てんかんを持っている子どもと接するときに、「怖いな」と思ってしまうことはないでしょうか?
みている時に発作が起きたらどうしよう
発作が起きた時にちゃんと対応できる自信がない
こういった理由で、保育園や幼稚園に受け入れてもらえない、という子どもも中にはいます。
でも、てんかんは本当にそんなに「怖い」病気なのでしょうか。
そこでファミケアでは、2月12日の世界てんかんの日特別企画として、てんかんについてより深く知るため、てんかんの子どもがいる親御さんにインタビューを行いました。てんかんとは何か?てんかんの子どもと接するにはどんなところに気をつけたらいいのか?などについて、実際の症状や生活を交えてお伝えしていきます。
世界てんかんの日とは
世界てんかんの日は、国際てんかん協会(International Bureau for Epilepsy/IBE)と国際抗てんかん連盟 (International League Against Epilepsy/ILAE)によって、2015年に定められました。毎年2月第二月曜日となっており、バレンタインデーの直前月曜となっているのですが、これはヨーロッパを中心に、聖人「聖バレンタイン」がてんかんの庇護者と称えられているからです。
てんかんとは?
てんかんについて、神戸大学医学部附属病院のてんかん治療専門機関、てんかんセンターのホームページにはこう説明されています。
てんかんは、脳の全体ないし一部が過剰な電気活動を起こす性質を持つことで、てんかん発作が繰り返し起きる脳の慢性の病気です。
【引用】神戸大学医学部附属病院てんかんセンター
URL:https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/epilepsy/about/
てんかん発作といっても、人によって症状はさまざまです。一時的に意識を失ったり、体の一部が硬直したり、手足がしびれたり、といった症状が出ます。継続時間も1分程度で終わるものもあれば、長く続くこともあります。
てんかん発作が出たからといって倒れたり意識を失ったりするだけじゃなく、人によって症状は色々なんだね。
そうだね。私もてんかん持ちの子どもがいるママ友から話を聞くと、体が硬直するだけですぐに治る、という人も何人もいるよ。
てんかんの子どもとの生活は?親御さんにインタビュー
では、実際に発作と向き合い続けているてんかんの子どもとご家族の暮らしはどのようなものなのでしょうか。親御さんに聞いてみました。
今回お話を聞いたのは、ウエスト症候群の子どもがいる杉本有希さんです。
お子さんの簡単な情報
- 5歳の女の子(2023年12月現在)
- 早産だったものの生後8ヶ月までは順調に成長
- 8ヶ月頃に気になる動きがあり受診し「ウエスト症候群」と診断
- 遺伝子突然変異があると言われている
※本記事内で太字表記になっている質問者は全て筆者です。
ウエスト症候群とは?
ーーお子さんが診断された、ウエスト症候群というのはどんな病気ですか?
難治性てんかんの一つで、頭がカクンとうなずく動作を伴うことから、「点頭てんかん」とも呼ばれています。てんかん発作、脳波異常、発達の停滞または退行が特徴的です。
脳の奇形や原疾患がはっきりしている場合もありますが、原因がはっきりわからない場合も多いです。娘の場合は、遺伝子突然変異があることがわかっています。
ーー気づいたきっかけは何だったんでしょうか?
四つん這いになっている時にカクっと頭が下がる動きがありました。座っている場合は首をすくめるような動きです。そういう動きが始まってから、2時間くらい泣き続けてピタッと泣き止む、というのが数日続いておかしいと思い、まずはかかりつけの小児科を受診しました。するとすぐに大学病院に紹介され、検査の結果、ウエスト症候群と診断されました。
ーー今はどんな症状がどれくらいの頻度で発生しますか?
特に眠い時や寝起きに、スッと顔が横を向いて両手を広げるような発作があります。一瞬のことで、その後は普通に戻り、すぐにまた遊びだすなど動作を再開しているので見ている時じゃないと気づかない感じです。
なので一日何回出ているかはわかりませんが、毎日見てはいます。意識がなくなったり、チアノーゼ(血中の酸素濃度が下がり、唇や皮膚が青紫色になること)が出たりというのを伴わないので、発作が出ても見守り以外に特にすることはありません。
てんかんがあることで困ったこと
ーーなるほど、発作が出た時に何か処置が必要なことはないんですね?
そうなんです。抗てんかん薬は常時服用していますが、発作が起きたからといって何かする必要はありません。倒れたり、呼吸が止まったりという子もいるみたいですが、うちの子の場合はそういうことはないんです。それでも、「てんかん=意識を失う」というイメージを持っている方も多いようで…困ったのは、娘の預け先がなかなか見つからなかったことでした。
ーーえっ…お子さんのてんかんが理由で預け先が見つからなかったんですか…?
