親の就労のためや、子どもにとっての経験のため、医療的ケア児を一般の保育園に入園させたいと考えている親御さんは少なくないのではないでしょうか。
筆者もその1人です。医療的ケア児かどうかにかかわらず、子どもを自分たちで保育しながら働くことは難しく、誰かの手を借りないと就労は難しくなってしまいます。また、いつか社会に出る子どもに、今のうちから一般的な保育園に通うという形で社会を知ってもらいたいと思う気持ちもあります。
そんな筆者のように、医療的ケア児である子どもを保育園に入園させたい親御さんの参考になるように、今回は医療的ケア児である息子が保育園入園に成功させた筆者が、入園までの流れや入園する上での課題・大変なことなどを紹介します。
息子の情報
- 保育園に入園した年齢:1歳3ヶ月
- 疾患名:先天性ミオパチー(ミオチュブラーミオパチー)
- 必要な医療的ケア:人工呼吸器、吸引、経管栄養(EDチューブ使用)
医療的ケア児は保育園に入園できるの?
医療的ケア児が一般的な保育園に入園することは可能です。時代背景的にも、医療的ケア児の保育園で受け入れが進められています。
厚生労働省の資料によると、受け入れ児童数を増やしたり、保育人材の確保を図ったり、障がい児の受け入れに必要な改修をしたりする保育対策の基盤整備に必要な事業の推進を図る事業である保育対策総合支援事業費補助金の費用は453億となっており、実際に受け入れている施設の数も平成27年度から令和2年度の5年間で約2倍に増えています。
なお、東京都や大阪府など、都心になればなるほど医療的ケア児を受け入れている施設は多くなっています。
【参照】保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて|厚生労働省
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000995731.pdf
ただ、すべての保育園が医療的ケア児を受け入れているわけではなく、保育園で医療的ケアができる看護師を確保できなかったり、利用を希望する子どもに必要な医療的ケアの提供にあたり施設整備が対応していなかったりなどの課題も多くあります。
医療的ケア児の受入人数は保育園によって異なるため、入園する前に定員に達していないか確認が必要です。
そして、医療的ケア児が保育園に入園することは可能ですが、市区町村の規定や保育園のルールによっては、年齢制限や時間制限も設けられています。
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筆者の息子が通う保育園は、満1歳以上、預かり時間は9:00〜17:00と決まっているため、延長保育はできません。
▼入園のメリット・デメリットや入園してみた体験談についてはこちらの記事で紹介しています
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医療的ケア児の保育園に入園方法・入園の流れ
医療的ケアのある子どもの場合、一般的な入園方法とは異なる場合があります。手続きをはじめる前に、まずは市区町村の保育を担当している窓口(子育て支援課等)で相談しましょう。
なお、年齢や預かり時間などのガイドラインやマニュアルを定めている市区町村は医療的ケア児のいる地域内でも38.2%という厚生労働省のアンケート結果もあります。お住まいの市区町村によっては、個別にやり方を相談しながら保育園入園を進めて行く必要がある可能性もあります。
1.市町村区の支援課で医療的ケア児が入園できる保育園リストをもらう
医療的ケア児を受け入れている保育園は増えてきているものの、数は限られています。
市区町村の担当窓口に行くと、市区町村内にある医療的ケア児を受け入れている保育園リストをもらうことができたり、案内をもらえたりします。
その中から、自宅から通うことができる距離内の保育園を自分たちでピックアップします。
2.自宅から通える保育園をリストアップして見学に行く
リストの中から、通える距離内の保育園をリストアップし、保育園へ連絡をして、見学の調整をします。
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筆者の場合は、息子が退院する前にすでに保育園に話を聞きに行き、準備を進めていました。入園の約9ヶ月前です。
医療的ケア児を受け入れている保育園が通える距離内に3園あり、全ての保育園に見学しに行き話しを聞きに行きました。保育者や看護師が寄り添ってくれるかや、看護師の配置を含め、保育される環境が整っているかなどを基準に希望する保育園を絞りました。
3. 入園したい保育園を決め面談・面接する
