身体的に重い障がいのある重症心身障害児は、身体を自在に動かすことが難しく筋肉がこわばることや脳神経の障がいによる筋緊張の異常などの理由で、二次障がいとして身体の変形を起こしやすいことが知られています。
中でも代表的なものが股関節脱臼や側弯です。体の変形は痛みを伴うこともあり、生活の質に大きく影響を及ぼします。
そこでこの記事では、一般的な股関節脱臼の症状や原因、治療について現役看護師のママが解説します。重症心身障害児などでよく発生する股関節脱臼についても解説していきます。
医師 おkら先生
呼吸器専門医、がん薬物療法専門医、総合内科専門医。嚥下機能評価研修会修了、医療型児童発達支援/放課後等デイサービスの嘱託医。仕事大好き、2児の母。長男がダウン症、気管切開をしている医療的ケア児。障害児を育てる環境が優しくなって欲しい。その為に自分に何か出来る事はないかと日々考えています。
X:@oke_et_al,ブログ:じょいく児。
股関節脱臼とは
股関節脱臼とは、大腿骨が骨盤から外れた状態のことをいいます。
股関節は左右の足の付け根の関節で、人体の中で最も大きい関節のひとつです。通常の股関節は、大腿骨先端にある骨頭(こっとう)と呼ばれる球状の部分が、骨盤の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれるくぼみの部分にはまり込む構造になっており、関節周囲が靭帯や筋肉に覆われ、様々な動きをすることができます。
臼蓋のへこみが浅かったり、筋肉の緊張が高まって力が加わることで、大腿骨頭が完全に外れてしまった状態が股関節脱臼です。
股関節脱臼には先天性のものと、主に重症心身障害児に起こる二次障害としての股関節脱臼があります。先天性股関節脱臼と重症心身障害児の股関節脱臼では原因や症状、治療が異なるため、後ほどそれぞれに分けて解説します。
股関節の亜脱臼とは?
亜脱臼とは、大腿骨頭が臼蓋から外れかかっている状態のことをいいます。
亜脱臼が進行し、大腿骨頭が完全に外れてしまうと完全脱臼になります。亜脱臼のある子どもでは、進行させないことが大切です。
股関節脱臼は一般的に赤ちゃんがなりやすい?
股関節脱臼は障がいの有無にかかわらず、赤ちゃんに起こりやすい疾患です。健診で発見されることも多く、発生率は1000人に1人~3人です。
赤ちゃんに起こる股関節脱臼は先天性股関節脱臼とよばれていますが、生まれた時から脱臼を来している赤ちゃんはほとんどいません。そのため、近年では先天性股関節脱臼ではなく「発育性股関節形成不全」と呼ばれることもあります。
先天性股関節脱臼は早期発見が重要な疾患です。発見が遅れるほど、治療期間も長くなる傾向にあります。
【参照】先天性股関節脱臼予防と早期発見の手引き-赤ちゃんの健やかな成長のために-|日本小児整形外科学会
先天性股関節脱臼
先天性股関節脱臼の症状
股関節脱臼の症状は、以下のものがあげられます。
- 左右の足の長さが異なる
- 膝を曲げた状態で股関節を開くと音がする(クリック音)
- 足の開き具合が左右で異なる
- 足の付け根のしわに左右差がある
先天性股関節脱臼の場合、痛みはほとんどないため歩行開始後まで気づかれないこともあります。
このように聞くと心配になるママやパパも多いと思いますが、現在は乳幼児健診時の小児科医診察で股関節の状態は必ずチェックされているため、大幅に診断が遅れることはほとんどありません。
先天性股関節脱臼の原因
先天性股関節脱臼は、以下に挙げた脱臼しやすい素因を持った赤ちゃんに、股関節の動きを制限するようなおむつの当て方や抱っこの仕方などの環境因子が重なることで起こります。
脱臼しやすい赤ちゃんのリスク因子
- 女児
- お腹の中で逆子だった
- 先天性股関節脱臼や変形性股関節症の家族歴がある
これらに当てはまる場合は特に注意しましょう。
先天性股関節脱臼の治療
先天性股関節脱臼は診断時期によって治療方法が異なります。早期に発見できれば装具療法が可能ですが、3歳ごろまで発見されなかった場合は手術が必要になることもあります。診断が遅れる程治療が難しく、治療による体への負担も大きくなります。
整復
整復とは、脱臼によって本来ある場所からずれてしまった骨を元に戻すことです。
3歳までに発見された先天性股関節脱臼では、リーメンビューゲルという装具を使用したり、牽引療法(OHT法、FACT-R法)を行うことでほとんど整復が可能です。
外科的治療(観血的治療)
