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【医療的ケア児家族に避難経験をインタビュー】大型台風接近で避難所へ。しててよかった準備や新たに見えた課題とは?

【医療的ケア児家族に避難経験をインタビュー】大型台風接近で避難所へ。しててよかった準備や新たに見えた課題とは?
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近年、日本各地でさまざまな災害が起きており、災害時の備えについて関心が高まっています。障がい児、とりわけ医療的ケア児を育てている家庭では、避難に不安を持つ方が多いのではないでしょうか。

災害時において、避難の様子がメディアで報道されることはよくありますが、医療的ケア児の避難体験を知ることのできる機会はほとんどありません。

そこで今回、人工呼吸器を使用しているお子さんを育てているHさんに実際の避難体験談をお聞きました。医療的ケア児の防災対策のあり方や事前にできることについて考えるきっかけになれば嬉しいです。

Hさん一家について

  • 家族構成:父、母、長男(当時4歳)次男(当時2歳、医療的ケア児)の4人家族
  • 子どもの疾患:稀少遺伝子難病、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん、心不全
  • 障がいの程度:身体障害者手帳1級、療育手帳
  • 医療的ケアの内容:気管切開、人工呼吸器管理、経管栄養(胃ろう)、吸引、てんかん発作の対応
  • 住環境:一軒家、避難所までは車で5分程度
目次

自治体と個別避難計画を作り災害対策

ーーはじめに、普段の防災対策について教えてください。

はい。週に2、3日の頻度で通所施設に通うので、その通園セットに注入の物品やオムツ、呼吸器関連の物品などを常に入れておき災害用の備えとしても活用しています。特別なこと、というよりは日常生活の延長で防災への備えをしています。

主治医が在宅支援センターに所属していて、重症心身障害児を長年診てきた経験がある先生なので、次男の病気がわかった段階から、災害時の避難についてはきちんと考えておくように言われていました。

障がいの程度が重く医療的ケアもあるので、避難が必要だと予想されるときは病院側から避難入院を提案してもらうこともあったのですが、いざという時に病院を頼るだけでなく自分たちでどうにかする環境を作っておくようにとも言われていました。

そこで、在宅生活を始めてから、地域の保健師さんと個別避難計画を作成しました。

個別避難計画とは?

高齢者や障がい者などの避難に支援が必要な「避難行動要支援者」が、災害時にスムーズに避難が行えるように、避難場所や避難の注意点などをあらかじめ定めたもの。

ーー個別避難計画の作成では具体的にどのようなことを話し合ったのですか?

まず災害時の対応の確認と連絡体制をどうするかということから話し合いました。

その結果、災害が起きたらまず相談支援専門員さんから連絡があって、やり取りをして、相談支援専門員さんが各支援機関に連絡をしてくださるような体制を整備することができました。

また、避難時の持ち物や注意事項についても細かく確認しました。人工呼吸器を使用していて、吸引も必須なので電力の確保が最優先課題です。電力が必要な医療機器をリストアップし、停電の際にバッテリーで何時間稼働可能かを確認して、関係機関と共有しています。自宅に非常用バッテリーも準備しています。

避難所の環境についても相談しました。次男はてんかんがあり、光や音の刺激で発作を起こしやすいこと、室温調整が必要なこと、その他ケアの際の注意点などを写真付きでわかりやすく個別避難計画に記載しています。

避難場所や避難方法、避難の際の注意点など、細かく記されてた個別支援計画。
実際の個別支援計画書。避難方法や注意事項等が詳しく記載されている。
使用している医療機器やケア時の様子の画像入りの個別支援計画。
医療機器やケアの注意点も写真入りで記載してあるとわかりやすい。

ーーなるほど。行政の方々としっかり連携をとって、関係性ができているんですね。

行政の方には普段から気にかけてもらっています。というのも、私の住んでいる町は人口5,000人くらいの小さな町なんです。次男は町唯一の小児の呼吸器ユーザーなので役場の人はみんな知ってくれていて、声をかけてくれるんです。近所の方も、うちに障がいのある子が住んでいることは把握してくださっています。これは田舎ならではの距離感の近さかもしれないですね。

勢力の強い台風の接近で自主避難

ーー今回はどのようなタイミングで避難をしたのでしょうか。

台風が接近する前の事前情報から、かなり強い台風だと覚悟していました。これまでも何度か台風を経験したのですが、災害級に強い台風の時は在宅か避難入院の2択から選択していました。

今回の台風は、個別支援計画が完成して、避難所への避難という3つ目の選択肢ができたタイミングだったので、練習も兼ねて自主避難しようということになったんです。台風が最接近する半日くらい前からは、もう避難しようと決めて動いていました。

ーー正直、避難をためらう気持ちはありませんでしたか?