はい。私は大学の看護学科で教員をしていて、娘を産んだときは育休中でした。8ヶ月までの経過は順調でしたので、職場復帰するつもりで、保育園も申し込みを済ませていたところでした。
保育園が決まったと同じくらいのタイミングでウエスト症候群の診断を受け、入園前に相談したところ、その時点で難色を示されました。てんかんのことを伝えると、「発作起きたら意識失っちゃうでしょ?」というようなことを言われて。話し合いを重ねて、結局1才までは通えるようになったんですが、2才児クラスに上がるタイミングで、遠回しに、うちではもう預かれない、というようなことを言われました。
何とか通い続けられるように、娘の病気や症状、どういうサポートが必要かなどを書面にしてお渡ししたり、行政も介入して主治医とコンタクトをとってもらったりもしました。しかし、残念ながら、「うちはこういう環境と状況ですから難しいですね」ということを言われるのみで、どうしたら娘が通えるかということを一緒に考えてはくれませんでした。
結局、その園は退園し、相談支援専門員さんに紹介していただいた2歳児までが対象の別の小規模保育園で快く受け入れていただき、その後1年間楽しく通うことができました。
娘の場合、てんかんだけでなく発達の遅れもあったので、当時通っていた園ではそこまでのサポートができない、ということでの退園だったので仕方がない部分もあったとは思います。
でも、もう少し向き合ってほしかった、話を聞いてほしかった、という思いがあり、そういう過程を経ることができれば、ネガティブな経験だけの捉え方にはならなかったと思います。その時のことを思い出すと今も胸が締め付けられるような感覚です。
ーー今は働くことはできているんですか?
はい、週3日程度働いています。平日は、二つの児童発達支援事業所に並行して通所しているのですが、その預かり時間の間に。週に1日は母子通園の日があるのですが、それ以外は母子分離で、17時まで預けられるようにしてくれているので、働くことができています。
私の場合は、看護師という資格があったので、フィールドを変えて、今は児童発達支援事業所(娘が通っているところとは別の事業所)で働くことにしました。娘にとって有益な情報を得つつ理解がある中で働くことができるのは幸運だなと思っています。
でも、私のケースは特殊かもしれません。児童発達支援事業所はそもそも療育が目的ということもあり、一般の保育施設ほど長時間の預かりをしていないことも多いので、普通の保育施設に入れず児童発達支援事業所に行く場合、今まで通り仕事が続けられない親御さんは多いです。
てんかんに限らず、障がいのある子どもの親御さんが就労でき、好きな仕事を続けられるようなサポートがあればいいなと思います。
正しく対処すればてんかんは怖い病気ではない。一人の子どもとして過ごさせて。
ーー具体的にはどういうサポートがあると嬉しいですか?
まずは意識の持ち方として、「てんかん=怖い、危険」というイメージを払拭してもらいたいです。先ほども言いましたが、発作の出方は人それぞれだからです。
もちろん、チアノーゼがでたり、意識を失ったり、という子もいますが、それが全てではないということを知ってほしい。「てんかん」と聞くだけで拒否反応をするのではなく、どんな症状なのか、どう対処すればいいか、どうすれば安全に生活ができるのか、ということまで聞いてもらった上で、判断してもらいたいなと思います。
特に就園や就学などの場面では、てんかんがあるというと、どうしても発作や病気のことに目が向けられがちです。うちみたいに、保育園に通園するのが難しいと言われるケースもあると思います。でも、子どもにとっては、てんかんと向き合うだけが生活じゃありません。
むしろ発作はたまにあることで、それ以外の日常の方が圧倒的に長いです。それでも正しく理解してもらえないと、てんかんの子は危険だから預かれない、となって発達の機会を失ってしまう…。
いつ起きるかわからない発作のために、それ以外の日常も諦めないといけないの?と思ってしまいます。
だから、発作の正しい対処法を知り、その上で子どもとして遊ぶ、とか、日常を楽しく過ごす、ということを一緒に考えてほしい。この子も一人の子どもだから、子どもらしく過ごせるような環境を作ってあげたいです。そのためには、一般の人たちのてんかんに対する正しい理解がもっと深まっていけばいいなと思っています。
てんかんについて、今ここから正しく知っていこう
ご自身も医療従事者ながら、てんかん患者に会う機会は多くないとお話しされる杉本さん。インタビューの中で、怖がらないでほしいと訴える一方、「怖いという気持ちもわかる」ともおっしゃっていました。
「看護師の私も、てんかんの患者さんとは関わったことがなかったため、はじめは我が子がてんかんと診断された時、わからなくて怖いと思いました。一般の人はもっとそうだと思います。
だからこそてんかんのことを正しく知ってもらいたいな、と思うんです。私も児童発達支援事業所で働き始めた今は、子どもたちを見て、病名よりも、どんなことができる子でどんな反応をしてくれる子なのか、そういうことの方が思い浮かびます。
もちろん、病気がある子どもなので、看護師として観察しなければいけないことはありますが、個として向き合って、親御さん方にも私が経験したような苦い経験をしてほしくないなあと思っています。」
誰だって、知らないこと、わからないことは怖いです。それが病気で、しかも命に関わるかもしれないことであれば、なおさら怖いですよね。
でも、病気があっても、一人の子どもです。
「怖い」で立ち止まらず、もう一歩踏み込んで、「どんな病気なんだろう?」「どう対処すれば安全に過ごせるんだろう?」と正しく理解しようとする人が増えることで、てんかんの子どもたちが過ごせる場所や楽しい時間が増えていくのではないでしょうか。
杉本さんはお子さんとの生活や障がい児のお子さんと暮らす家づくりについてInstagramで発信しています。もっと深く知りたいという方はぜひ覗いてみてください。
アカウントはこちら:@___yu.________
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