「医療的ケア」と一口にいっても種類はさまざまです。実は全部で14項目あり、それぞれ必要な理由が異なるほか、種類によって医療的ケアが実施できる人・できない人も違います。
今回は、医療的ケアとは何かや医療的ケアができる人、14項目の医療的ケアをカテゴリー別に紹介します。
医師 おkら先生
呼吸器専門医、がん薬物療法専門医、総合内科専門医。嚥下機能評価研修会修了、医療型児童発達支援/放課後等デイサービスの嘱託医。仕事大好き、2児の母。長男がダウン症、気管切開をしている医療的ケア児。障害児を育てる環境が優しくなって欲しい。その為に自分に何か出来る事はないかと日々考えています。
X:@oke_et_al,ブログ:じょいく児。
医療的ケアとは
病院のような医療機関以外での場所、例えば、家や学校などで日常的に継続して行われる医療的な生活援助行為を医療的ケアといいます。
令和3年度障害福祉サービス等報酬改定で設けられた医療的ケアの判定スコアでは、医療的ケアの種類として次の14項目があげられています。
1.人工呼吸器
2.気管切開の管理
3.鼻咽頭エアウェイの管理
4.酸素療法
5.吸引
6.ネブライザーの管理
7.経管栄養
8.中心静脈カテーテルの管理
9.皮下注射
10.血糖測定
11.継続的な透析
12.導尿
13.排便管理
14.痙攣時の坐剤挿入、吸引、酸素投与、迷走神経刺激装置の作動等などの処置
【参照】令和3年度報酬改定における医療的ケア児に係る報酬(児童発達支援及び放課後等デイサービス)の取扱い等について|厚生労働省
1.人工呼吸器2.気管切開の管URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000763142.pdf
▼医療的ケアを受けながら生活する子ども医療的ケア児についてはこちら
医療的ケアができる人と医行為
医師のみができる「医行為」と違い、医療的ケアは医師以外でも実施可能です。ただし、誰もがどんな医療的ケアもできるというわけではありません。
医行為とは
「医行為」とは、傷や病気の診断や治療、予防のために、医学に基づいて行われる行為のこと。医師以外が行うと人体に危険を及ぼすおそれがあるため、医師免許を持っていない人が医行為を行うことは法律で禁じられています。
資格がなくても医療的ケアはできる?
医療的ケアができるのは、家族を除けば基本的には医師や看護師などの医療資格保有者に限られます。ただし、一定の条件を満たせば資格がなくても医療的ケアができます。
例えば介護職員など、家族や医療従事者以外の介護者が医療的ケアを担う場合は、特定の研修を受け医療的ケアの手技を獲得すれば「たんの吸引」と「経管栄養の一部」に限って実施することが可能です。
障がいや疾患があっても在宅生活を送れる人が増えてきたという時代背景もあり、日常生活の援助のための医行為を「医療的ケア」と称し医師や看護師以外でも一定条件のもとで実施可能となりました。
ただし、「たんの吸引」と「経管栄養の一部」以外の医療的ケアについては医師や医師に指示を受けた看護師のみが実施可能です。
医療的ケアの種類
14項目あるそれぞれの医療的ケアについて、カテゴリー別に簡単に説明します。
呼吸に関する医療的ケア
人工呼吸器
自力で呼吸することが難しい場合に使用する機械のことで、肺に空気を送り込みます。
気管に管を挿入する(気管切開)処置をして行うものと、鼻マスクや口鼻マスク、顔マスクなどを装着して行うものの2種類あります。
息子は24時間人工呼吸器を使用しています。生後3ヶ月で気管切開し、カニューレを装着して穴の空いた気管から空気を取り入れています。人工呼吸器には、呼吸回数や分時換気量などが表示されています。
▼人工呼吸器についてはこちらの記事で解説しています
吸引
気道に溜まった痰や唾液などを電動の吸引器に繋いだチューブとカテーテルを使用して取り除く行為です。
自力で痰や唾液を外に出すことが難しい子どもに行います。
カテーテルは、口や鼻、気管切開を行っている場合は気管切開カニューレに挿入し、吸引します。
息子は口鼻と気管切開カニューレから吸引を行っています。筋肉が弱い疾患である息子の場合は、自力で痰を吐き出すことが難しく、飲み込む力も弱いので、溜まった痰や唾液を随時吸引するようにしています。
▼吸引についてはこちらの記事で解説しています
気管切開の管理
首の気管に穴を開け、カニューレを差し込んで、呼吸を補助するための処置である気管切開部の管理です。
呼吸をするのが難しい人や人工呼吸器を使用する人、唾液が気管に垂れ込み誤嚥を起こしやすい人などが気管切開を行います。
首とカニューレの間にY字にカットが入ったYガーゼというガーゼを挟み、バンドでカニューレを固定します。Yガーゼが清潔に保たれるように交換したり、カニューレを定期的に交換したりと、管理が必要です。
