「障がいをもって生まれただけで、当たり前のサービスが届かない―。そのアンフェアをなくしたい。」そう語るのはコノベル事業責任者の柳田翔悟さん。
いまや一般的な保育園や幼稚園ではデジタル化が進み、連絡帳や申請もアプリで完結するのが当たり前になりつつあります。ところが児発・放デイ(※児童発達支援・放課後等デイサービス)では、保護者も支援者もいまだに“紙のやりとり”に追われているのが現実です。
そんな現状を変えようと取り組んでいる柳田さんが開発したのが、療育の現場に特化した連絡アプリ『コノベル』。その開発の背景には、子どもの頃に自身も難病を患っていた経験がありました。
今回は事業所の運営を支えるサービスをどんな人がつくっているのか、どんな想いを持っているのかに迫ります。
VISH株式会社 柳田翔悟さん
愛知県名古屋市出身の30歳。療育施設に特化した連絡アプリ「コノベル」の開発に携わる。現在はプロダクトマネージャーとして機能設計やサービス向上に取り組んでいる。
医療での葛藤からITへ。現場の課題を解決するために選んだ新たな道

―柳田さんは、普段どんなお仕事をされているんですか?
VISH株式会社が運営するコノベルの事業責任者として、児発・放デイを運営する事業所の皆様への機能紹介、現場でのヒアリング、開発チームとの会議など、とにかく事業にまつわるいろんなことをしています。
―事業責任者というだけあってお忙しそうですね…!そんなコノベルのお仕事は、なぜされることになったんですか?
実は私は子どもの頃に難病を抱えていました。一時は病状が重かったのですが、医療に助けられて今こうして元気に過ごせるようになったんです。
そんな経験から「医療に助けられた自分が、これからは医療に貢献していきたい」との思いで医療業界に入りました。でも、そんな中で徐々に見えてきたのは『患者のために何の力にもなれない社会や業界の現実』だったんです。
どうしたら困っている人を助けられるのか―葛藤していたところでITとの出会いがありました。ITならば「困っている人の課題を解決するサービスを、自分の手で作り出すことができる」その魅力に気づいて、この業界に転職したんです。
―なるほど!コノベルというサービスに思いを持って、転職を決意されたんですね!
実は、コノベルは私が立ち上げに携わったプロジェクトなので、転職した当初はいまのコノベルの形ではなかったんですよ。私はもともとは一般の保育園や幼稚園向けの連絡アプリを担当していたんです。最初はそのアプリを児発・放デイで実際にご利用いただいていたのですが、幼稚園・保育園と児発・放デイではそもそも概念が違うのでうまくマッチしなくて。
そんな折、ある施設の職員さんから「児発・放デイ向けのアプリを作ってほしい」という声をいただきました。そこで、療育の現場へ、見学に行ってみることにしたんです。
―コノベルの開発は、施設職員さんの声がきっかけだったんですね!実際の現場を見て、どんなことを感じましたか?
まず、紙の連絡帳や申請書のやり取りの負担の大きさに驚きました。
「これだけの時間が、もし子どもと関わる時間に変えられたら…」と思っていたとき、支援の見学に来ていたお母さんが、お子さんを本当に嬉しそうに見つめている姿を見たんです。あの姿は今も忘れられないですね。
きっと子育ての中には色んな不安があると思うんですよ。でも、家では見せない子どもの姿を知ることで、こんなにも笑顔になれるんだ、というリアルを感じたんです。
この笑顔や喜びをもっと増やしていきたい―そう思って「デジタルの力で療育の現場を変えよう。」と決意しました。
作業を減らすことが目的じゃない。“笑顔の時間”を増やすために

