発達に特性のある子どもの子育てでは「できない」ことへの対応や「できる」ことの伸ばし方に悩まれる方が多いものです。怒ってしまったり、つい手助けしすぎてしまったり、適切な関わり方がわからず心を痛めていませんか?
そんな方に向けて、子どもの特性に合わせた効果的な関わり方を学べる「ペアレントトレーニング」の具体的な方法についてご紹介します。
ペアレントトレーニングとは
「ペアレントトレーニング」とは、発達特性のある子どもへの理解を深めながら、よりよい関係づくりを目指す育児支援プログラムです。ペアレントトレーニングを行うことで、子どもの問題行動の軽減や保護者の子育てスキルの向上、子育てへの自身の回復が期待できます。
▼ペアレントトレーニングの詳しい内容や効果については、以下の記事をご覧ください!
なお、ペアレントトレーニングは、家庭内だけで取り組むと難しいケースがあります。子どもによって課題や適切な接し方が異なるため、本などで情報を得るだけでは効果が見えにくいためです。
1から独学で行うと子どもの問題行動を強化してしまうリスクもあるため、着手時は専門的な知識のある支援者と一緒に実践するのが望ましいとされています
ペアレントトレーニングのやり方
専門家と一緒に行うのがいいのはわかるけど、難しそうでちょっとハードルが高い…
ペアレントトレーニングについて、そのような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一般的なペアレントトレーニングは「コアエレメント」と呼ばれる6つの要素を柱としたシンプルなプログラムです。
6つのコアエレメント
- 子どものよいところを探して褒める
- 子どもの行動を3つのタイプに分ける
- 子どもが達成しやすい指示を提案する
- 子どもの不適切な行動へ対応する
- 環境調整
- 行動理解
【参照】ペアレント・トレーニング実践ガイドブック|厚生労働省
では、ペアレントトレーニングは具体的にどのような手順で行われるのでしょうか。
子どもの行動を3つのタイプに分ける
子どもの行動を「好ましい」「好ましくない」「許しがたい」の3種類に分類し、それぞれに適切な対応方法を学習する方法です。
具体的な例を以下に紹介します。
【好ましい行動の例】宿題を始める食事の準備を手伝う順番を守る など |
【好ましくない行動の例】ぐずるだらだらする約束を守らない など |
【許しがたい行動の例】暴力危険な行為 など |
このように、子どもの行動を分類したうえで、それぞれの行動に対する対処を考えていきます。
子どものよいところを探して褒める
子どもが望ましい行動をした際、その子の個性に合わせて効果的に褒めたり好きな活動を提供したりすることで、ポジティブな結果をもたらすスキルを身につけられるようにします。
ポイントは「具体的な行動をその場ですぐに褒める」ことです。例えば「えらいね」という漠然とした言葉ではなく「おもちゃを箱に入れられたね!すごい!」のように、どの行動がよかったのかを具体的に伝えます。
また、子どもの性格や好みに合わせた褒め方の工夫も効果的です。大きな声で褒められるのを好む子もいれば、静かにそっと褒められるのを好む子もいます。
褒める際の表情やジェスチャー、声のトーンなども、子どもに合わせて調整していきましょう
子どもの不適切な行動へ対応する
好ましくない行動には、過度に反応するのではなく、冷静に観察しながら無視をすることで対応します。ポイントは、問題行動を起こしている子ども本人を無視するのではなく「不適切な行動に反応しないこと」、そして好ましくない行動がなくなったら「すかさず褒めること」です。
必要に応じて環境を整えたり、指示の仕方を工夫したりするのも効果的です。
ただし、ご紹介した対応は、日頃から「褒める」関わりが十分にできている場合に効果を発揮します。なぜなら、不適切な行動への対応ばかりが目立つと、かえってその行動が増えてしまう可能性があるためです。
そのため、まずは「褒める」という基本的な関わり方を確立するのが大切といえます
許しがたい行動については、以下の4段階でアプローチをします。
- やめてほしいことか代わりにやってほしいことを明確に伝える「警告」
- 好きなものや活動を一時的に制限する「ペナルティ」
- 子どもが頭を冷やすための時間を設ける「タイムアウト」
- 子どもに応じたルールを取り決めるための「家族会議」
ただし、この対応は必須ではありません。子どもの状況や家庭の方針に応じて取り入れるかを決めます。
行動理解
子どもの行動を「行動をしたきっかけ(A)」「行動そのもの(B)」「行動した結果(C)」の3つの要素に分けて分析する“ABC分析”を用います。「なぜそれをしたのか」と子どもの行動を客観的に捉え、理由を理解できるようになるのが目的です。
