小児での発症例が多い「急性脳症」ですが、後遺症の内容や程度も実にさまざまです。

退院後の日常生活をどうやって送っていくか、イメージが湧かない…



どんな支援やサポートがあるのかわからない
この記事では、実際に急性脳症を発症し後遺症を抱えることになった娘を持つママである筆者が、「発症直後にこんな記事が読みたかった!」という想いを込めて、退院後に受けられる支援や制度について解説します。
医師 おkら先生


呼吸器専門医、がん薬物療法専門医、総合内科専門医。嚥下機能評価研修会修了、医療型児童発達支援/放課後等デイサービスの嘱託医。仕事大好き、2児の母。長男がダウン症、気管切開をしている医療的ケア児。障害児を育てる環境が優しくなって欲しい。その為に自分に何か出来る事はないかと日々考えています。
X:@oke_et_al,ブログ:じょいく児。
子どもが急性脳症を発症したご家族の方へ
この記事で紹介した内容は、今後の経過の中のさまざまなフェーズで、ポツポツと参考にしていただける情報をたくさん盛り込みました。
たまに見返すことで「そういえばこの制度が今、役に立つかも」ということもあるかもしれません。よかったら、保存したり、ご家族内でシェアしてみてください。
急性脳症とは
急性脳症とは、脳に起こった炎症によって発熱・頭痛・意識障害・けいれんなどの症状がみられる病気の総称です。
多くの場合、脳に浮腫(むくみ)が生じて脳の機能に異常を引き起こします。
急性脳症による後遺症
急性脳症による主な後遺症は以下のとおりです。
知的障害
一般的に急性脳症の後遺症として最も残りやすいのは知的な障害といわれています。障がいの程度は患者によって軽度から重度までさまざまです。
高次脳機能障害
高次脳機能障害は、脳機能に障がいが生じて日常生活や社会生活に支障が生じる状態をいいます。
急性脳症後にみられる高次脳機能障害としては、視覚認知障害と注意障害が特徴です。具体的には段差や物が認識しづらく転びやすい、集中できない、漢字が書けない、などです。
運動機能障害
急性脳症の後遺症として肢体不自由や麻痺、身体の機能がうまくコントロール出来ない協調運動障害、嚥下障害など、さまざまな運動機能障害を呈する場合があります。
てんかん
急性脳症の後遺症として「てんかん」の発症も多く、発作のコントロールが難しい例がかなりの割合を占めます。そのため、急性脳症発症後にはてんかんを発症していなくても定期的に脳波検査を受けるケースが多いです。
▼小児の急性脳症について詳しくはこちらの記事を参考にしてください


後遺症が残った場合に受けられるサポート
急性脳症による後遺症が残った場合、元の生活に戻ることは本人にとっても家族にとってもさまざまなハードルがあります。
ぜひ積極的に、医療や福祉、日常生活における支援や制度を活用しましょう。制度の利用には医師の判断が必要な場合がありますので、主治医や看護師など病院スタッフに相談してみてください。
医療・福祉面でのサポート
リハビリ
運動機能障害が残った場合にはリハビリテーションの介入を受けられます。
病院へ通って受けるリハビリの他、自宅で受けられる訪問リハビリや、集中的にリハビリを行うリハビリ入院という選択肢もあります。
▼小児のリハビリ入院についてはこちらの記事を参考にしてください


小児慢性特定疾病の医療費助成
「小児慢性特定疾病」とは、国が指定した子どもの慢性疾病群のことです。治療が長期にわたることも多いため、小児慢性特定疾病に該当する場合は医療費負担を軽減するために助成を受けることができます。
ただし、すべての急性脳症が該当するわけではないので詳しくはお住まいの自治体やかかりつけの病院などの確認してみましょう。
▼小児慢性特定疾患の医療費助成については、こちらの記事を参考にしてください





小児慢性特定疾病については、直近では必要性が感じられなくても、後々役に立つ可能性があります。筆者も娘の発症直後は全くの知識不足だったためケースワーカーの方に言われるがまま申請したのですが、てんかんの検査入院のため県外の病院を受診した際や、リハビリ入院をした際の食事代軽減などでとても恩恵を受けました。
障害者手帳の取得により受けられる福祉制度
急性脳症の後遺症の程度によっては、身体障害者手帳や療育手帳などの障害者手帳を取得できる場合があります。
障害者手帳を取得することで、公共交通機関や高速道路料金の割引やガソリン燃料の助成、座位保持や装具などの補装具支給、また吸入器や紙おむつなどの日常生活用具の給付など、さまざまな福祉制度を利用することができます。
▼障害者手帳についてはこちらの記事を参考にしてください