3歳以降に発見された股関節脱臼では、手術が必要となることが多いです。また、3歳までに股関節が整復された場合でも成長とともに再脱臼のリスクが増すことがあり、その際に手術が必要となるケースもあります。
手術にはソルター手術やペンバートン手術と呼ばれるものがあり、いずれも骨盤や大腿骨を切って形を整える骨切り術です。
重症心身障害児における股関節脱臼
重症心身障害児における股関節脱臼は、前述した先天性股関節脱臼とは異なり後天性のものです。もともとは正常な状態であった股関節が、成長とともに変化して脱臼を起こします。
重症心身障害児における股関節脱臼の症状
重症心身障害児の場合、下記の一般的な症状が出ることに加え、脱臼が高度になると筋肉の緊張が増して痛みも生じます。痛みの影響により、不機嫌や睡眠障害に繋がることもあります。
股関節脱臼の一般的な症状
- 左右の足の長さが異なる
- 膝を曲げた状態で股関節を開くと音がする(クリック音)
- 足の開き具合が左右で異なる
- 足の付け根のしわに左右差がある
重症心身障害児の股関節脱臼の原因
重症心身障害児が脱臼を来たす原因は大きく分けて2つあります。
原因1.筋緊張のアンバランスさ
生まれたときの赤ちゃんは自然と足はM字に開脚しており、この姿勢が股関節の発達にとって良好な肢位と言われています。重症心身障害児では筋緊張の強い子供が多く、筋肉の緊張が強くなることによって、股関節にとって良好な肢位を保つことができず、脱臼の原因になります。逆に筋肉の緊張が弱すぎても、筋肉の張りが弱く、関節がゆるくなるため脱臼の原因になります。
原因2.下肢の荷重経験の不足
股関節は座ったり立ったりして適度な負荷が加わることによって、大腿骨頭が臼蓋にはまり込み、しっかりとした関節に形作られていきます。重症心身障害児では特に立つ経験が不足しがちであり、股関節への荷重が少なくなることで臼蓋のへこみが浅く、脱臼しやすくなります。
重症心身障害児における股関節脱臼の治療
重症心身障害児の股関節脱臼の場合、保存的治療か観血的治療(手術)があります。
保存的治療
亜脱臼の段階では、外科的治療ではなく保存的治療が選択されることもあります。具体的には、筋緊張をやわらげるためのボトックス療法や、装具を使用して股関節にとって良好な足の開きを保ち、亜脱臼の進行を防止する装具療法です。
外科的治療(観血的治療)
亜脱臼の段階の手術は、股関節周囲の筋肉や腱を正常な状態に戻すことで脱臼の進行を防止し、股関節の形成を促します。
亜脱臼が進行して脱臼リスクがさらに高くなったり、完全脱臼を来したりすると、外科的に股関節の形を正常に戻す骨切り術が選択されます。
治療方法については、脱臼の進行度や年齢、運動機能などさまざまなことを考慮して決定します。重症心身障害児の場合、手術に耐えうる全身状態かどうかも手術時期を決定する大きなポイントです。
筆者の子どもは現在、左股関節亜脱臼が進行しており、定期的にレントゲンを撮って装具療法を行いながら、手術も視野に入れて経過を見ています。
重症心身障害児の股関節脱臼を防ぐためには
重症心身障害児の二次障がいとしての股関節脱臼を防ぐためには、筋肉をほぐしたり色々な姿勢を経験させるなど、リハビリやストレッチが重要です。寝た姿勢が多い子どもの場合は、股関節が開いた姿勢になるように足の間に枕を挟むなど、ポジショニングにも注意する必要があります。
姿勢の変え方やストレッチの方法は、疾患や体の状態によって異なることがあるので、理学療法士に相談するのが確実です。バランスボールを使った遊びは、体の柔軟性を高めてくれるのでオススメです。
▼おうちでできる療育の遊びアイデアの紹介はこちらの記事
股関節脱臼かもと思ったら早めに医師と相談しよう
先天性股関節脱臼も重症心身障害児の股関節脱臼も、早期に発見することで、より身体に負担の少ない治療が選択できます。股関節脱臼の症状は気づきにくいものもあり、検査を受けないとわからないことも多いので、気になることがあればぜひ早めに医師に相談してみましょう。
【参照】
赤ちゃんの股関節脱臼 正しい知識と早期発見のために | 日本小児整形外科学会
Ⅲ姿勢・身体の動き|
整形外科治療 |社会医療法人大道会 ボバース記念病院
https://www.omichikai.or.jp/bobath/cerebralpalsy/orthope
先天性股関節脱臼|神奈川県立こども医療センター
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