災害は、誰にとっても予測不可能な出来事です。混乱や緊急事態への対処も安易ではありません。
とはいえ発達障害児を育てる親としては、いざというときのために障がいに適した対応を知っておきたい…!
自閉スペクトラム症の娘を持つ筆者は、ある災害の際に娘の特有の反応や行動に直面し、防災対策についてより深く考えるようになりました。
この記事では、発達障害児と暮らすご家族が災害に備えるためにどのような準備と練習が必要かを、筆者の経験からご紹介します。
【子どもの情報】
- 年齢:9歳(2024年1月現在)
- 診断名:自閉スペクトラム症(知的発達の遅れなし/興味やこだわりが強い/感覚過敏/強迫、不安症あり)
- 診断時期:4歳4ヵ月
災害が発生…そのとき自閉スペクトラム症の娘に見られた状態は?
過去に日本で発生した災害では「自閉症スペクトラム障害群(ASD 群)」と「定型発達きょうだい群(TDS群)」において、次のような様子が見られたとの報告があります。
熊本地震が自閉症スペクトラム障害の人々の心身にどのような影響を与えたのかについて,自閉症スペクトラム障害群(ASD群)と定型発達きょうだい群(TDS群)との比較検討を行った。その結果,ASD群と TDS 群の双方で,急性ストレス反応(ASR)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に特徴される「生理的過緊張」「退行現象」が多く出現していたことが示唆された。
一方,ASD 群では,生理的過緊張の反応が重なった際に,こだわりやパニック,独り言,自傷や退行などの自閉的行動特徴の表出が顕著となり,嗜好や習慣を変容させる程の強いストレスとなっているケースも多かった。また,同群内の比較では,被害の大きかった地域や家屋の全壊での睡眠の問題や,余震の続く地域での僅かな振動や物音への恐怖が顕著となった。
【引用】熊本地震による自閉症スペクトラム障がい児者の心身への影響と保護者の対応について
URL:https://core.ac.uk/download/pdf/296900001.pdf
自閉スペクトラム症と診断されている筆者の娘も、大きな地震に遭遇した際、次のような様子が見られました。
▼娘に出現した「ストレス反応」の一例
- スマートフォンの通知音に過剰反応する
- 目に見える災害の情報を怖がる
- 小さな物音を怖がる
- 親のそばを離れない
- 荷物を念入りに確認する
- 建物に入った際、“どこに出入口があるか”を気にする
- 落ち着きがなくなる
- さまざまな場面で甘えてくるようになる
- こだわりが強くなる
地震に関連するすべての情報や事象に過剰に反応するようになったほか「元々持っていたこだわりがより一層強くなる」「これまで一人でできていたことに対して『できない』と甘えてくる」などの様子が強く見られました。
災害に備えてしておきたいこと
災害の際に見られた娘の特有の反応や行動も含め、筆者が今後「備えておくといいかも…!」と感じたのは、次のことです。
防災マップで避難所を把握する
災害が起こると、通い慣れている道が通れなくなったり、他の避難場所に行かなくてはならなくなったりする場合があります。そのため、避難場所に行くための経路を何通りか把握しておいたり、他の避難場所や避難経路を知っておいたりしましょう。
自閉スペクトラム症の娘は、パニックになるといつも以上に指示をうまく受け取れない傾向があります。そのため、避難所までの経路をマップから印刷してノートに貼り付けるなど、いつでも可視化できる方法を選んでいます。
防災グッズの中身を見直す
用意している防災グッズの中身を、定期的にメンテナンスすることも大切です。非常食用の飲料水や食料は通常よりも消費期限が長いため、つい確認を怠りがち。うっかり期限切れなんていうことにならないように、3ヵ月〜半年に1回を目途にチェックするのがおすすめです。
飲料水や非常食の他にも、古くなりすぎた常備薬の入れ替えや、懐中電灯やラジオなどの動作確認なども忘れずにしておきましょう。
▼発達障害児向けの便利な防災グッズについてはこちらの記事をご覧ください!
防災グッズの場所を確認する
いざというときにしか使わないから、普段はクローゼットや目の付かない場所に置いておけばいいか…
そう思う方がいらっしゃるかもしれませんが、防災グッズはすぐに取り出せる場所への収納が第一です。下ろす際に重さで体に負担がかかったり、地震で落下して破損してしまったりしないように、できるだけ低い場所への収納を心掛けるとよいでしょう。
家の立地やご家族の構成によっても異なりますが、主に次のような場所がおすすめです。
- 玄関付近
- リビング
- キッチンやパントリー
- 寝室
- 子ども部屋
- 車内
災害に備えて練習しておきたいこと
いざ災害が起こると、普段とは違う環境で食事をしたり睡眠を取ったりしなければならないことも。それは、こだわりや感覚の過敏性が強い発達障害児にとって、大きなストレス要因になる可能性があります。もちろん、大人も同じです。
子どもも大人もストレスを軽減できるよう、災害に備えて練習しておくとよいことをご紹介します。
非常食を食べられるように練習する
非常食は、加熱調理の必要がなかったり手を汚さずに食べられたりするものが多くあります。その分、食感や味にやや特徴がある場合も。
そのため、期限が近付いた非常食を実際に試食して「我が子は何を食べられるか」を把握しておくと安心です。万が一食べられないものがあった場合は、別の非常食に差し替える、または「どのように工夫すれば食べられるか」を検討するきっかけになります。
味覚過敏のある自閉スペクトラム症の娘は、非常食の定番『アルファ米』の食感が苦手なようでした。規定の調理方法よりもやや多めに水を加え、お米が柔らかくなるように調理することで口に入れたときのストレスを軽減できるようにしています。
和式トイレを使えるようにする
避難所の常設トイレは、和式トイレが多いのが特徴。そのため「使い慣れない子どもや、足腰に不安のある高齢者の方には使用が非常に難しい」と問題視されています。
最近は洋式トイレが多いため和式トイレが苦手な子も多いようですが、筆者の娘もその一人です。普段、遊びに出掛けた先に和式トイレがあれば積極的に使わせるなど、日頃から和式トイレにも慣れていけるよう心掛けています。
いざというとき慌てないように備えと練習を
発達障害児とともに災害に備えるためのポイントを、筆者の経験からご紹介しました。災害時には誰もが混乱しますが、特に発達障害児と暮らすご家庭では、その対応がより一層複雑になりがちです。
不安ななかで少しでもご家族が落ち着いて暮らせるように、まずは子どもの特性から考えられるパニック状態を正しく知って、できることから練習や工夫を進めてみてくださいね。
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