筆者の娘も、3歳前に身体障害者手帳(1級)を取得しました。手帳を取得することで「障がいを抱えてしまった現実」を突きつけられるように思うこともありましたが、娘自身、そして我々家族が福祉制度や優遇サービスによって確実に暮らしやすくなったので、取得してよかったです。
日常生活におけるサポート
運動障害や知的障害に対する療育サービス
急性脳症の後遺症を抱えた場合に、療育を受けることも可能です。療育とは、障がいのある子どもの発達を促したり、日常生活をスムーズに送ることができるように援助するサービスです。
療育施設に通園することで少し自分の時間が持てたり、子育ての悩みに対して専門職からアドバイスを受けることもできます。
▼療育に関する参考記事はこちら


訪問看護や居宅介護による生活介助
看護師が患者の自宅に訪問し、病気や障がいに応じた看護を行うのが訪問看護です。体調チェックや日常のケアをしてもらうことができます。
▼訪問看護に関する参考記事はこちら


また、居宅介護(ホームヘルプサービス)といって、訪問介護員(ホームヘルパー)に自宅に来てもらい、入浴などの日常生活の介護を受けたり、家事の援助を受けられるサービスもあります。
▼居宅介護に関する参考記事はこちら


その他の支援や検討できる選択肢
後遺症が残った場合に受けられるおおまかなサポートは上記のとおりですが、当事者家族としては、これらを活用したところで「元の生活に戻れるわけではない」というのが現実かもしれません。筆者も同様です。
特に、退院直後は今までの生活から突然一変してしまったことへの困惑や、これから具体的にどう過ごしたらよいかなど、孤独感や不安感も大きいのではないでしょうか。
医療や福祉サポート以外にも、以下のような支援や仕組みがあるので参考にしてみてください。
住んでいる自治体の「子育て支援課」や「障害福祉課」と繋がる
未就学児の場合の保育先や就学についてなど、自治体との連携や支援が必要な場面も出てきます。また自治体独自の支援制度が存在する場合もあるので、住んでいる自治体の子育て支援課や障害福祉課との繋がりを持っておくと安心です。
基幹相談支援センターに問い合わせる
障がい者基幹相談支援センターは、障がいのある方やその家族が安心して暮らせるよう、各種相談や情報提供を行う施設です
ただし、自治体によっては基幹相談支援センターを設置していないこともあります。



筆者の場合、区の役所で解決しなかった困りごとがあった際に「住んでいる自治体名 障害児 相談支援事業」などで検索をして見つけた基幹相談支援センターに試しに電話をしてみたところ、親身に対応してもらえて大変助かった経験があります。お住まいの自治体や困りごとの内容、またタイミングなどによって助け舟となってくれる先が異なることもあるかもしれません。一つの選択肢として、存在を把握しておくとよいですね。
家族会などのピアサポートを利用する
障がい児を育てる親や家族が繋がれる場やコミュニティも、たくさんあるものです。公的なものではなかったり、オンラインやオフラインで点在していたりと、なかなか探しにくいかもしれませんが、似たような境遇同士で情報交換や相互支援ができるのはとても心強いです。
また、SNSで「#急性脳症」や診断名で検索すると、お子さんの経過をまとめてくれている先輩ママパパも多くいらっしゃいます。よりリアルな情報を知ることができるかもしれないので、活用してみてくださいね。
▼障がい児の親のコミュニティについては、以下の記事を参考にしてください!


後遺症と共に暮らしていくために
筆者の娘は2歳手前で急性脳症を発症しました。それまでの元気で活発な娘の姿がだんだんと思い出に変わっていってしまっている寂しさや悔しさも、決して消えることはありません。
それでも、今の娘が抱えている後遺症と、この先の生活をどうしていくかといった現実とも向き合わなくてはいけません。正直しんどいなぁと思うこともたくさんありますが、どうか親である自分たち自身のことも労わりながら、ぼちぼちやっていきましょうね。
この記事を当事者として参考にする方が一人でも少ないことを祈りつつ、必要としている方へ広く届くように願っています。
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