―保護者の笑顔を増やしたい、という気持ちがベースにあるんですね。具体的に保護者の負担になっていると感じたのはどんなことですか?
まず気になったのが、紙の連絡帳の存在です。保護者の方からも「朝はとにかく時間がない…」というお話を伺いました。
たしかに、慌ただしい朝に連絡帳を書くのはとても大変ですよね。子どもがぐずる横で急いで書いたり、朝食を食べさせながら書いたりしている保護者の方もいらっしゃる。場合によっては、前日の夜に書いてしまうなんて声もききました。
―わかります。実は私も、前日の夜に連絡帳を書いちゃうことがあるんです。
ですよね(笑)。でも、本当に伝えたい情報って前日の夜から朝の様子だと思うんですよ。紙の連絡帳だと負担が大きくて、伝えたい情報が伝わらないこともあるんです。
だから、コノベルには連絡帳機能を取り入れました。忙しい朝ではなく、保護者が手の空いたタイミングで、本当に伝えたい情報を施設側に共有できるようにしています。
施設側も同じで、アプリで記入できるようになったことで、子どもを送り出すまでに急いで連絡帳を書く必要がなくなります。
―それは助かります!紙のやりとりってやっぱり不便な部分も多いんですよね…。
私たちも現場に足を運ぶ中で、そういった保護者の声をたくさんお聞きしました。
連絡帳に加えて、もう一つ負担を感じる声が多かったのは児発・放デイの利用日を調整する時の「利用申請」です。
児発・放デイの中には、利用日が曜日固定ではなく、毎月利用する日を書類に記入して申請が必要な施設があるんです。障がいのあるお子さんの場合、受診の予定によって、その都度日程変更をしたりすることもあって、やり取りが大変なんですよね。
しかも施設職員さんにはさらに負担が大きくて、申請書類の配布から回収、その後の管理まで対応しなければならないんですよ。
―これらの作業を毎月繰り返すと思うと、本当に大きな負担になっていることがよくわかります…!これもデジタルの力で解決できるんでしょうか?
はい。この課題を解決するのが利用申請機能です。
保護者がアプリ上で利用申請をすると、入力内容がそのままアプリ内の施設カレンダーに自動的に転記されるので、誰もが利用状況をすぐに確認できます。アプリは24時間入力可能なので、利用日の変更や欠席の連絡も、保護者の手の空いたタイミングで行うことができるんです。

―すごく便利!保護者と施設職員、どちらの負担も大きく軽減できそうですね。
実際にコノベルを活用された方からは「これまでの負担が軽減されたことで子どもたちと過ごす時間が増えました」という声をいただくこともあり、私自身とても嬉しく感じています。
“想定”ではなく“対話”から。現場の声に寄り添い続けた開発プロセス

―コノベルは児発・放デイならではの課題にフィットしたサービスなんだということがよくわかりました。これだけのサービスを開発するには、苦労もあったのではないですか?
正直大変でした。児発・放デイ、とひとことで言っても、施設によって子どもの年齢層や障がいの程度はさまざまですので、抱える課題も微妙に異なります。そこから、どの施設にも共通するメインの課題を把握するのには苦労しましたね。
もう一つ苦労した点は、療育現場では定期的に役所への提出書類様式や制度が変更されることです。それに合わせてアプリの様式も変更を加えることができるよう、柔軟に対応可能な機能設計が求められます。これは、療育業界ならではの課題でした。
―療育現場のことを本当によく理解されているんですね…!そうした背景にある課題はどのようにして見つけていったのですか?
とにかく現場で話を聞くことですね。特に大切なのは、利用者さんが“どんな機能がほしいか”だけでなく、“なぜそれが必要なのか”という背景まで聞くことです。
だから、職員さんたちと話す中で疑問に思ったことがあると、私はつい「なんでですか?」って何度も子どもみたいに聞いちゃうんですよ(笑)。その「なんで?」の先にこそ本当の課題があると思っています。
効率化で目指すのは“子どもを取り巻くすべての人の笑顔”

―コノベルには柳田さんの思いがつまっているんですね…!そんなコノベルを通じて、どんな社会を実現していきたいですか?
私たちは、障がいや疾患といった“特性”が理由で人が生きづらくなることは、本来あってはならないと考えています。だからこそ、サービスの力で療育業界をアップデートし、子どもたちがより充実した人生を送れるようコノベルを作りました。
デジタルで担える部分をシステム化する先にあるのは“作業の削減”そのものではなく、子どもと家族がより良い支援を受けられる環境です。本当に目を向けるべきは利用者であり、そのためにこそデジタル活用が大きな意味を持つと考えています。
これからも皆さんの声を聞きながら、「子どもに関わるすべての人に笑顔とゆとりを届ける」という、コノベルのビジョンを実現すべく、走り続けたいと思います。
―子どもたちの時間がより豊かなものになるよう、コノベルがますます広がっていくことを祈っています!お話を聞かせていただきありがとうございました。
みんなの施設では連絡帳どうしてる?児発・放デイのIT化を調査中!
今回は、連絡帳アプリ「コノベル」の開発の理由を深掘りしました。疾患・障がい児家族と支援者がより良いコミュニケーションのために想いを持って開発されているコノベル。今回の特集ではVISH株式会社様と共に児発・放デイのIT化のリアルを可視化するアンケートを実施中です。ぜひ、皆さんの連絡帳の「今」をお聞かせください。




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