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【専門家に聞く】医療的ケア児家庭の災害対策、まず何をすればいい?押さえるべきポイントもご紹介

医療的ケア児の災害対策
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医療的ケア児のいる家庭では、災害時の備えが不安、という方も多いのではないでしょうか。

子どもが電源が必要な医療機器を常時つけているから停電が心配

寝たきりの子を連れて避難できるかどうか不安

子どもの状態によっても必要な備えが異なり、一概に「こうすれば安心」と言えないことも不安の一因かもしれません。

そこで今回は、医療的ケア児のいる家庭では災害にどう備えればいいのか、ということについて、「医療的ケア児等防災アドバイザー」の朝永 渉(ともなが わたる)さんに話を聞きました

\お話を聞いた方/

医療的ケア児等防災アドバイザー 朝永 渉(ともなが わたる)さん 

朝永渉さんプロフィール

医療的ケア児の家族が誰一人取り残されないように、という想いで活動する防災アドバイザー。防災士、防災危機管理者、災害備蓄管理士の資格を保有。三姉妹の父で三女が医療的ケア児であることから、防災の知識に加え医療的ケア児の生活を知る立場として医療的ケア児ならではの災害対策を個人や自治体にアドバイスしている。
Instagram:@tomonagawataru

医療的ケア児等防災アドバイザーとは

佐賀県の医療的ケア児支援センターが独自に定めた、医療的ケア児の防災に関する専門家。2024年2月現在、日本には一人しかいない。防災知識を活かしつつ、医療的ケア児の親として、医療的ケア児の生活実態や必要なものなどを知っている立場から、蓄電池の購入や個別避難計画の作成についてなど、医療的ケア児ならではの災害対策をアドバイスしている。

目次

医療的ケア児のいる家庭の災害対策でまずやっておくべきことは?

1. 個別避難計画を自治体と一緒に作成する

ーー医療的ケア児がいる家庭の防災対策、まずは何からすればいいのでしょうか?

一番にやっていただきたいのは、個別避難計画の作成です。個別避難計画を作ることで、みなさんが疑問や不安に思っていることにどう対策していくのかを自治体と一緒に考えることが大切です。

個別避難計画とは?

ーー個別避難計画とは何ですか?

個別避難計画は、障害児・者や高齢者など、自力での避難が困難な人のためにそれぞれの状況を加味して作成する避難計画のことです。

あらかじめ「災害が起きたらこうする」と決めておくことによって、いざ災害が起きた時にスムーズに避難することを目指して「誰一人取り残さない防災」を目指す仕組みです。

2021年5月に施行された改正災害対策基本法により、個別避難計画の作成は自治体の努力義務となりました。

個別避難計画を作って解決できること

ーー個別避難計画を作ることによって、どんな不安が解消できるんでしょうか?

個別避難計画を作ると、たとえば以下のような疑問が解決できます

  • どこに避難したらいいのか
  • どういう状況になったらどこに行けばいいのか
  • 誰に助けてもらえるのか

医療的ケア児の親御さんに話を聞くと、まず出てくる不安が「どこに逃げたらいいの?」です

「避難所に行っていいの?」「福祉避難所には行けるの?」「自宅にいていいの?」災害が起きると、こういった状況判断が難しいですよね。それをあらかじめ決めておくのが個別避難計画です。

自宅近くの避難所や開設される予定の福祉避難所の情報などを自治体に確認しながら、子どもや家族の状況を考えてどうなったらどこに逃げる、避難する場合に誰に助けてもらう、ということを自治体や支援者などと相談して作成します。

医療的ケア児の場合、個々で状態がかなり違うので、それぞれに合った避難計画を立てる必要があります。また電源の確保など、命を守るために絶対に考えておくべきこともありますので、家庭だけで考えるのではなく、自治体や支援者を巻き込んでいかないといけません。