気管切開をしている息子の場合は、Yガーゼは毎日交換し、カニューレは1ヶ月に1回交換するようにしています。
▼気管切開についてはこちらの記事で解説しています
経鼻エアウェイ
口鼻〜喉までの上気道の通りが狭いときに空気の通り道を確保するために挿入する柔らかいチューブのことです。
経鼻エアウェイを使うことで呼吸状態が改善されると、気管切開をしなくてもよい場合があります。
酸素療法
身体に不足する酸素を外から取り入れる方法です。
主に、心臓や肺の病気で、空気中にある酸素だけでは十分に身体に酸素がいきわたらない人に行うことが多いです。また、一時的に身体の状態がよくない場合にも使用することもあります。
酸素濃縮器や酸素ボンベから出る酸素を、チューブを通して身体に取り入れられるようになっています。
息子の場合は、元気なときは酸素療法は行っておりません。しかし体調を崩し酸素飽和濃度が通常より低くなってしまったり、呼吸状態がよくなかったりするときに酸素濃縮器を人工呼吸器にチューブで接続し、使用しています。また、出かけるときは万が一のために酸素ボンベを持ち歩くようにしています。
ネブライザーの管理
ネブライザーとは吸入するための機械のことです。霧状にした薬剤や水分を気道に送り、固くなった痰を出しやすくしたり気道の炎症を抑えたりします。
特に空気が乾燥しやすい冬の時期は痰が固まりやすく、吸引がしづらくなり痰がたまってしまうので、ネブライザーを使用して痰を柔らかくし吸引しやすくします。
栄養に関する医療的ケア
経管栄養
経管栄養は、口から食事をすることが難しい子どものための栄養補給方法です。チューブから栄養剤や流動食を注入します。
種類は経鼻経管栄養、経鼻経腸栄養、胃ろう、腸ろうの4種類あります。子どもの状態や成長によって、行う経管栄養も変わってきます。
▼経管栄養の詳細についてはこちらの記事を読んでみてください
中心静脈カテーテルの管理
口からの栄養摂取が難しく、消化機能が低下している場合に、心臓近くの太い静脈に中心静脈カテーテルという管を留置してを水分や電解質、栄養剤を血管から直接補給することを中心静脈栄養といいます。がんなどで疼痛のコントロールを点滴で行いたいときに使用されることもあります。
中心静脈カテーテルの先端が右心房近くにあるため、感染に一番注意しなければいけません。またカテーテルの固定がしっかりとされているか確認することが重要です。
排泄に関する医療的ケア
導尿
専用のカテーテルを、尿道から膀胱まで挿入して尿を出せるようにします。自力で排尿することが難しい人に行います。
排便管理
排便管理には、消化管ストーマや洗腸、摘便、浣腸があります。
消化管ストーマとは肛門から排便できない子どもに対して腸につくられ、パウチという袋に便がたまる仕組みになっています。
洗腸は消化管ストーマからあたたかいお湯を注入して、腸にたまった便を強制的に排泄することです。
摘便や浣腸は、腸に便がたまって自力で排泄できないときに行う処置です。
▼ストーマについてはこちらの記事で解説しています
その他の医療的ケア
皮下注射
糖尿病の人が血糖のコントロールのため、インスリンなどのホルモンを注射し補うことです。
血糖測定
1型糖尿病のような血糖のコントロールを数字を見ながら行わないといけない人に対して定期的に行う測定のことです。
継続的な透析
透析とは、腎臓の機能が低下している人が、腎臓の代わりに老廃物や水分を除去する方法です。透析には種類があり、腹膜透析と血液透析の2つありますが、子どもの場合は在宅で行える腹膜透析が多いです。
痙攣時の処置
痙攣とは、自分の意思とは関係なく筋肉に力が入ったり意識がなくなったりする状態のことをさし、身体がふるえたりこわばったりします。痙攣が起きたときは、酸素療法や吸引、座薬挿入などを行います。
医療的ケアの項目は全部で14!それぞれの医療的ケアの特徴を理解しよう
医療的ケアは、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定で設けられた判定スコアによると、全部で14項目です。
医療的ケアは一定期間、訓練や研修をするなど条件を満たせば、医療従事者ではない介護者でも行うことができます。
呼吸に関する医療的ケアや栄養に関する医療的ケア、排泄に関する医療的ケア、その他医療的ケアとカテゴリーに分類でき、それぞれに特徴があります。
子どもが障がいや疾患がある状態で生まれてくると、医療的ケアが必要になる場合は少なくありません。また、今は医療的ケアが必要なくても、後々医療的ケアが必要になってくる場合もあります。
14項目ある医療的ケアの特徴や目的を理解して、適切なケアができるようにしましょう。
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