安全な呼吸を確保するための手術である、気管切開。気管切開をすると、気管カニューレという医療器具の使用が必要です。カニューレは、呼吸を保つためにとても大切な役割を果たしています。
この記事では、気管カニューレとは何か、使用目的について現役看護師である筆者が解説していきます。また、カニューレの種類やそれぞれのメリットデメリット、日々のケアについても紹介します。
医師 おkら先生
呼吸器専門医、がん薬物療法専門医、総合内科専門医。嚥下機能評価研修会修了、医療型児童発達支援/放課後等デイサービスの嘱託医。仕事大好き、2児の母。長男がダウン症、気管切開をしている医療的ケア児。障害児を育てる環境が優しくなって欲しい。その為に自分に何か出来る事はないかと日々考えています。
X:@oke_et_al,ブログ:じょいく児。
気管カニューレとは
気管カニューレとは、気管切開の手術をして作成した穴(気切孔)に挿入するチューブのことです。在宅で、挿管しての人工呼吸器を使用する場合に、人工呼吸器を接続するためにも必要です。
こちらのイラストにある、水色の管がカニューレです。せっかく気管切開の手術をしても、気切孔をそのままにしておくとふさがってしまう恐れがあります。そのため、カニューレと呼ばれるチューブを常時挿入しておくことで空気の通り道を確保するのです。
▼気管切開について、詳しくはこちらの記事で解説しています
気管カニューレの種類
カニューレの種類は大きく分けるとカフありとカフなしの2種類です。カフとはカニューレの先端についている風船のことで、膨らませることでカニューレと気管の間の隙間をなくす役割があります。
更にそこから、カニューレが1本の筒になっているもの(単管)と2重構造になっているもの(複管)に分けられます。
それぞれにメリット、デメリットがあり、一人ひとりの疾患や身体の状態に適したカニューレを医師が選択します。
カフありカニューレ
カフありカニューレは、カニューレに風船(カフ)がついています。カフエアチューブから空気を入れてカフを膨らませることで、気管壁に隙間がないようにすることができます。
メリット
カフありカニューレのメリットは、誤嚥を防止できる点です。カフによって唾液をせき止める形となり、唾液の垂れ込みを防ぐことができます。
人工呼吸器を使用する場合は、カフがあることで肺に送られる空気の量を保つことができます。気管壁に隙間があると、人工呼吸器から気切孔を通って送られた空気が口側に漏れ出てしまい、肺に入る空気の量(換気量)が少なくなってしまいます。そのため、成人では人工呼吸器を使用している場合はカフ付きカニューレを選択するのが一般的です。
一方、小児の場合は気管がデリケートなため、カフの刺激で傷がつく恐れがあります。小児では、喉にある気管を覆っている軟骨(輪状軟骨)が自然に狭くなる構造になっており、カフがなくても密閉性を保てることから、カフなしカニューレが選択されることが多いです。しかし近年では、医療機器の進歩によってカフ付きカニューレも使用される場合もあります。
デメリット
カフありカニューレのデメリットは、カフ圧の管理・調整が必要であることです。カフ圧とはカフ(風船)の膨らみ具合のことです。
カフが膨らみすぎていると気管壁に圧力がかかり、傷や肉芽ができる原因になります。逆に膨らんでいないと気管とカフの間に隙間ができてしまいます。カフの空気は少しずつ減ってしまうことがあるので、適切なカフ圧となっているか適宜確認が必要です。
もう一つのデメリットは、口側に空気の流れができないことで声帯が委縮し、声帯の発達が促されないことです。そのため、将来的に気管切開を閉じることのできる可能性がある子どもに対しては、カフなしカニューレが選択される場合が多いです。
カフなしカニューレ
カフなしカニューレは、カフ(風船)がついていないカニューレです。人工呼吸器の使用がなく、誤嚥の心配も少ない場合に選択されることが多いです。
メリット
カフなしカニューレのメリットは、カフありカニューレと比べて気管壁への刺激や異物感が少ないことです。カフありカニューレを使用していて痰量が多いケースでは、カフなしカニューレに変更することで気管への刺激が減り、痰が少なくなることもあります。また、声帯の発達も促されます。
デメリット
デメリットは、事故抜去が起こりやすいことです。カフありカニューレではカフがストッパーとなって比較的抜けにくいですが、カフなしカニューレは容易に抜けてしまうので注意が必要です。
また、気管壁の間に隙間ができるので唾液の垂れ込みや誤嚥は防止できません。
単管カニューレ・複管カニューレ
カフの有無以外にも、単管・複管と呼ばれる構造の違いもあります。単管は1本の筒ができているイメージで、複管は2重の筒ができているイメージです。
複管カニューレの構造
複管は外筒と内筒で構成されており、外筒の中に内筒をはめて使用します。内筒は簡単に取り外しが可能です。
複管の使用が適しているケースは、痰量が多い場合です。痰の量が多いと、痰がカニューレ内部にこびりついて詰まってしまうことがあります。カニューレが詰まってしまうと空気の通り道がなくなって呼吸ができなくなりますので、早急に交換が必要です。
単管であればカニューレごと交換が必要となりますが、複管を使用していれば、痰で汚れた内筒を取り換えることでカニューレを綺麗なまま保つことができます。
複管のデメリットとしては、2重になっている分、同じ太さの単管よりも内径が狭くなるため、空気の通りが悪く呼吸の負荷が大きくなることがあります。
