口から食事を摂取するのが難しい場合に、胃や腸に管を通して栄養剤を注入する経管栄養。経管栄養にはいくつか種類ありますが、よく用いられるのは、家族でもチューブの入れ替えができる経鼻経管栄養(胃管)です。
よく用いられるとはいえ、家族にとって初めての経管栄養の場合、在宅でケアをしなければいけないことに不安を覚える方もいるのではないでしょうか?
そこでこの記事では、現役看護師のママが経鼻経管栄養(胃管)の注入の手順を解説していきます。よくあるトラブルと対処法についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください!
▼経管栄養の種類についてはこちらの記事で解説しています
注入に必要なもの
- 注入ボトル
- 滴下ルート
- シリンジ
- 注入する栄養剤
- 聴診器
その他、注入ボトルを吊り下げるグッズも準備しましょう。筆者はS字フックとチェーンを使って、注入ボトルをひっかける場所を作っています。
▼こちらの記事で注入ボトルの固定に役立つグッズを紹介しています!
注入の手順
栄養剤の準備
1.注入ボトルに滴下ルートを接続し、クレンメを下げます。
2.ボトル内に栄養剤を入れます。
3.滴下筒を軽くつまんでから離して、滴下筒の1/3程度栄養剤を満たします。
4.クレンメを上げて、ルートの端まで栄養剤を通します。
チューブの位置を確認
注入する前に、チューブがちゃんと胃に入っているかを確認します。確認方法は以下の3つです。
チューブの挿入の長さを確認
チューブが決められた長さより抜けていないか、入りすぎていないかを確認します。チューブが何㎝入っているかは、挿入したチューブに鼻の穴の位置でマーキングをしておき、そこから外れていないかを確認するのが一般的です。
注入中にチューブが抜けることがないよう、しっかり固定ができているかも確認しましょう。
胃残の確認
シリンジを接続し、ゆっくりと引いて胃の残留物(胃残)があるか確認しましょう。栄養剤が消化しきれていないと、胃残が多く引けることがあります。胃残がある場合に注入量をどう調整するかはあらかじめ医師と相談しておけると安心です。胃残には消化酵素などが入っているので、量を確認したら胃の中に戻しましょう。
胃残確認時に空気(エア)が引けることもあります。エアが多い場合は日常的に空気を飲んでいるのかもしれません。シリンジで空気を抜いてあげてください。
気泡音の確認
注入用シリンジに10ml程度空気を吸ってチューブに接続したら、聴診器をみぞおちに当てながら、シリンジの空気を注入します。この時「ポコポコ」や「グー」という音が聞こえたら、チューブが胃に入っているサインです。
このような3つの確認方法をすべて実施すればチューブの先端がしっかり胃に入っているという確実性が上がりますが、注入前は長さと胃残の確認のみでもいいと言われる場合もあるようです。あらかじめ病院の指示を確認しておき、その方法に従うようにしましょう。
栄養剤を注入する
1.子どもの体位を整えて「今からご飯にしようね」と声をかけます。
2.経管栄養チューブ(NGチューブ)と滴下ルートを接続します。
3.クレンメを開けて、滴下の速度を調整します。
4.栄養剤が全部入ったら、クレンメを閉めて滴下ルートを外します。
5.10ml程度の白湯をシリンジに準備します。
6.シリンジをNGチューブに接続して白湯を通し、チューブ内の栄養剤を流します。
7.シリンジを外して、NGチューブの蓋を閉めます。
8.ごちそうさまでした!
経管栄養の滴下の速度はどうやって計算するの?
