センサリールームは、五感への刺激が過度にならないよう、適切に調整された空間のこと。感覚過敏の人々や障がいのある人、また高齢者の方などさまざまな人の心身のリラックスを促す新しい取り組みとして注目を集めています。
こちらの記事では、センサリールームの概要とともに、日本国内におけるセンサリールームの活用事例をいくつかご紹介します。
目に見えない「人間の感覚」に配慮した場所、センサリールームはどのような場所なのか、一緒に見ていきましょう。
センサリールームとは
センサリールームとは、音や光、香りなど、五感から入る刺激が調整された部屋、空間のことです。聴覚・視覚など、感覚過敏の症状がある人やそのご家族が安心して過ごせる場などを指します。
人の感覚に配慮したセンサリールームには、感覚刺激を少なくし、スポーツ観戦やライブを楽しめるスペースや、公共施設などで感覚への刺激を避けることができるスペース、また感覚や感情を落ち着かせる効果のある「スヌーズレン」を利用したセラピールームなど、いくつかの種類があります。
なかには、適度に五感を刺激することで利用者のリラクゼーションを促す目的の施設もあります。
▼スヌーズレンについては、こちらで紹介しています。
センサリルームとカームダウンスペースの違い
センサリールームと似た役割を持つものとして、カームダウンスペースがあります。カームダウンスペースは、高ぶった感情や緊張を緩和させる目的で作られたスペースのことです。
カームダウンスペースは、主に発達障害や知的障害の方、その家族が慣れない移動や人混み、周囲の視線、音、光等の混在により不安やストレスを感じたときに気持ちを落ち着かせ、パニックになるのを未然に防ぐための場(避難所)として利用できます。
空港や競技施設、図書館、学校などの公共施設にも設置されていて、街中に置かれている証明写真撮影機程度の広さのものが多いです。
センサリールームとカームダウンスペースにどのような違いがあるか、以下の表にまとめました。
センサリールーム | カームダウンスペース | |
対象 | 感覚過敏の方やファミリーなど幅広い | 主に発達障害や知的障害の方 |
目的 | 気持ちを落ち着かせるリラックスさせる | パニックを未然に防ぐ |
環境 | 感覚刺激が少ない光など適度な刺激がある | 区切られた小さなスペース自宅で作成することも可能 |
センサリールームが、時に光や音、香りを使って利用者の心理的・身体的休息を促す役割をも持つのに対し、カームダウンスペースは、あくまで利用者が精神的に安定し、落ち着けるよう配慮されたスペースだといえます。
▼カームダウンスペースについては、こちらで紹介しています。
センサリールームは誰のためのもの?
センサリールームは感覚過敏がある人、そのご家族のための場と捉えられることが多いです。
感覚過敏とは、多くの人が特に気にならない音や明るさ、肌ざわりなどを苦痛なレベルで感じてしまう状態のことをいいます。
例えばスーパーやファミリーレストランなど、いろいろな商品や食品の臭いが入り混じった場所では気分が悪くなってしまったり、洋服の縫い目を「痛い」と感じるため、特定の衣服しか着れなくなることもあります。
聴覚や視覚、触覚などに感覚過敏があることで、円滑な社会生活を送ることも難しくなってしまうのです。
センサリールームはそんな、感覚の特徴を持つ人たちが快適な日常を送るためのものと捉えられています。
一方で、昨今はパナソニックなど企業の取り組み等により、利用対象を乳幼児をはじめ、子育て世代の大人たちにまで広げた場も存在しています。
センサリールームの利点と効果
ここでは、センサリールームがどのようなメリットを持つのかをご紹介します。
感覚への刺激が少なく安心感を持てる
センサリールームは照明や音響といった人の五感に与える刺激をできる限り少なくするなど、感覚に与える影響に配慮した場所です。感覚過敏の症状がある人にとっては過剰な刺激による不快感やストレスが減り、落ち着いて過ごすことができます。
他者との豊かなコミュニケーションが可能に
心身がリラックスした状態だからこそ、他者とのより落ち着いたコミュニケーションが可能になります。家族で一緒に過ごすことができる場では、親子間のコミュニケーションも豊かになるでしょう。
自分の内面に集中できる
過度な刺激がおさえられたことでストレスが減るだけでなく、自分自身の感覚そのものへの意識も高まります。心理的・身体的に安定したなかで自分の感覚に意識を向けることで、「自分はいま、こんな風に感じているな」と自己理解を深めることもできます。
体験の幅を広げることができる
感覚過敏があることで外出先での体験が困難な方も、センサリールームがあれば安心して過ごすことができます。
例えば東京ヴェルディの「Green Heart Room」は、発達障害や感覚過敏の人たち以外にも、よりさまざまな障がいのある人が試合を楽しめるように運営される場所です。
