疾患や障がいによって子どもの発達に心配がある場合や突然の病気や怪我で、子どもに集中的なリハビリテーションを受けさせたい場合などに検討したいのが、小児を対象としたリハビリ入院です。
今回は、急性脳症を発症した子どものリハビリ入院に約4ヶ月付き添った経験を持つ筆者が、小児のリハビリ入院について解説します。
リハビリ入院とは
リハビリ入院とは、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)といったセラピスト(リハビリの専門家)がいる病院/施設*へ入院し、集中的にリハビリテーションを受ける仕組みです。病院/施設によっては「リハビリ入所」や「親子入所」と呼んでいる場合もあります。
また、心理士やソーシャルワーカーなどが在籍している病院/施設もあり、退院後の生活の相談もできることもあります。
入院期間は多くの場合、1ヶ月~数ヶ月程度です。
*・・・基本的には一般的な病院であることが多いですが、療育医療センターと呼ばれるような、心身障害児(者)に対する医療と療育を行うための施設でもリハビリ入院を受け入れている場合があるため、本記事では「病院/施設」と表記します。
リハビリ入院のメリット
リハビリ入院のメリットは、何と言っても毎日リハビリが受けられることです。
在宅でリハビリを受ける場合には、リハビリ外来やリハビリ施設の利用、訪問リハビリがひとまずの選択肢となりますが、毎日通院し各分野のリハビリを行うことは現実的に困難です。リハビリ入院であれば、集中的にリハビリを受けられるので、より回復や発達を促すことができる場合もあります。
リハビリ入院の対象疾患
小児のリハビリ入院には決まった対象疾患があるわけではありません。疾患や発達の遅れ、怪我による運動機能障害がある場合など、疾患を問わずリハビリを必要とする場合であれば、リハビリ入院を検討できます。
一方で、決まった対象疾患はないものの、病院や施設によっては受け入れ数の多い疾患・障がいが存在するケースもあります。(例:脳性まひセンターを設けている・後天性障害を積極的に受け入れているなど)
WEB上で症例数を開示しているところもあるので、調べてみたり、候補のリハビリ入院先へ問い合わせてみてもいいでしょう。
リハビリ入院を行う時期
リハビリ入院を行う時期としては、「元々の疾患が落ち着いており、身体の状態が安定しているタイミング」が適切とされています。
なかでも後遺症や後天性障がいを負った場合には、急性期治療が終わった後、早期にリハビリ介入することが本人と家族のQOL(生活の質)向上に繋がると考えられています。
例えば、急性脳症の場合「発症後2ヶ月以内に頚がすわり、3ヶ月以内に坐れるようになれば、1年半以内に歩けるようになる(出典:小児の急性中枢神経疾患に対するリハビリテーション)」というデータを示している専門家もいます。この指標自体あくまで目安であり、また、リハビリ介入によって必ずこれが達成できる!というわけでもありません。しかし「早期のリハビリ介入による可能性」を示すデータとしては捨て置けないように思います。
焦って検討する必要はありませんが「いいタイミングかな?」と思ったら調べ始めてみるとよいかもしれません。
子どものリハビリ入院に親の付き添いは必須?
小児リハビリの場合、一般的には「母子入園」や「親子入所」といった形で親が付き添いとして一緒に入院することが多いです。子どもの入院における親の付き添いは制度上任意ではありますが、主に乳幼児のリハビリ入院の場合、ほとんどのケースで親が付き添いをしているのが実態といえるでしょう。詳しくはリハビリ入院を検討している病院/施設に問い合わせてみてください。
筆者がリハビリ入院をしていた際には、小学生以上になると単独でリハビリ入院をしているお子さんがちらほらいるな、という印象でした。
リハビリ入院中の生活
ここからは、リハビリ入院を始めてから退院するまでのながれ、入院中の生活について紹介します。
リハビリ入院で初めにすること
リハビリ入院開始時には、担当セラピストや担当医と面談をおこない、子どもの特性や発達状況に応じた「入院期間を通しての目標」を設定します。
担当セラピストは設定した目標を元に、さまざまな視点から子どもに必要なアプローチを考え、理学療法や作業療法の訓練内容を計画していきます。
言語聴覚士(ST)や心理士が在籍している病院/施設の場合、必要があると判断されれば、言語療法や摂食指導、心理教育や認知や発達面の検査などを組み込むこともあります。理学療法や作業療法と異なり、毎日ではなく不定期で行われるケースが多いようです。
入院中の1日の流れ
リハビリ入院が始まると、以下のような1日を過ごします。※病院/施設により異なります
▼1日の流れの例
時間 | すること |
6:30 | 起床 |
7:30 | 朝食(子ども:病院食、親:病院食または持ち込み) |
9:00 | 理学療法(PT) |
10:00 | 空き時間:洗濯など |
11:00 | 作業療法(OT) |
12:00 | 昼食(子ども:病院食、親:病院食または持ち込み) |
13:00 | 言語聴覚療法(ST) |
14:00 | 空き時間:病院周辺をお散歩 |
14:00 | お風呂(日によって変動) |
15:00 | おやつ |
16:00 | 空き時間:明日の予定確認など |
18:00 | 夕食(子ども:病院食、親:病院食または持ち込み) |
19:00 | 自由時間 |
20:00 | 就寝(小児病棟は20:00就寝/消灯、親は寝かしつけが終わった後に談話室などで自由時間を過ごしてから就寝) |
入院中は、平日はほぼ毎日、理学療法(PT)・作業療法(OT)のリハビリを受けることができます。
障がいの内容や身体の変形、拘縮(関節の動きが制限された状態のこと)の程度によっては、日常のリハビリ訓練と併せて、装具や福祉用具の作成も検討する場合もあります。小児整形外科が併設されていれば、実際に作成まで並行して行うこともあります。
リハビリ入院が終了するときには
退院間際になると、担当医や担当セラピストと再び面談を行い、入院当初に立案した目標に対しての振り返りを行います。