構造の違い以外に、カニューレのカーブの角度や太さ、長さなども様々なタイプのものがあります。多数のカニューレの中から、医師が状態にあった最適なものを選びます。
スピーチカニューレ・スピーチバルブ
スピーチカニューレ、スピーチバルブとは発声専用の器具です。
人は声帯を空気で振動させることで声を出しています。通常のカニューレでは気切孔から空気が通るため、基本的に声を出すことはできませんが、スピーチカニューレは管の側面に穴が開いており、口のほうに向けて空気が通りやすい構造になっています。
スピーチバルブは気切孔につけて使います。スピーチカニューレとセットで使用することもあれば、カフなしカニューレの場合はバルブのみで使用することもあります。息を吐くときにはバルブが閉じる一方弁の構造となっており、吐いた空気が気切孔から漏れ出ることなく口から吐き出すことができます。
スピーチカニューレは通常のカニューレよりも空気の通り道が狭く、呼吸に負荷がかかりやすいため、子どもの状態によっては使用ができません。
その他の発声方法として、カフなしカニューレを使用している子どもでは、気管壁の隙間から通る空気で声を出すことが可能なことがあります。
気管カニューレの管理
気管カニューレを使用する場合は、カニューレが詰まったり、抜けたりしてしまわないように管理する必要があります。
カニューレの交換
カニューレは一定頻度で交換の必要があります。交換頻度は種類によって異なるものの、多くは2週間から4週間ごとの交換です。交換は基本的には医師が行います。気切孔が安定しており、主治医の許可があれば家族でも交換が実施可能です。
カニューレバンドでの固定
カニューレは、カニューレバンドと呼ばれる紐のようなもので首に固定します。固定が不十分だと抜けてしまう恐れがあるので、注意が必要です。カニューレバンドは医療物品として支給されることが多いですが、布やマジックテープを使用して、手作りしている家庭もあります。また、障がい児向けのネットショップで購入することも可能です。
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首元に常にバンドを巻いている状態となるため、特に夏場は汗が溜まり、かぶれなどが起こりやすいです。定期的にバンドを交換したり、首元を拭いたりしてあげましょう。
皮膚の観察
気切孔は一般的にYガーゼで保護します。汚れた時や入浴時は新しいガーゼに交換して、清潔を保ちましょう。出血や分泌物の有無、肉芽ができていないかも観察します。
肉芽とは、柔らかいおできのようなできもののことです。肉芽があると、カニューレ交換の際に出血することがありますので、注意が必要です。
吸引
痰が溜まっているとカニューレ詰まりの原因となりますので、適宜吸引を行います。
気管内吸引を行う際の注意点は、気管と鼻・口で同じカテーテルを使用しないことです。気管の中は無菌であるため、鼻や口に使用した吸引カテーテルを気管にも使ってしまうと、雑菌が入ってしまいます。カテーテルと通し水は別々に準備しましょう。
▼吸引について詳しくはこちらの記事で解説しています
入浴する時の注意点
入浴する時は、気切孔に水が入らないよう注意する必要があります。
湯船に浸かる時は肩から下まで、シャンプーの時は首元に水がかからないように気をつけましょう。
シャンプーの時はスタイ状のカバーを使用すると便利です。湯船に浸かる際は、肩に温めたタオルをかけてあげると気持ちいいですよ。
▼スタイ状カバーの一例。本来は散髪時に使用する製品のため、あくまで形状の例としてご参考になさってください。
気管カニューレが抜けてしまったら
気管カニューレが抜けてしまった場合、直ちにその場でカニューレを再挿入して受診するのが基本です。
気管切開を行った方は、気切孔から呼吸をしています。カニューレが抜けてしまうと呼吸が保てなくなってしまう恐れがあり、特に人工呼吸器を使用している場合は非常に危険です。そのため、ケアをする方や家族はいざという時にそなえ挿入できるように練習しておくことが大変重要です。
カニューレ事故抜去時の対応については、子どもの状態によっても対処法が異なる場合がありますので、事前に必ず医師と話し合っておきましょう。抜去時のシミュレーションもしておくと、より安心です。
実際に事故抜去が起こった際には、「冷静に…」と思っていても確実に慌てます。事故抜去時の対応や連絡先をまとめて、見えやすいところに貼っておくなど、普段から緊急時に備えておくことが大切です。
気管カニューレは大切な身体の一部!
気管カニューレには多くの種類があり、その中から子どもにあったカニューレを選択します。カニューレは、呼吸を保つための大切な身体の一部なのです。
カニューレが役割を果たせるのも、毎日の管理のおかげ!ママやパパの日々の頑張りが、カニューレと子どもを支えているのです。
いつも頑張ってくれているパパ、ママはすごいんだね!毎日お疲れさま!
【参考】
カニューレ _ 看護師の用語辞典 _ 看護roo![カンゴルー]
https://www.kango-roo.com/word/4792
気管切開後のトラブル _ 国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/kidou/kikantrouble.html
子どもの気管切開なび|国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/geka/navi
カフ【ナース専科】
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