従来の会場だと歓声や放送の音量が大きすぎて試合を現地で楽しめなかった人も、センサリールームがあることでストレスなく試合を楽しむことができます。
センサリールームがある場・感覚に配慮した施設の一例
センサリールームの設置は、競技場など感覚刺激の強い場を中心に広がりを見せています。さらに、一部の施設では「あんしんマップ」や「センサリーマップ」を提供しており、感覚過敏の方が施設を利用する際の参考になります。
あんしんマップ、センサリーマップとは視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚などの五感に関する情報を地図上に表現したものです。例えば、「この場所は光が強い」「ここは音響が大きい」といった感覚的な情報が地図上に示されています。
ここからはセンサリールームやセンサリーマップを設置し、感覚へ配慮している施設の一例を紹介していきます。
博物館
九州国立博物館(福岡県太宰府市)
感覚過敏の方が館内で快適に過ごせるよう、「あんしんマップ」が提供されています。あんしんマップには、以下の4項目と休憩所などの情報が記載されています。
- 光(明るい場所/暗い場所)
- 音(大きな音がする場所/静かな場所)
- 人が多い(混雑している場所)
- におい(においがする場所)
あんしんマップ|九州国立博物館https://www.kyuhaku.jp/visit/visit_barrierfree_anshinmap.html
東京国立博物館(東京都台東区)
感覚過敏のある方向けのセンサリーマップを用意しています。
イスがある、また飲食ができる場所を表した「座れる場所」、音刺激の強い場所を表した「音情報」、光刺激の強い場所や自然光のある場所を表した「光情報」を切り替えて表示でき、自分に必要な情報を選択することができます。
バリアフリー情報 センサリーマップ|東京国立博物館https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2579
スポーツ施設
Jリーグのいくつかのクラブがセンサリールームを常設、また設置に向けたトライアルに取り組んでいます。
センサリールームの設置に取り組んでいるクラブは以下の通りです。
- FC東京:スタジアムにセンサリールームを設置
- 東京ヴェルディ:「Green Heart Room」を設置
- FC町田ゼルビア:町田市子ども発達センターと連携してセンサリールームを設置
- 松本山雅FC:「モバイル型センサリールーム」の設置(トライアル)
- セレッソ大阪:センサリールームを常設
【参照】Jリーグホームタウン活動調査|Jリーグ公式サイトjleague.jp/img/pdf/27819_01.pdf
また、福岡PayPayドームでは期間限定でVIPルーム1室をセンサリールームとして整備し、感覚過敏を持つ子どもとその家族を招いて利用環境の調査が行われました。
センサリールームの設置は比較的新しい取り組みで、今後、さらに増加することが予想されます。利用を検討する際は、各施設の公式HPや問い合わせ窓口で、最新の情報を確認するようにしてください。
センサリールームは「目に見えない特性」に配慮された場所
感覚に対する過敏さは、外見からは分かりにくいものです。そのため、多くの方がその大変さを想像しづらいかもしれません。そんな「見えない困難」に配慮するための空間がセンサリールームです。
「センサリールームについて初めて知った」という方も、ぜひこの機会に身近な施設に目を向けてみてください。意外と近くにあることに気付くかもしれません。
センサリールームが広がることで、感覚過敏などの特性を持つ人々が、安心して過ごせる場が増え、生活しやすい社会が少しずつ実現されていくのではないでしょうか。
【参照】
- 感覚過敏とは?センサリールーム、クワイエットアワーの必要性は?
感覚過敏研究所 URL:https://sdi.kabin.life/sensory-sensitivety - 感覚過敏研究所のSDI推進室について|感覚過敏研究所 URL:https://kabin.life/service/sdi/
- はじめに|カームダウン・クールダウン Calm down,cool downについて
URL:https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/calmdown-cooldown/加藤路瑛著『感覚過敏の僕が感じる世界』日本実業出版社(2022) - スヌーズレンとは|Relax’Creation project Inc.(リラクリエーション・プロジェクト株式会社)URL:https://snoezelab.com/snoezelen/
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