
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しが決まったけど、環境が変わると不安定にならない?
そう心配している保護者の方も多いのではないでしょうか。特に、ルーティンを大切にする子どもの場合、住む場所が変わると大きなストレスになる場合もありますよね。
この記事では、自閉スペクトラム症の娘との引っ越しを経験した筆者が準備してよかったことや引っ越し後に困ったこと、その対処法について実体験をもとに紹介します。「子どもが穏やかに新居で暮らせるように準備したい」と悩んでいる方は、ぜひお読みください。
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しはなぜ大変?
引っ越しは環境の変化が大きく、自閉スペクトラム症の子どもにとって心身の状態が崩れてしまう原因となるため、いつも以上にケアに気を配る必要があります。
自閉スペクトラム症のある子どもの多くは、予測のしやすい一定のルーティンの中で安心感を得る特性があります。そのため、住む場所が変わるという引っ越しは、いつもの環境が大きく変化する出来事として、不安やストレスの原因になりやすく、不安定になりやすいのです。
今回、筆者は同じ市内での引っ越しで学校は変わらないとはいえ「本当に大丈夫だろうか」と迷いがありました。
娘にとって、部屋の配置や窓から見える景色、音や光といった細かな環境まで、すべてがルーティンの一部です。それが変わってしまうと、いままで築いてきた安定が崩れてしまうのではないかと心配でした。
しかし、同時に「環境の変化を恐れすぎてもいけない」とも考えたのです。娘にとってできる限り良い形で新しい環境に移行できるよう、しっかり準備しようと決心しました。
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越し前に準備してよかったこと5つ
引っ越しが決まってから筆者が力を入れたのは、以下の5つの「事前準備」でした。環境変化に敏感な自閉スペクトラム症の娘に、ゆっくりと心の準備をさせてあげたかったためです。
引っ越しを「視覚的に」理解させてあげる
言葉だけの説明では不安が増すと思ったため、視覚的に理解できるように以下のような工夫をしました。
- 内見時に新居を撮影して一緒に眺める時間を作った
- 動画も見せながら「ここがあなたの部屋だよ」と繰り返し伝えた
- カレンダーの引っ越しの日に印をつけ「あと〇日」とカウントダウンした
最初はピンと来ていなかった様子の娘が、数日後には「ここ、私の部屋だよね」と言い始めた際は安心しました。



見慣れることで、未知のものが「知っているもの」に変わっていくのだと実感した瞬間です
梱包を一緒に楽しむ
住み慣れた家が梱包した段ボールで埋まっていく状況に、娘は不安そうでした。また、準備に追われる私の慌ただしさも娘に伝わり、悪循環になっていました。
そこで実践したのが、一緒に段ボールへ荷物を詰めて荷物の名前や絵を書いてもらうなど、梱包を一緒に楽しむ工夫です。「これは新しいおうちに持っていくよ」と説明しながら作業すると、娘も引っ越しという出来事を少しずつ理解していったようです。
新居の部屋のレイアウトを事前に決める
新居の娘の部屋については、できるだけ元の部屋と同じ配置になるように計画しました。
- ベッドの位置や壁の向きを元の部屋と同じにした
- 勉強机と窓との位置関係を似た配置にした
- おもちゃや本の収納場所を、できるだけ同じ高さ・位置にした
引っ越し業者の方にも事前に相談して、娘の部屋の荷物は最優先で配置してもらうようにお願いしました。新居に着いた際、娘が自分の部屋を見てすぐに「いつもと同じ」と感じられるように、できるだけ早く整えたかったためです。