入園したい保育園に空きがあるかを確認し、面談・面接をします。息子が退院する前に筆者と夫と2人で保育園に訪問したのを含めると、計3回保育園に訪問しています。
1回目は息子がいないので、どんな園なのか、他にも医療的ケア児を受け入れているのかなどの確認や、息子がどんな子どもなのかなどの話をしに行きました。2回目は、「面接の前に1度息子さんを連れて来てください」と言われ、面談をしました。実際に息子がどんな表情や動きをするのかを見てもらい、息子についての医療的ケアの質問や息子自身どんな子なのかなどの質問を受け、それに答える形で話が進みました。
その際、筆者たちは保育園側が息子のことをよく理解できるように「保育園入園に向けてのご説明資料」を作り、息子の生い立ちや1日の過ごし方、必要な医療的ケア、緊急時の対応などをまとめ、提出しました。
▼サポートブックとは?の記事はこちら
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![保育園入園に向けてのご説明資料と題した冊子](https://famicare.jp/wp-content/uploads/2024/02/supportbook-1024x768.jpg)
![保育園入園に向けてのご説明資料と題した冊子](https://famicare.jp/wp-content/uploads/2024/02/supportbook-1024x768.jpg)
また、どのような想いで保育園に入園したいのかも伝えました。
保育園側にできるだけ息子のことを理解してもらい、入園への不安や心配をなるべく軽減できるように努めました。
3回目は面談ではなく、面接という形で訪問しました。話の内容は2回目に訪れた時と変わらず、息子についての医療的ケアや状態、息子自身どんな子どもなのかを確認しました。
体験保育をする場合も
面談や面接とは別に、希望していた保育園へ約2時間程度の体験保育を行うことができました。どの園でも必ず実施するものではありませんが、入園希望前に園での過ごし方や雰囲気を確認することができます。
体験保育では医療的ケアの共有や、実際にクラスの輪の中に入りクラスの子どもたちと遊びました。対応している園であれば、体験保育もおすすめです。
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子どもの声がする賑やかな空間で、「刺激がたくさんあっていい環境だなあ」と思ったことを思い出します。新しく輪に入った息子を見て興味を持って近づいてくれる子どももいて、息子の体力的に4月ごろの入園を考えていた筆者でしたが、「早く入園させてあげたい」と思いました。
5. 保育園に入園希望を伝え、市町村区の子育て支援課に連絡する
通いたい保育園が決まったら、保育園に入園希望を伝え、市区町村の子育て支援課にも連絡します。
市区町村から合格・不合格の通知がくるので、待ちます。
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息子の体力的に春入園が適しているのではないかと夫と話していたのですが、保育園の対応や環境を見て、「早く入園させてあげたい」と気持ちが変わり、秋入園に希望を変更しました。体力面に関しては、週1での通園でも構わないとのことだったので、合格したら、最初のうちは週1で様子を見ながら通園することにしようと決めました。
6. 市町村区からの結果を待ち、入園が決定する
入園希望を伝えてから約1ヶ月後、封筒で合格通知が届き、入園が決定します。
そこで改めて保育園にも連絡し、今後のことについて話しました。
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合格通知を受けたのが8月で、9月から入園できるとの話だったのですが、9月はすでに他の通所や通院などで予定が決まってしまっていたため、10月から入園を希望したい旨を保育園と子育て支援課に伝えました。このような場合、10月に入園できるとは確約できず、10月までに他の医療的ケア児が入園・転園する場合は入園できなくなることもあると伝えられ、それを理解した上で、10月入園を希望しました。
7. 入園説明を受け、保育園生活がスタートする
無事入園が決定したら、入園説明を受け、医療的ケア児である子どもの保育園生活がスタートします。
健常児の子どもの場合は、延長保育ができると思いますが、筆者が住む市のガイドラインでは医療的ケア児の場合は、9:00〜17:00と保育時間が決まっています。最初は慣らし保育で9:00〜11:00、その後9:00〜14:00、9:00〜16:00と、医療的ケア児の息子の保育園での様子を見ながら、徐々に保育時間を延ばしていきました。
