発達障害児の親御さんの中には、子どもの爪噛みに困っているという方もいるのではないでしょうか?
筆者の発達障害のある息子も、爪噛みがやめられずに悩んできました。なんとかやめられないかと様々な対処法を試し、今は少しずつ改善してきています。
そこで今回は、子どもの爪噛みの原因や心理、爪噛みを治すための効果的な対処法を実体験を通してご紹介します!
\この記事を監修してくれた人/
認定心理士 梅田ミズキ先生
日本心理学会認定心理士、サービス介助士。フリーライターとして臨床心理・介護・児童福祉・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集などに携わりながら、児童福祉施設へも訪問しています。
子どもの爪噛みの原因とは?
爪噛みの原因としては、主に以下の3つがあげられます。
1.何らかのストレスがある場合
自分の爪を噛んでしまう行為は「咬爪症(こうそうしょう)」と呼ばれており、特に子どもによく見られる癖の一つです。自分の身体に影響を及ぼす行為を繰り返す「身体集中反復行動症(BFRBs)」の一種と考えられています。
たとえば、環境の変化などによる不安や、苦手なこと・嫌なことによる恐怖にストレスを感じ、気持ちを落ち着かせるために爪噛みをすることがあります。これを自己刺激行動といいます。
特に発達障害の子どもは子どもによって様々な特性があり、ストレスを感じやすいこともあります。
発達障害児の特性を以下に紹介します。なお、障がいは同じでも特性は子どもによってさまざまです。
- 急な予定変更が苦手
- 知らない人や慣れない場所に対して不安を感じやすい
- 人間関係でトラブルが起きやすい
- 五感の刺激を過剰に感じやすい(感覚過敏)
こうした特性がストレスに繋がり、爪噛みの原因になっていることもあるかもしれません。
2.なんとなく癖になっている
特にストレスを感じていなくても、爪噛みが癖になってしまっていることもあります。手持ち無沙汰な時や退屈な時に、爪を噛むことで刺激を与えている場合が多いです。
3.几帳面な性格
几帳面な性格の子どもの場合、爪が伸びていることが気になって、つい噛んで短くしてしまうことがあります。自分で爪を噛んで短くすることを繰り返すうちに、少しでも伸びると気になってしまうようです。
【参照】第三章 発達障害児に見られやすい行動特徴|東京都保健医療局
URL:https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/tamafuchu/hoken/handbook.files/6dai3syou.pdf
我が家の発達障害の息子は、3歳7ヶ月の時に爪噛みを始めました。元々はストレスが原因で、それが癖になってやめられなくなってしまったのではと考えています。
我が家の場合の爪噛みのきっかけ
息子の爪噛みが気になりはじめたのは、幼稚園の夏休み後半でした。
ここ最近爪を切っていないけど生えてない…
と気づいたのがきっかけです。そこから爪噛みを疑い、しばらく観察を続けているとある日から家で爪を噛む姿が見られるようになりました。
原因は、夏休み中の環境の変化だったと思います。夏休みは幼稚園の預かり保育を利用していたため、通常クラスとは違う環境でした。他学年の子どもたちが集まる大人数、しかも毎日子どもたちや先生の顔ぶれが入れ替わることに戸惑っていたのだと思います。発達障害の息子はいつも部屋の角で孤立していました。
爪噛みが始まったのはそこからです。
どんどん癖にもなっていっているように感じたので、我が家では、爪噛みを防止するために対策を考え実行することに。実際やってみると、効果が感じられたこと、あまり感じられなかったことがありました。
発達障害がある我が家の息子が実践した爪噛みの対策
爪噛みがわかってから、いろいろな対策を我が家でも実践してみました。実際に効果が感じられた対策、効果が感じられなかった対策をご紹介します。
実践して効果が感じられたこと
「やめよう」と言うことをやめ、スキンシップや褒めることに変える
「やめよう」という声かけも、叱ることも効果が感じられなかったので、「やめようね」と言うことをやめて、今はどうしても気になる場合には「だいじ、だいじ」と子どもの手を包むようにしています。そして爪の白い部分が生えてきたら褒めるようにしています。