実際、引っ越し当日に娘の部屋だけでも完成していたことで、娘は落ち着いて過ごせました
「お守り」になるものを持たせてあげる
引っ越し当日、娘が不安にならないようにと考えて実施したのが「お守り」を持たせることです。娘が小さい頃から大切に持っているぬいぐるみを、引っ越しのトラックではなく、私たちの車に乗せて移動しました。
新居に着いて最初に娘の部屋にそのぬいぐるみを置くと、娘は「ここが私の部屋」とすんなり受け入れてくれたのです。変わらないものが一つあるだけで、子どもは安心しやすいのだと感じました。
引っ越し前に「さよなら」の時間を作る
引っ越しの前日、娘が「ひと部屋ずつありがとうって言ってきていい?」と言い出しました。子どもなりに、家への愛着やお別れの気持ちを感じていたようです。
そこで、写真を撮って一緒に「この家で楽しかったこと」を振り返る時間を作りました。これが、気持ちの整理をする大切なひとときになったようです。
大人も子どもも、お別れの時間を持つと、次のステップに進む準備ができるのだと学びました
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越し後に困ったことと対処法
とはいえ、どれだけ準備をしても、実際に引っ越してみると予想外の困りごとが出てきました。ここでは、筆者が引っ越し後に経験した困りごとと、どのように対処したかをお伝えします。
睡眠リズムの乱れ
引っ越して最初の1週間、娘は夜中に何度も起きるようになりました。新しい部屋の音や光、匂いに敏感に反応していたようです。そのため、以下のように対処しました。
- 遮光カーテンを取り付けた
- 匂いで安心できるように使っていた布団やシーツをそのまま使った
- リラックスできるように夜は静かな音楽を流した
- 絵本を読む、お気に入りのぬいぐるみを抱くなど寝る前のルーティンを徹底した
1週間ほどで少しずつ慣れてきましたが、睡眠リズムが完全に整うまでには2週間以上かかりました。この期間は親も寝不足になりがちなので、昼間に少しでも休む時間を作るのが大切です。
通学路の変化による朝のパニック
学校は変わらなくても通学路が変わったため、最初の数日間は朝にパニックを起こすことがありました。「いつもと違う道」が、娘にとっては大きなストレスだったようです。
そのため、以下の対策をしてみました。
- 急がず、娘のペースで歩くのを優先
- 新しい通学路の途中に「目印」を作る
- 毎日同じ道を通り「これが新しいいつもの道だよ」と繰り返し伝える
- 学校に着いたら「ちゃんと歩けたね」と褒める
通学路の目印は、たとえば「この公園を通る」「この看板の前を通る」など、わかりやすいポイントを設定しました。



引っ越しから約1ヶ月経ったいま、新しい通学路が「いつもの道」として定着し、スムーズに登校できています
近所の音や環境の違いへの戸惑い
前の家は静かな住宅街でしたが、新居は少し大きな道路に近く、車の音や人通りが多い場所です。窓を開けると聞こえてくる音がいままでと全く異なり、娘は戸惑っていたため、以下の対策をしました。
- 昼間は窓を開ける時間を短くして徐々に慣らす
- 音が気になるときは、娘が好きな音楽をかけて気をそらす
- 「新しいおうちはこういう音がするんだね」と一緒に確認する時間を作る



1ヶ月経ったいまでは多少の音は気にならなくなり、窓を開けて過ごせるようにもなっています。時間が解決してくれる部分もあるのだと感じました。
親である私自身の疲れ
引っ越し後につらかったことの一つは、筆者自身が感じた疲れでした。子どものケアをしながら荷解きや新しい生活の準備を進めるのは、想像以上に大変なものです。
「子どものために」と頑張りすぎて自分のことは後回しだったものの、親が疲れ切ってしまってはよくありません。そこで意識したのが「小さな息抜きの時間を作る」ことです。
娘が寝た後の30分、好きなドラマを見る時間を作ったり、週に一度は夫に子どもを任せて近所を散歩したりしました。完璧を目指さず「今日はここまで」と区切りをつけるのも大切です。



親自身のメンタルケアを忘れずに、無理のないペースで新生活に慣れていくのが、子どもの安定にもつながると感じています
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しを控えている方へ
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しは、事前に準備しても、うまくいかないことが出てきます。そのとき「準備が足りなかったんだ」と自分を責めるのではなく「いまできることを一つずつやっていこう」と考えるのが大事だと思います。
親が思っている以上に、子どもは新しい環境に順応する力を持っているものです。筆者の娘も、最初は不安そうでしたが、いまでは新しい家で楽しそうに過ごしてくれています。
もしいま引っ越しを前に不安を感じているなら、それはとても自然な気持ちです。同じように悩み、乗り越えてきた親がたくさんいます。
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しは家族で乗り越える「通過点」
自閉スペクトラム症の子どもとの引っ越しは、家族が一緒に成長するための大切な「通過点」でもあります。
事前に準備や工夫をして、引っ越し後の困りごとにも柔軟に対応することで、子どもは新しい環境に適応していきます。完璧を求めすぎず、一つずつできることを進めていきましょう。
引っ越しは、新しい生活のスタートです。私自身、まだ慣れないこともありますが、きっと数ヶ月後には「あのとき頑張ってよかった」と思える日が来ると信じています。













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