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筆者の息子はまだ身体が小さく無理をさせたくないので、最初は週1の通園からはじめることにしました。徐々に通園日数を増やしていけたらいいと思っているところです。
医療的ケア児の保育園入園の課題・大変なこと
医療的ケア児が保育園に入園する上での課題や大変だったと思うことを紹介します。
大変なこと1:入れる園が限られてしまう・園探しが大変
何よりまず大変なのは、医療的ケア児を受け入れている保育園が限られていることです。市内に何十個もある保育園のうち、自宅から通える医療的ケア児を受け入れている保育園はたったの3つで、どこも車通園でした。もしかしたら地域によっては、3つあるのは多い方かもしれません。
その中で、いいなと思える保育園に出会えるとは限らないので、保育園探しは大変です。
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筆者がピックアップした3つの保育園は幸い、筆者や夫、息子に寄り添ってくれるような素敵な保育園・保育者ばかりでした。保育園によっては、医療的ケア児を受け入れるのが初めてで、保育者や看護師が不安な気持ちである場合があります。そんな時でも前向きに「一緒に頑張っていきましょう」という気持ちのある保育園がいい保育園なのかなと思います。
大変なこと2:医療的ケアなどを理解してもらう必要がある
医療的ケア児が保育園入園するのに大変なことの2つめは、医療的ケアを理解してもらわないといけないことです。
医療的ケア児といっても、必要な医療的ケアはそれぞれ違います。
入園前の面談・面接の段階でどのような医療的ケアが必要なのかをお伝えするのに、子どものサポートブックのようなものを用意し、伝えると話しがスムーズです。
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筆者は息子の「保育園入園に向けてのご説明資料」を作成し、息子が必要な医療的ケアの内容や、予想される緊急時の状況と対応を記載しお伝えしました。
大変なこと3:手続きややりとりが多い
支援課に医療的ケア児が通える保育園リストをもらうところから、保育園とメールで連絡をとり、見学、面談、面接、体験保育、入園、資料の作成まで、手続きや保育園・子育て支援課とのやりとりは多い方だと思います。
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実際筆者も体験保育を含めると計4回保育園に訪問しており、保育園との日程調整や子育て支援課との電話でのやりとりも、細かいことですが大変でした。健常児の子どもを保育園に入園させるより、手間はかかるのではないかと思います。
医療的ケア児の保育園入園は簡単ではないけれど入園はできる
医療的ケア児が保育園に入園するには数々のハードルがあり、簡単ではありません。
そもそも、地域によっては医療的ケア児を受け入れている保育園がなかったり、数が少ないがゆえに定員数に達してしまっていたりで、入園できない場合もあります。
しかし、医療的ケア児を受け入れられるように、看護師を探したり、保育士が知見を持てるよう勉強をしたりしてくれる、前向きな姿勢の保育園もあります。
まずはそんな医療的ケア児保育園入園に前向きな保育園に出会えること、そして、この記事で伝えしたように、自分たちがどんな想いで医療的ケア児である子どもを保育園に入園させたいのかを伝えることも大切なことだなと思っています。
是非この記事を参考に、医療的ケア児の保育園入園の希望を叶えてくれることを祈っています。
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健常児が保育園に入園するより、医療的ケア児を保育園に入園させることの方が大変なことは多いかもしれません。しかし、筆者は保育園入園して3ヶ月半経つ息子が、クラスにいる健常児からおもちゃをもらったり、一緒に音楽を楽しんだりしている姿や、同じような医療的ケア児のお兄さんお姉さんに遊んでもらっている姿を見て、保育園に入れてよかったなと思っています。
また、健常児と変わらず、1人の子どもとして接してくださる保育者や看護師のみなさんには心から感謝しています。筆者が通う保育園のような、医療的ケア児とその家族に寄り添ってくれる保育園が全国に増えてくれることを願っています。
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