医療的ケアが必要でありながら、運動面での障がいがなく、歩いたり走ったりできる子どもを「動ける医療的ケア児」といいます。そんな動ける医療的ケア児を育てる多くのご家族が直面するのが「子どもの預け先」の問題です。
保育園に入れない
受け入れ可能な児童発達支援や放課後等デイサービスが見つからない
子どもの預け先の探し方がわからない
こうした悩みを抱えているご家族も多いのではないでしょうか? 今回は、7歳の動ける医療的ケア児を育てる筆者の経験をもとに、事業所探しの難しさやその対処法についてお伝えします。
▼動ける医療的ケア児の解説はこちら
動ける医療的ケア児は施設や事業所探しが難しい
動ける医療的ケア児は、医療的ケアがありつつも、歩けることや障害者手帳の交付対象ではないことで、受け入れ可能な施設や事業所を見つけることが難しい場合があります。医療的ケア児向けの施設は、寝たきりの子どもや身体障害のある子どもの受け入れを想定している場合が多く、動ける医療的ケア児を受け入れるための人員配置や設備になっていないことがあるためです。
特に保育園や児童発達支援、放課後等デイサービスなど、日常的な居場所を探す際に苦労することは多く、受け入れ先がない場合、子どもが集団生活の場を経験できないという問題にもつながります。
預け先が見つからない場合、家庭での見守りが必要となり、家族だけで日中の介護を担うことになります。これは家族にとって大きな負担であり、精神的にも肉体的にもつらい状況です。
受け入れ先を探すことが難しく、選択肢も少ないという状況は当事者家族にとって大きな不安材料です。
事業所探しが難しい理由
サービスの対象から外れてしまう
疾患・障がい児が利用する福祉サービスでは、各事業者ごとに障がいの程度や障害者手帳の有無などによって、対象となる利用者が設定されています。対象者の要件に合致しない場合、希望する事業所を利用することができません。
例えば、看護師が常駐している施設であっても、重症心身障害児のみが対象となっているために対象とはならないということはよくあるケースです。また、障がいの程度としては対象に含まれていたとしても、看護師がいないために医療行為を実施できず、受け入れが難しいことも多々あります。
これは「医療的ケアがある」かつ「歩くことができる」場合によっては「障害者手帳がない」という状況において、制度の狭間にいる子ども達と家族が直面する壁の典型的な例です。
筆者も「制度の狭間で苦しむ」という感覚を強く感じています。「我が子の存在が社会的に認知されていない、存在していないかのように扱われている」という思いに胸が痛むこともあります。
子どもの状態説明や事業所探しが負担で疲れてしまう
事業所を自分たちで探そうと思うと、家族が多くの問い合わせを行い、丁寧に子どもの状態を説明しなければいけません。電話や訪問でのやり取りを繰り返す中で、精神的にも身体的にも大きな負担がかかり、疲弊してしまうことがあります。
筆者自身も、何度も電話で断られ続けた結果「もう何もしたくない。電話1本かけるのも嫌だ」という気持ちになった経験があります。後に紹介する相談先や支援機関を活用してみることで、少しずつ状況を変えられる可能性もあります。
成長に伴う退所のリスク
なんとか事業所と契約ができたとしても、成長や子どもの発達に伴い、途中でサービスの対象から外れてしまうリスクがあります。
例えば、これまでズリばいなどの移動方法だった子どもが歩けるようになると、他の児童との接触リスクや施設の人員不足を理由に、退所を促されるケースがあります。この場合、次の受け入れ先が見つかるまでに時間がかかることも多く、家族が自宅でケアをする状況が長引くことも。
そのため、事業所探しをする際には、「成長に伴いできることが増えた場合、退所になる可能性があるかどうか」を確認することが重要です。
もしそのような事態が発生した場合に備え、次の受け皿について事前に支援者と話し合っておくことも、家族の不安を軽減するために必要かもしれません。
受け入れ施設が見つからない時の対処法
事業所へ直接問い合せてみる
事業所のウェブサイトなどで、我が子の状態では支援の対象外であることが記載されていたとしても、まずは直接問い合わせてみることをおすすめします。実際に相談してみると、受け入れの検討をしてくれる事業所があったり、近隣で受け入れ可能な施設や事業所の情報など、代替案を提示してくれたりする場合もあります。
直接の交渉はどうしても精神的な負担になることがあります。そのため、ご自身が無理のない範囲で進めることが大切です。「電話一本かけるだけなのに腰が重い…」と感じてしまっても、自分を責める必要はありません。少しずつ可能な範囲で進めてみてくださいね。
各種相談機関へ相談する
事業所探しをする際には、下記のような機関へ相談することが可能です。
- 相談支援事業所
- 児童発達支援センターや療育センター
- かかりつけ病院の地域連携室
- 医療的ケア児支援センター
相談する時のポイントは以下の3点です。
動ける医療的ケア児だからこそ困っている状況(制度の狭間であること)を説明する
子どもの状況を説明する際に「動ける医療的ケア児です」という言葉だけでは、残念ながら家族の困りごとが担当者へ十分に伝わらないことがあるかもしれません。医療的ケアが必要でありながらも動けるため、受け入れ施設が見つからないという現状を丁寧に伝えることが大切です。
困っていることを具体的に伝える
現在直面している生活の困りごとを具体的に伝えましょう。
例)日中の預け先が無く仕事ができない
夜間のケアは負担が大きく、十分な睡眠が取れていない
具体的な要望を伝える。
こちら側の相談内容や求めている支援が明確だと、担当者からの提案も的確なものが返ってきやすくなります。
例)受け入れ可能な児童発達支援を探したい
夜間ヘルパーの利用は可能か?受け入れ可能な事業所はあるか?
既に関わりのある支援者から情報を集める
既に療育センターや訪問サービス等の支援を利用している場合は、関わりのある支援者の方から情報を集めるという手もあります。「困りごとがある」という状況を支援者と共有することでより良い支援体制作りにも繋がります。
困りごとがある場合や小さな気になることでも、常に周りへの意思表示を意識的にし続けることを筆者は大切にしています。
当事者家族から情報を集める
家族会やオンラインコミュニティなどに参加し、他の家族からのアドバイスを受けるのも良い方法です。地域の情報や他の事業所の経験談が参考になることがあります。
ファミケアアプリでは全国の情報を集めることが可能です。是非ご活用ください。
▼ファミケアQAアプリ
動ける医療的ケア児の受け入れ施設がない問題は解決されるべき課題
動ける医療的ケア児は制度の隙間に陥りやすく、当事者家族にとって事業所探しの負担が大きいという現実があります。
交渉をすることや困りごとを相手に伝えることは、精神的に疲れるものです。しかし現状として、動ける医療的ケア児を育てる家族にとって、それはどうしても避けられないプロセスかもしれません。ただし、情報集めから問い合わせまですべてを一人で抱え込まなくても済む方法はあります。各種相談機関や信頼できる支援者を頼りながら、ご自身のペースで進めていくことが大切です。
困ったときや混乱したときには、ぜひ周りに頼ってください。動ける医療的ケア児を育てる家族が「自分はひとりではない」と感じられるように、筆者も当事者家族として一緒に歩んでいきたいと思っています。
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