注入の滴下速度は「注入量(ml)×投与時間(秒)÷1mlあたりの滴下数」で、1秒に何滴落とせば良いか計算できるよ。
滴下ルートは基本的に15滴で1ml投与なので、例えば300mlを60分かけて投与する場合は「300×3600÷15=1.25」で、1秒に1.2滴の速さで投与すればOK。
注入速度は注入ボトルの高低差でも変化し、高いほうがより早く栄養剤が滴下します。注入の途中で体位を変更したり、注入ボトルを吊るす場所を変更した場合は、注入速度が変化している可能性があるので注意しましょう。
注入中は呼吸が苦しそうになっていないか、むせや嘔吐がないかも観察します。注入中のチューブの自己抜去は誤嚥の危険がありますので、動きが多いなど抜去の可能性がある子どもの場合は特に見守りが大切です。
▼投与中にチューブが抜けた場合の対応はこちらで解説しています
よくあるトラブルと対処法
ここからは、経管栄養での注入の際によくあるトラブルとその対処法について解説します。
気泡音が聞こえない
気泡音が聞こえない場合、チューブの先端が胃に入っていないことが考えられます。再度空気を注入し、気泡音の確認をします。他にも介助者がいる場合は、複数人で確認するとより確実です。気泡音が確認できず胃残も引けない場合は、チューブが胃に入っていない可能性が高いのでチューブの交換をしましょう。
栄養剤が滴下しない
チューブの閉塞や折れ曲がりが考えられます。まず、チューブや滴下ルートが折れ曲がっていないか確認します。
次に疑われるのはチューブの閉塞です。注入用シリンジで10ml程度の白湯を注入してみましょう。これだけで解消する場合もありますが、抵抗が強くシリンジを押しても引いても開通しない場合はチューブの入れ替えをします。
胃残が多い・黒っぽい
胃残が多い場合は、栄養剤が消化しきれていないということです。基本的には時間を置くか、注入量を減らして対応します。
胃残が多い時は30分ほど時間を置いて、再度胃残の確認をします。胃残が少量であればそのまま注入を行い、まだ量が多ければ胃残の量分の栄養剤を減らして注入しましょう。胃残の量は体調によっても変化します。多い状態が続く時は医師に相談しましょう。
また、黒い胃残が引けることがあります。これは胃から出血しているサインで、コーヒー様の胃残と表現されることもあります。胃出血の原因は様々ですが、チューブの挿入時に胃壁を傷つけた場合や鼻血を飲み込んだ時、強いストレスがかかった時などにみられます。もしも黒い胃残が引けた際には、注入は行わずに病院に指示を仰ぎましょう。
筆者の息子は風邪で高熱が続いた時や強いてんかん発作が連続で起こった時、胃から出血を起こしたことがあります。知識として知っていても、黒色の胃残を初めて見た時は驚きました。
その他の注意点(よくある失敗)
その他の注意点として、やってしまいがちな失敗を筆者の経験から紹介します。
栄養剤がこぼれる
注入準備の際、各機器の接続があまかったりクレンメを開けたままボトルに入れてしまうなど、栄養剤をこぼしてしまうことがあります。注入を準備する前に、各部位の接続が確実かどうか、クレンメが閉じているかを確認しましょう。
栄養剤をこぼしてしまうとベタベタして片付けに苦労し、テンション下がること必至です。
内服薬でチューブがつまる
内服薬が多い場合やとけにくい内服薬を注入する場合、薬でチューブが詰まることがあります。詰まってしまうと交換が必要ですので、多めの水で溶いたり、シリンジを揺らして撹拌しながら注入しましょう。特に漢方は溶けにくく、詰まるリスクが高いです。
内服薬は水よりお湯の方が溶けやすいものが多いので、あらかじめお湯に溶かして冷ましてから注入すると良いですよ。
初めてのケアが不安なのはみんな同じ
お家に帰った後、ちゃんとケアができるのか…という不安は誰もが感じるものです。お家に帰ったからといって全てを一人で抱え込む必要はなく、困ったことは病院のスタッフや支援者に相談して、周りに頼りながら少しずつケアに慣れていけば大丈夫。
今は当たり前のように医療的ケアを行っているママやパパも、最初はみんな初心者からのスタートです。この記事を読んでいるあなたも、必ずケアができるようになりますよ!
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▼この記事はこちらのサイトを参照して執筆しました。
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