我が家の場合はこの方法で反発することなく、「うん」と言って素直に爪噛みをやめてくれることが多いと感じています。
いつしているのかを観察して代替行動を促す
いつ爪を噛んでいるのか観察してみると、息子の場合「手持ち無沙汰感」がある時に爪を噛んでいるということがわかりました。
具体的には
- 電車の動画を見ている時
- 眠りに入る直前のぼーっとしている時
- 幼稚園のバス停に向かう道中にも爪を噛んでいる時
などです。
そこで手持ち無沙汰にならないよう対策をし、動画を見る前や寝る時は事前に指先を使うおもちゃを渡しておくようにしてみました。
これが息子には効果的でした。おもちゃで指先を使っている時は、爪噛みをすることなく過ごすことができました。
指先を使う小さなおもちゃが有効で、爪噛みが予想されるタイミングで事前に渡すようにしています。これはすぐに息子本人にも癖づいたようで、自らおもちゃを探しに来るときもあります。
実践してあまり効果が感じられなかったこと
むしろ逆効果だったのは叱ること
初めは「爪が痛そうだからやめようね」というような声かけをしていました。でも効果はありません。もう少し強く言ってみた方が良いのかなと思い、叱ってみたこともありました。しかし叱るとその場でもっと爪を噛もうとするため、これについては完全に逆効果でした。
【ミズキ先生のワンポイントアドバイス】
子どもに爪噛みを治してもらいたい場合、爪を噛むことがいけないことだと伝えることは必要です。
しかし、むやみに叱ることは得策とは言えません。爪噛みは、自分の気持ちを落ち着かせるために行っているもの。そのため、爪噛みの行為にだけ目を向けて叱ってしまうと子どもにとっては気持ちのやり場がなくなり、ストレスを溜め込んでしまう可能性があります。また、別の自傷行為や問題行動につながってしまうこともあります。
難しい場面もあるかもしれませんが「できるだけ叱らない」対策をして無理にやめさせるのではなく、本人が安心して爪噛みをやめられるように促すことが大切です。
苦いマニキュアを塗る
爪噛みを治すために一番最初に取り入れたのが「苦い味がするマニキュアを塗る」方法でした。
子どもの爪噛み防止に、苦い味のマニキュアが販売されています。苦いだけでなく、爪を保護する成分が含まれているものが多いので、爪噛みによって傷んでしまった爪の成長を促すためにも活用できます。
実際に購入して試してみたところ、息子の場合はあまり効果を感じられませんでした。「ただ苦いマニキュアを塗って爪噛みの行為をやめさせるだけでは子どもの気持ちが発散できていないのでは」という気持ちもあり、マニキュアだけで続けることに抵抗があったので長くは続けませんでした。
続けるなら、子どもの気持ちを発散できる他の方法と併用するのが良いかな、と思いました。
噛むための代替品を用意する
爪以外に噛んでいい代替品を渡してみたりもしましたが、こちらも息子にはあまりしっくりきていないようでした。噛むという行為自体に安心感を覚える子どもの場合には効果的なのかもしれませんが、息子の場合「爪だから噛みやすかった」ようです。
また、これは親としての筆者の感想ですが、噛むと服にまで唾液が垂れて濡れてしまうというデメリットも感じていました。口に入れるものなので衛生面で気を配る必要もあります。さらに、もし噛んでいいものがなかったときにお友達に噛みつく癖がついてもいけないので、あまり続けられないなと思いました。
代替品を用意するときには子どもの年齢や噛む力の加減にもよりますが、赤ちゃん用の歯固めは噛みちぎってしまうことがあるので、なるべく丈夫なものだと良さそうでした。また、食品で作られているものや無塗装のものを選ぶとより安心です。
他にもできる爪噛み対策
我が家で実践した対策のほかにもできる、爪噛みがやめられないときの対策をご紹介します。
爪を短く切って手袋で保護をする
自宅でできる対処法として、常に爪を短く切っておくようにしましょう。「伸びてくる前に噛んでしまう…」というご家庭も多いかもしれません。あくまで、伸びていることに気付いたタイミングで大丈夫です。
なお、皮膚そのものを噛み続けてしまうと、感染症のリスクが高まります。短く切った後は手袋を着用し、指先を保護するのもおすすめです。