行動だけではなく、行動が生じる前にどのようなきっかけや状況があるか、行動をした後にどのような周囲の反応や状況があるかについて考えるイメージです
環境調整
子どもが望ましい行動を自然にとれるよう、周りの人との関わり方や物の配置、スケジュールの組み方など、生活環境を整えていく方法を学んでいきます。効果的な環境調整には、物理的な環境と心理的な環境の両方が含まれるのが特徴です。
【物理的な環境調整】
学習スペースの確保、気が散るものの除去、視覚的なスケジュール表の活用など
【心理的な環境調整】
子どもへの効果的な声かけや関わり方の工夫
子どもが達成しやすい指示を提案する
子どもへの効果的な関わり方の基本として「CCQ」と呼ばれる3つの大切な要素があります。落ち着いて(Calm)子どもの近くに寄り(Close)優しく静かな声で(Quiet)話しかけるという姿勢です。
また、例えば「片付けなさい」など抽象的な指示ではなく「赤い箱におもちゃを入れよう」というように、具体的でわかりやすい指示を出します。
【特に効果的な指示の出し方】
- 一度に一つの指示を出す
- 視線を合わせて話す
- 肯定的な言葉を使う
- 子どもが理解できる言葉を選ぶ
- 実行可能な内容にする
重要なのは、子どもが望ましい行動をしようとした、あるいは実際にした場合に適切に褒めることといえます。また、落ち着いた態度で静かな声で指示を出すと、子どもも落ち着いて受け入れやすくなるのです
ペアレントトレーニングの実践例
ペアレントトレーニングの方法はわかったけど、実際にはどう関わるの?
そんな疑問をお持ちの方に向けて、ペアレントトレーニングの実践例を3つご紹介します。
実践例1. 登校渋りへの対応
自閉スペクトラム症と診断されている小学2年生のお子さまは、朝の準備がスムーズにいかず、登校を渋っていました。学校への遅刻が失敗体験として残り、さらにプレッシャーを感じてしまっていたようです。
【実践した対応】
- 朝の準備を視覚的なチェックリストにする
- 達成できた項目を一つずつ確認
- 準備ができた項目には具体的な褒め言葉をかける
- 寝る時間を少し早めに設定する
- 前夜に制服を準備しておく
【得られた結果】
- 小さな成功体験を積み重ねられ、自信につながった
- 徐々に朝の準備がスムーズになった
実践例2.食事時の困った行動への対応
自閉スペクトラム症と診断されている4歳のお子さまは、落ち着いて食事をするのが難しく、頻繁に途中で席を立ってしまっていました。
【実践した対応】
- 食事時間を適切な長さに設定する
- タイマーを使って視覚的に時間を示す
- 席に座っていられた時間に注目して「3分間もお座りできたね!すごい!」などと具体的に褒める
【得られた結果】
- 徐々に座っていられる時間が延びた
- まとまった時間で食事ができるため、空腹による不穏が軽減した
実践例3. 宿題に取り組めない場合の対応
注意欠如・多動症と診断されている小学2年生のお子さんは、宿題に集中できないプレッシャーで、家で勉強をする意欲がない状態でした。
【実践した対応】
- 10問を2問ずつの5セットに分けるなど、課題を小分けにして取り組みやすくする
- 「2問解けたら5分休憩」など、達成可能な目標とごほうびを明確にする
- 子どもの好きな活動を休憩時間に取り入れる
【得られた結果】
- 集中できる時間が徐々に伸びた
- モチベーションが上がり、課題を解く楽しさが身に付いた
ペアレントトレーニングを受けたいと思ったら
ペアレントトレーニングは、さまざまな機関や団体で提供されています。公的機関では、都道府県が運営する発達障害者支援センターや教育センターです。
また、病院などの医療機関、大学の心理センターなどでも実施しています。さらに最近では、親の会やNPO法人、民間企業、個人事業主などでもペアレントトレーニングを提供しているのが特徴です。
「受けてみたい」「詳細を聞いてみたい」という方は、お住まいの地域から通いやすい場所を検索して相談してみてくださいね。
「ペアレントトレーニング ○○県○○市(自治体名)」で検索するほか、お住まいの地域の福祉課や子育て支援センターに直接お問い合わせして情報を得る方法もあります!
ペアトレーニングで築く笑顔の子育て
ペアレントトレーニングは、すぐに劇的な変化が現れる魔法のような方法ではないかもしれません。しかし、一つひとつの小さな変化の積み重ねで、子どもとの関係性は確実によい方向に向かっていきます。
完璧を目指す必要はありません。今日からできることから少しずつ始め、子どもの小さな成長に親子で気づいていってみてください。
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