個別避難計画では、自治体や支援者と一緒に、個々の状況に合った避難計画を作ることができます。

ーー困ったらとりあえず病院に行けば何とかなるのでは、と思っていましたが、避難計画を立てておかないといけないんですね…

とりあえず病院、という考え方はしないほうがいいですね。特に電源が必要な医療的ケア児がいると、とにかく電源を、と思って病院に行きたくなる気持ちはとてもよくわかります。

でも、病院は避難所ではありません。しかも災害時の病院はおそらくかなり混乱しているはずです。そんな中でやみくもに駆け込んだとしても、混乱に巻き込まれるだけでしょう。

病院に行って「電源が心配」と言えば、とりあえず電源だけは貸してくれるかもしれません。でも、入院できるとか、避難させてもらえる、と考えるのは危険です。避難所じゃないので、食事も支給されないですしね。病院はあくまでも、体調が悪くなったり、怪我をした人が行く場所ですから。

「とりあえず病院に行けば何とかなる」とならないように、電源だったら他に確保できるところがないのか、貸してもらえる場所がないのか、と自治体や支援者と一緒に考え、備えておくために個別避難計画が必要なんです。

個別避難計画の作成で大切なポイント

ーーなるほど、あらかじめ「こうなったらこうする」と決めておくのが個別避難計画なのですね。作成するにあたって大切なポイントはありますか?

まず大きなポイントは、災害ごとに作成する、ということです。

一括りに「災害」と言っても、それぞれの災害で避難が必要かどうかの判断基準が全く異なります。例えば、地震が起きた時と隣の家で火災が起きた時では状況が全然違いますよね。避難するまでにかけられる時間も違うはずです。

ですので、地震、台風、水害(大雨洪水)、火災など、災害ごとにどういう状況になったらここにこうして避難する、という計画が必要なんです。

また、ハザードマップなどを参照し、家の周辺状況に合わせて作成することも大切です。

例えば、地震が起きて津波警報が出た、という場合、家が高台にあるのか、海辺にあるのかなど、同じ市に住んでいる人の中でも自宅の場所次第で避難する基準が全く変わります。自宅がある場所や周辺状況、また集合住宅の場合には何階にあるのか、などを考えて、住んでいるところは「どんな災害に弱いのか」「どんな災害の時に避難が必要なのか」ということを具体的に想定してなるべく細かく計画を立てることが望ましいと思います。

医療的ケア児がいると「こうなったらどうしよう」と色々考えてしまい不安になることも多いですよね。その「こうなったら」を想像した都度「こうする」をセットにして考えていくこと、それを一人ではなく、自治体や支援者と一緒に考えていくことがとても大切です。

2. 要支援者名簿への登録

ーー他に自治体などの支援で頼れるものはありますか?

要支援者名簿への登録もしておきましょう。要支援者名簿の作成は自治体の義務になっていますので、個別避難計画を作る時に案内があると思います。

要支援者名簿とは

災害時に自力で避難するのが難しい人を登録しておく名簿のこと。自治体に自身や家族自ら届け出ることで登録することが可能。届出を受けた自治体は、居住地を担当する民生委員や自治会、社会福祉協議会など必要な機関に情報提供を行います。関係機関ではその情報をもとに災害時の備えを検討します。

個別避難計画を立てて、要支援者名簿に登録されたら、自治体としては「助けが必要な人がここにいる」と把握することができます。この2つが完了して初めて助けが得られると思ったほうがいいです。これをしないでいると、自治体に把握してもらえずに自助のみで耐えるしかなくなってしまいます。

3. 自分たちでできる備えを準備

ーー個別避難計画の作成と要支援者名簿への登録をすることがまずは大事なのですね。それができたら、次は何をするのがいいでしょうか。

家庭内でできる備えを準備しておくのがいいと思います。

災害時は、まず自助、そして共助、公助の順になるのが基本です。自分たちでできることは自分たちで備えておかないといけません。一般的な災害への備えの他に医療的ケア児の家庭で最低限備えておく必要があることは以下のようなものがあります。

