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揺れながら進む—腎不全の子を育てながら思うこと

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目次

生まれてすぐに知ったこと

家族4人で歩く様子


私たち夫婦は出産後しばらくした頃、息子が腎不全の状態にあると知らされました。

両方の腎臓が生まれつき小さく、機能が十分に働いていない――
「両側腎低形成」であると診断を受けました。

片腕にすっぽり収まるほど小さな子どもを抱きながら、私は主治医の話を聞いていました。
その手の中に眠っていた息子の体温と重み。
言葉の意味がすぐに飲み込めなかったこと。
でも胸の奥がずっとざわついていたこと。
その瞬間の感覚を、私は今でも忘れられません。

主治医が告げたのは「ステージ4」
腎不全のなかでも、末期腎不全と言われるエンドステージのひとつ手前でした。

「透析や移植がいずれ必要になる」
「何もしないという選択肢もある」

静かに、けれど現実的に、そう伝えられました。

私はその時、泣くことも、感情を揺らすことも、あまりしなかった記憶があります。
ほんの少しでも心がグラついたら、きっともう起き上がれなくなる。
それが、何よりも怖かったのだと思います。

“大人にする”という言葉がくれた覚悟

主治医が言った言葉が、今も心に残っています。

「目標は、この子を“大人にする”ことです」

おそらくそれは、18歳まで腎不全の管理をしながら命をつなぐ、という意味だったと思います。
でも私にとっては、それ以上のものでした。

「大人になれない未来もある」という現実を、
はっきりと突きつけられた気がしたのです。

それと同時に、「親としての責任」の重さが心に刻まれました。
この子の命の選択を、私たちがこれから何度も決断していく。
そう思ったとき、私は静かにそうするしかないと思いました。
「覚悟」なんて、本当は決めきれていなかったけれど、そうするしかないと思ったのです。

家に帰った夜、夫は眠りながら泣いていました。
そして、泣きながら目を覚ましたときのその顔を、私はただ見つめることしかできませんでした。

気持ちは寄り添っているのに、声が出ませんでした。
崩れてしまうことが、とにかく怖くて。
自分自身の感情に、ふたをするしかなかったです。

今思えば、言葉などなくとも、そっと背中をさすったりしてあげるべきだったと思います。

親が舵を握るということ

透析にするのか、移植を目指すのか、何もしないのか。
いずれ選ばなくてはいけない時が来ます。
どれも正解のない問いです。

信頼できる医療者がそばにいてくれることは、本当に心強いです。
それでも、「選ぶ」のは親である私たちです。

その実感は、時にプレッシャーとしてのしかかってきます。
どの方向を向いても、「親としての選択」が問われる。
その舵を握る重さと怖さを、私は知りました。

違う景色でむかえた「そのとき」

あれから8年が経ちました。息子はいま小学2年生です。

あのとき想像していたような激しい波乱や悲劇は、今のところ訪れていません。
むしろ、思いのほか、穏やかな日々が流れています。

息子の笑顔があって、家族の時間があって、信頼する医療者や支援者の方々、そして共に子育てをする仲間がいます。

もしかしたら、あの時が一番つらかったのかもしれない。
そう思えるほど、今は穏やかな風景の中に、私たちは暮らしています。

そんな中で、最近になって、息子の腎機能がとうとう落ち始めました。
あのとき予告された「その時」が、ついに現実のものとなって、目の前に来ています。

不安がないわけではありません。
だけど、あの頃の私とは違っています。

今では「腎不全」と聞いても、そして「透析」や「腎移植」という言葉を聞いても、必ずしも悲観的な気持ちになるわけではありません。
すべては息子の人生におけるステップのひとつなんだと思えるようになりました。

息子の入学式前の記念写真

息子が「自分の人生」を生きていけるように

舵を、今も私と夫は握っています。

でも、あの頃のように全力で握りしめるのではなく、
今はそっと、軽く手を添えるような感覚です。

必要なときだけ力を入れて、方向を調整する。
いつの間にか、そんなふうに力の使い方が変わっていました。

舵取りを間違えることもあるかもしれません。
でも、それでも、絶対に手放しません。
この子の人生に、私はこれからも関わっていきたいです。

そしてこの舵を、いつかは少しずつ、息子自身に渡していけたらと思っています。

どんな体の状態であっても、将来「自立」が叶わなくても、
この子が「自分の人生」を生きていけるように。

そのとき、「大人になった」と、私は初めて心から感じるのかもしれません。
その日がくることを願って、私はこれからもそばで見守り、支え続けていきたいです。

さいごに

疾患・障がい児の子育て中には、どうしようもない選択や、受け入れがたい現実もたくさんあります。

私もまだ揺れています。
でも、その中で、心から「幸せだ」と思える瞬間があります。

それはきっと、あのとき。
恐る恐る舵を握った私と夫が、今ここまで連れてきてくれたからだと思います。

この文章は、自分自身を確かめていくための記録として残したいと思って書きました。

でも、もしもこの文章を読んでくれた誰かが、ほんの少しだけでも「ひとりじゃない」と感じてくれたなら。

それは、私にとって、とても大きな意味のあることです。
揺れながらでも、大丈夫。一緒に、進んでいきましょう。


ファミケアの掲載記事およびコラムに関しては、当事者および専門家によって作成しておりますが、全ての方に当てはまる情報ではございません。投稿された情報の利用により生じた損害について、ファミケア運営元では責任を負いかねますので、あくまでもご家庭での判断のもと参考情報としてご利用ください。また、特定の施設や商品、サービスの利用を推奨するものではありません。

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この記事を書いた人

二児の母でフリーライター。ファミケアではファミケア支援検索サービスを担当しています。

息子は2017年生まれの動ける医療的ケア児です。経管栄養(胃ろう)を使用中。現在は地域の支援級に通う鉄道大好き少年です。
娘は2021年生れで歌って踊るのが大好きなきょうだい児です。

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