心療内科や小児科を受診
爪噛みの主な原因は「ストレス」「不安」「退屈に対する反応」などが挙げられます。先述した「爪を切る」「手袋で保護する」「できるだけ叱らずに見守る」は、自宅でできる対処法です。
しかし、爪を噛む行為自体を緩和するには、根本的な原因へのアプローチが必要といえます。心療内科や小児科で相談し「なぜ爪噛みをしてしまうのか」を明らかにすることが大切です。
実体験から思う子どもの爪噛みに対応する時のポイント
こうしていくつか爪噛みの対策を実行してみて、気づいたポイントをいくつか紹介します。
原因に着目する
まずは爪噛みをしてしまう、やめられない「原因」に着目しましょう。原因がストレスにあるとすれば、そのストレスが何によるものかを把握することでうまく対処できるようになっていきました。子どもとのコミュニケーションを通して、不安に思っていることがないかなどを探ってみると良いかもしれません。
爪を噛むタイミングを観察する
子どもの行動をよく観察して「いつ爪を噛んでいるのか?」を把握することで、対処法を考えやすくなりました。
特に言葉で気持ちをうまく伝えられない子どもの場合には、爪を噛むタイミングを知ることが原因を知ることにも繋がります。爪を噛むタイミングがわかっていることで、爪噛みをする前に先回りして対応するようにしました。
ちなみに、我が家の場合では以下のような時に定期的に爪を噛んでいたことでタイミングと対処法がわかってきました。
新しい場所へ行くのにストレスを感じる時
新しい場所に向かう時に爪を噛んでいる様子が見られました。新しい場所や環境では、ストレスを感じやすく、その影響が爪噛みに出てしまうこともあります。対処法として、事前にその場所についてどんな場所なのかを説明したり、写真を見せたりすることで気持ちの事前準備ができるようになりました。
なんとなく手持ち無沙汰な時
手先が対策で何もすることがない時にも、無意識に爪を噛んでいるようでした。癖になって爪噛みがやめられなくなってしまっていたので、手先の退屈さを凌げるようにしました。
子どもの気持ちに寄り添って爪噛みを改善しよう
爪噛みに気づいてから数ヶ月が経ち、息子の爪噛みは以前よりは改善しましたが、まだまだ道半ばです。
爪噛みにより菌が入って指が化膿寸前にまで腫れてしまうこともあり、これをきっかけに小さいながらに本人も爪噛みをやめようと意識しているように見えましたが、反対にお友達とのトラブルが増えてしまいました。まるで、爪噛みの代わりに別の行動で発散しているようでした。
爪噛みを代替品や代替行動に移行することは容易なことではないですが、少しずつ爪を噛まなくても落ち着ける方法を息子と一緒に見つけていきたいなと思っています。
爪噛みにはデメリットは多いですが、爪噛みをする子どもにとっては気持ちを落ち着かせるための安心材料になっている可能性があります。無理にやめさせるのではなく、子どもが納得して爪噛みをやめられるように気持ちに寄り添いながら、気長に付き合っていきましょう。
認定心理士 梅田ミズキ先生からのひとこと
噛んで小さくなった爪や指先の荒れを見ると、早く辞めさせてあげたいあまり、つい叱りたくなってしまいますよね。これは、我が子を思ってのことです。「自尊心を傷つけてしまったのでは」「このまま長く続いてしまうのでは」と一人で悩まず、まずは専門機関へ気軽に相談してみてください。
参考文献
【参照】身体集中反復行動症|MSDマニュアル プロフェッショナル版
URL:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/08-%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%BC%B7%E8%BF%AB%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%97%87%E7%BE%A4/%E8%BA%AB%E4%BD%93%E9%9B%86%E4%B8%AD%E5%8F%8D%E5%BE%A9%E8%A1%8C%E5%8B%95%E7%97%87
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