  • 非常用電源
  • 栄養剤やレトルトなど、子どもに合った食料や栄養
  • 服用している薬
  • ケアに必要な物品・衛生用品(ガーゼやアルコール綿など)
  • 家族にとって必要なもの

電源についてはよく「何日分あれば足りますか?」「何を用意すればいいですか?」と質問されるんですが、とても答えが難しい問題です。使っている医療機器によって違うからです。

使っている器具や医療機器メーカーが何か、何年製のもので、どれくらいの期間・頻度で使用しているのかなどでバッテリーの劣化具合なども異なりますし、適している非常用バッテリーのメーカーなども変わってくるんです。

ですので、医療機器メーカーの方やかかりつけ医などとよく相談し、必要な備えをしておかないといけません。

ちなみに我が家の備えを少し紹介すると、電源に関しては、非常用バッテリー発電機、そして、車のシガーソケットから電源が取れるような変換器を準備しています。変換器はカー用品店でも手に入りますので、見ておくといいと思います。

水や食料、薬や衛生用品などは最低3日分用意しておきましょう。それで不安な場合は1週間程度あるといいですね。栄養剤や薬、衛生用品など病院から処方や支給されるものについては「災害に備えておきたい」と伝え1週間分ほど多めにもらっておくと安心です。

それと忘れてはいけないのが家族の備えです。医療的ケア児のいるご家庭ではどうしても、子どものことを優先して準備しがちです。でも、お父さんやお母さん、きょうだいだって災害時に生きていかないといけません。医療的ケア児の備えだけでなく、ご自身やご家族の備えについても忘れないようにしてくださいね。

これをやっておくとより安心な備え

ーーさらにこれをやっておくと安心、という備えはありますか?

ここまでお伝えした備えは最低限やっておいたほうがいいと思いますが、必須とは言えないまでも他にもしておくといいことがあります。

1. コミュニティに加入しておく

医療的ケア児の家族会などに参加しておくと情報が入ってきやすくなります。能登半島地震の時には、医療的ケア児の家族会が中心になって安否確認など情報の取りまとめをしていたようです。

また、全国規模の医療的ケア児の家族会では、家族会を通じて必要な物資を全国に依頼しスムーズに支援が届いたケースもありました。

2. 避難訓練

個別避難計画をもとに、避難訓練までできるとベストです。

避難訓練も地震の時、水害の時、など何の災害の避難訓練なのかを設定し、また子どもがどこにいる時(学校や放課後等デイサービスなどの外にいる時か、自宅かなど)に発生するのかなど、細かく想定して実施できるといいですね。

いつ起きても安心なように個別避難計画の作成で漠然とした不安を解消しよう

ここまでお聞きした医療的ケア児の災害対策についてまとめます。

  1. 「とりあえず病院に行く」と考えずに個別避難計画を立てる
  2. 要支援者名簿に登録する
  3. 助けてもらいたいことを関係者にお願いする
  4. 自分たちでできる備えをしておく

医療的ケア児は個々の状態が大きく違うため、災害対策は、「ここまでできていれば安心」という基準がありません。考えられるケースをなるべく多く想定して、それに対して一つひとつ、個別避難計画を立てることで対策をしていくことがとても大切です。

その際には一人で考えず、家族や支援者、自治体と一緒に考えましょう。



ファミケアの掲載記事およびコラムに関しては、当事者および専門家によって作成しておりますが、全ての方に当てはまる情報ではございません。投稿された情報の利用により生じた損害について、ファミケア運営元では責任を負いかねますので、あくまでもご家庭での判断のもと参考情報としてご利用ください。また、特定の施設や商品、サービスの利用を推奨するものではありません。

医療的ケア児の災害対策

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この記事を書いた人

書くこと大好きなライター。7歳の息子が遺伝子疾患を持つ医療的ケア児です。子どもを育てる過程で知った社会の生きづらさや情報格差に衝撃を受け、障がい児を育てるための情報がもっと手に入りやすくなるよう発信しています。

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