私の娘は、リハビリ入院を開始した当初は首座りも不安定で、寝返りも出来ない状態でした(当時2歳)。それでもその状態で出来る訓練を考えて、毎日娘と向き合ってもらい、本当に貴重な時間を過ごせたと思っています。
また、今後のアプローチについての提案や日常生活での注意点などの助言を受けられる場合もあります。
リハビリ入院をするまでの流れ
リハビリ入院をするにはどんな流れで、何を行えばよいのでしょうか。こちらも一例を紹介します。
- リハビリ入院ができる施設を探す。
- 電話で問い合わせ。「リハビリ入院の対象となるか」などを確認する。
- 初診予約、またはリハビリ入院の手続きを行う。
- かかりつけ医や急性期病院からの紹介状(診療情報提供書)を手配する。
- (事前の診察が必要な場合)診察を受けてからリハビリ入院の手続きを行う。
- (入院時期が未定の場合)入院日の連絡を待つ
リハビリ入院は通常の入院と比較しても定員に限りがあるケースが多く、入院を希望してもすぐに開始となることは珍しいようです。病院/施設によっては数ヶ月~半年くらい待ってやっと入院日が確定する、ということもあります。
小児リハビリに関する情報はとても少なく、ただでさえ心身共に疲弊している状態でリハビリ入院にこぎつけるのは一苦労でした。経験者の人へ質問したり経験談を聞きたい場合には、ファミケアアプリを活用するのも一つの手です!
また、入院が長期になる場合、普段貰っている手当などが止まる場合があります。詳しくは入院前に居住地の担当窓口へ問い合わせてみましょう。
確認が必要な手当は以下の通りです。
- 特別児童扶養手当
- 障害福祉手当
- 育成障害手当
- 児童手当
- 重度心身障害者手当 など
リハビリ入院の費用
子どもにかかる費用
子どものリハビリ入院の費用は、入院する病院/施設によって使用する制度が異なり、健康保険を使う場合と「入所」として福祉制度を使う場合があり、それぞれ計算方法が異なります。
健康保険が適用される場合
健康保険が適用される場合、就学前の乳幼児の場合は自己負担割合は2割で済みます。就学後の子どもの場合は3割負担です。
さらに乳幼児医療費助成制度など各自治体の助成が適用されるので、自己負担額はかなり少ないか、自治体によっては無償となります。
もしお住まいの都道府県外の病院/施設を利用する場合で、自治体の乳幼児医療費助成制度などが使えない場合には、一度支払いを行ってから、後日払戻し(助成)の手続きをして還付を受ける形になります。
入所受給者証を使用する場合
リハビリ入院をする場所が医療型障害児入所施設の場合、障害福祉サービス受給者証を使って費用負担を軽減することができ、かかった費用の1割負担で利用することができます。また、以下のようにひと月の上限金額が定められているため、これ以上の費用はかかりません。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 | |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 | |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 | |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割28万円未満) | 入所施設利用の場合 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
3歳から5歳までの子どもの場合、費用は無償となります。
【参照】就学前障害児の発達支援の無償化について|厚生労働省
なお、健康保険が適用となる場合も受給者証を使用する場合も、入院中の食事代は自己負担となります。
ただし「小児慢性特定疾病医療受給者証」を持っている場合、食事代の自己負担が2分の1(半額)になるのでぜひ活用してください。
▼小児慢性特定疾病の医療費助成についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
費用の計算方法、負担額については入院する病院や子どもの年齢によって異なりますので、事前に入院する施設に確認することをおすすめします。
付き添いをする親にかかる費用
次に、親の付き添いにかかる費用は主に以下のとおりです。
- 個室を利用する場合は個室ベッド代(厚生労働省の統計によると個室利用料の全国平均は1日当たり8,322円)
- 付き添い用の簡易ベッドにレンタル代が発生する場合(平均的には1日あたり数百円~1,000円程度)
- 食事代(病院食の標準負担額は令和6年(2024年)6月から490円。付き添い者には食事を提供していない病院/施設もあります。)
筆者の場合、親の食事は自分で持ち込んだので入院費は子どもにかかる費用だけで、ひと月あたり2万円前後でした。※子どもの食事代は「小児慢性特定疾病医療受給者証」の適用で自己負担が2分の1(半額)
リハビリ入院は一つの「選択肢」
リハビリ入院では、集中してリハビリを受けることで大きな成長や変化を得ることができたり、複数のリハビリのプロと密に接することで親にとっても学びがあったりと、たくさんのメリットがあります。
しかし、一方で長い期間を病院/施設で生活することになるため、本人はもちろん、付き添う親にとっても心身共に負担が大きく掛かるほか、家に残る家族や周りの人々の協力も不可欠となります。
目の前の子どものことを一番に考えつつ、周囲との相談も踏まえて「リハビリ入院をするかどうか」「どのタイミングでするのが子どもにとってよいか」を検討されるのがよいでしょう。
特に、小児のリハビリ入院はまだあまりメジャーではなく、情報収集するのも一苦労です。なかには「リハビリ入院という選択肢を知らなかった」という方もいるのが現状です。
すべての疾患児・障がい児の親御さんにリハビリ入院という選択肢が浸透し、「リハビリ入院を決めた」「リハビリ入院を選択しなかった」という二択が当たり前の世界になったらいいな、と思います。
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