと水
喀痰吸引をした後は、洗浄用の水を吸引し、吸引器のチューブに水を流します。そのための水を容器に入れて準備しておきます。水を流すことで、吸引器のチューブに付いている分泌物を流し、清潔に保つことができます。
訪問看護師の方にも使いやすい!と評判の筆者のカテーテル・水入れボトルは、100円ショップで揃えました。カテーテルの装着部分がボトルの口部分に上手くはまります。
カテーテルは1日に1回の交換なので、交換タイミングでない時には使い終わった後、水を通して清潔にしてから保管用ボトルで保管します。
病院ではカテーテルを使い捨てで使えますが、医療的ケアを自宅でする場合は支給される物品の数が限られているため、使い捨てというわけにはいきません。1回使用したら再度使えるように、清潔に保つための物品や保管する場所が必要です。
筆者の場合もカテーテルの支給は月30本と決まっています。
アルコール綿
アルコール綿は、カテーテルの消毒に使用します。アルコール綿でカテーテルを拭き取るようにして使用します。
どの場面でアルコール綿を使用するかは病院によって指導の方法が違いますが、筆者が習った使用場面は、喀痰吸引直後の1回です。ただ、不衛生をより防ぐためには、喀痰吸引前に1回、喀痰吸引後に1回アルコール綿を使用するのがいいと思います。
喀痰吸引前や喀痰吸引後に水を通したあともアルコール綿で消毒するように指導されている方もいるようです。
喀痰吸引のやり方
喀痰吸引は口・鼻・気管の3箇所から行うことができます。口鼻吸引と気管吸引にわけて説明します。また今回は自宅で喀痰吸引する方法をご紹介します。
口鼻吸引のやり方とタイミング
口鼻吸引のやり方
唾液や鼻水が多い時や痰が絡んで咳が多いときは、口鼻の吸引をします。口と鼻の両方を吸引する場合は口の方が清潔ではないため、鼻、口の順番にします。
手順1:吸引器のセッティングをする
口鼻用のカテーテルを吸引器に接続し、圧力のダイヤルを調節します。調整が完了したら、実際に喀痰吸引をする前に一度カテーテルから水を通して正常に吸引できることを確認します。
息子の場合、圧力は20Kpaです。圧力はその子によって最適な数値が違うので主治医や訪問の医療機関の方と相談しましょう。
手順2:カテーテルを口鼻に挿入し吸引する
正常に吸引できることが確認できたら、カテーテルを口や鼻に挿入し、吸引します。
カテーテルを吸引したい部分に挿入し、手前に引きながら分泌物を吸引していきます。
この時のカテーテルの挿入の長さは子どもの体の大きさによって変わりますが、奥に入れすぎると鼻は痛く鼻血が出る可能性もあり、口は「おえっ」とえずいてしまうので注意しましょう。
これは人によりますが、筆者の息子の場合は1回の吸引時間は5〜10秒で、長くなりすぎないようにします。咳が止まらなかったり、呼吸が苦しそうなときは通常より浅めに、短い時間で吸引をするようにしましょう。
手順3:アルコール綿でカテーテルを消毒し、水を通して清潔に維持する
吸引後、アルコール綿でカテーテルを拭き取り消毒し、水を通してカテーテル内の分泌物を綺麗に洗い流します。清潔になったカテーテルは、交換しない場合容器に保存します。
口鼻吸引をするタイミング
様子を見て、以下のようなタイミングで口鼻吸引を行います。
- 唾液や鼻水が多いとき
- 痰が絡んで咳が多いとき
気管吸引のやり方とタイミング
気管に痰が溜まったときは、気管の吸引をします。
手順1:吸引器のセッティングをする
気管用のカテーテルを吸引器に接続し、圧力のダイヤルを調節します。吸引器の電源を入れたら、一度カテーテルから水を通して吸引できるかどうかを確認します。
息子の場合、気管の吸引の圧力は30Kpaです。気管の場合も圧力はその子によって最適な数値が違うので主治医や訪問の医療機関の方と相談しましょう。
手順2:気管カニューレの穴から吸引する
吸引器の準備ができたら、呼吸器や人工鼻、スピーチバルブを気管カニューレから外し、気管カニューレの穴から吸引をします。
カテーテルの挿入の長さはカニューレや子どもの体の大きさによって変わりますが、息子の場合は5cmと決まっています。必要以上に奥に挿入してしまうと、カテーテルの先端が気管粘膜に当たり、出血したり肉芽ができたりするので、挿入する長さは医療者の指示に従いましょう。
また1回の吸引時間は苦しくならないように、5〜10秒にします。
手順3:カテーテルを消毒し、清潔に保つ
喀痰吸引後、アルコール綿でカテーテルを消毒し、水を通してカテーテル内の分泌物を流します。綺麗になったら、容器などでカテーテルを保管します。
気管吸引をするタイミング
以下の様子が見られた時などは喀痰吸引を行います。
- SpO2が低下したとき
- 呼吸が苦しそうな時
- 痰が多い時
- 呼吸音がゴロゴロする時
- 胸に触れるとゴロゴロと振動が伝わるとき
- 気管カニューレから痰が出てきた時
抱っこやミルクの前、お風呂の前後は痰が出やすいので必要時吸引しましょう。
喀痰吸引時の注意点
吸引されている人の様子を確認しながら行う
喀痰吸引中は、吸引されている人の身体が驚いてしまったり、嫌がってしまうことがあるので様子を見ながら吸引することが大切です。
サチュレーションモニターを利用している場合は、SpO2(酸素飽和度)の数値が下がったり、心拍が上がりすぎてしまったりしていないかどうか、確認しながら吸引をしましょう。
唾液を飲み込むことが難しい場合は持続吸引
唾液を飲み込むのが難しい場合、持続的に口から吸引をする持続吸引をします。持続吸引は低圧持続吸引器を使用して、唾液誤嚥を減らしたり、口から唾液があふれたりしないように吸引する方法です。
喀痰吸引の頻度やタイミングは?
喀痰吸引の頻度やタイミングは人それぞれで、障がいや疾患によっても違ったり、子どもの身体の状態によって違ったりします。その日の体調によることもあるので、子どもの様子をみながら適宜行っていくのが大切です。
喀痰吸引によってつらい状態を楽にしてあげられるように「つらそうかも?」と感じたら吸引をしてあげるようにしましょう。
筆者の息子の場合は、午前中1度も吸引をしなくても問題ない時もあれば、風邪を引くと1時間に5〜6回気管吸引をしないといけない時もあります。
吸引器の購入方法
吸引器を自宅で使う場合は、レンタルする方法と購入する方法があります。購入の場合は、条件によって制度や助成が使用できる場合があります。喀痰吸引が必要になった際に医療ソーシャルワーカーなどが案内してくれることが一般的です。
正しく喀痰吸引をして呼吸困難や感染症を防ごう
される側にとって喀痰吸引は、決して楽なものではありません。しかし痰を吐き出すことが難しい子どもには、感染症や呼吸の苦しさを防ぐために必要不可欠なものです。
口鼻吸引、気管吸引、とそれぞれやり方がありますが、注意点を守りながら正しく吸引をすることで、子どもの命を守ることにも繋がります。
最初は不慣れで上手に吸引できなかったり、何度も吸引しないといけなかったりと不安になることもあると思いますが、回数を重ね慣れてしまえばその不安も緩和されるので安心してくださいね。
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