今回はたまたま夫が在宅で人手があったのと、一緒に避難ができる安心感もあって、避難をためらう気持ちはありませんでした。でも、もし大人が自分一人だったなら避難をためらっていたかもしれないなと思います。

ーー台風や洪水などでは避難するタイミングの見極めが難しいと思いますが、どのような情報を頼りに避難を決めますか?

呼吸器の使用があるので、停電したらすぐに避難ですね。あとは、行政の通知する「避難指示」の段階で、一度相談員支援専門員さんと連絡を取り合うことにしているので、避難の目安になったり、相談もできるかなと思います。

ーーそれは安心ですね。では、実際の避難で大変だったことはなんですか?

車に運び込んだのが雨が一番強い時間帯だったため、びしょ濡れになってしまったことですね。あとはやはり荷物がかなり多いことです。次男と2人で避難入院するのであれば2人分の荷物で済みますが、家族4人分となるとかなりの量になりますから。

ーー避難に必要な物品はどのくらいになったんでしょうか?

大きなバッグで7袋分になりました。人工呼吸器、呼吸器用加湿器、吸引機、モニター、加湿用の水、注入セット、内服薬…と医療物品だけでも相当な量です。加えて、家族の食料、着替え、布団も持っていたので大荷物でした。これらの荷物とバギーを車に積んで避難しました。

避難先ではきょうだいのケアがも課題に

ーー避難先はどのような環境でしたか?

避難所は町役場でした。非常発電システムがあって停電しないようになっています。電力供給が途絶えないので、呼吸器ユーザーとしては安心です。

個別避難計画作成の際に子どもの状態や配慮が必要な点について共有できていたため、個室を準備してもらっていました。家族分の段ボールベッドと電源タップなど必要な備品が配置されていた状態だったので、とてもありがたかったです。

避難の際に「この一室はケアが必要な人の部屋」という認識で行政が用意してくれていたのは、本当に恵まれていましたね。

避難先の段ボールベッドで過ごす子どもの様子。
避難所に準備されていた段ボールベッド

ーー素晴らしい対応ですね。個別のスペースがあると避難の際にも安心感がありますね。

さまざまなケアが必要な子どもがいることに加え、他にもう1人幼い子どもがいるとなると、オープンスペースへの避難は気が引けるのが正直なところですね。専用スペースを準備してもらえていることで避難しやすいというか、避難に対する心理的なハードルは下がると思います。

ーー避難所では、お子さんの様子は普段と比べてどうでしたか?

いつもと違う環境だから、というよりは台風の影響で痙攣が増えていたのできつそうな様子はありました。避難環境自体は快適だったので、そこまで影響はなかったように思います。吸引や注入も普段通りに問題なく行うことができました。

もし避難の際に体調変化があれば、私から直接訪問看護師さんに連絡をして、看護師さんが避難所に来てくれるような体制をとってもらっているので安心感があります。

また、我が家はまだ長男も4歳と幼く、次男だけでなく長男のケアも必要なので苦労しました

ーーそうですよね。普段と違う環境で、きょうだいのケアもとても重要ですよね。

子どもは何もしない時間を過ごすのは退屈で耐えられないので、いかに気を紛らわせるかが課題で…。避難所が役場だったのでキッズスペースがあり、おもちゃや絵本などを利用させてもらえてとても助かりました。

避難体験から得た学びとは

ーー避難後、普段の防災対策を振り返ってみていかがですか?

保健師さんと個別避難計画を作成して、事前に綿密な話し合いができていたのが良かったと思います。災害は家族が家にそろっているときに起こるとは限らないので、通所施設にいるときに災害が起こった場合などの場合も想定して個別避難計画を作っています。

今回の避難では、医療的ケア児の次男の備えよりも、むしろ家族の食糧の備えができていなかったなと感じたので、そこは今後の課題ですね。今回避難したことで、良い経験になり自信がついたと思います。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします!

はい。今回は事前の準備がとても役に立ったので、日頃から地域や自治体の方とコミュニケーションをとることが大切と思いました。「迷惑かも」と考えて、支援して欲しいことを内に秘めるよりも、しっかり発信して、相談することで解決できることもあるのかなと。

実際、障がい児や医療的ケア児に関わったことのない方が障がい児を育てる苦労を理解することは難しいですし、考えようとしても具体的に考えられないこともきっとありますよね。

なので当事者から「ここが大変。こんな支援があると助かる」と具体的に伝えていくことが大切ではないでしょうか。

普段から困りごとを話し合えるような地域との関わりを

呼吸器ユーザーの医療的ケア児と幼いきょうだい児を抱えながらも、スムーズな避難をすることができたというHさん。事前に個別避難計画を作成して綿密な打ち合わせがされていたことや、普段から行政の方と顔見知りとなり、関係性を築いていたことが印象的でした。

障がい児のご家族は限界まで自分たちで頑張ることが当たり前になっており、頼ることや声を上げることが苦手な方も多いのではないでしょうか?筆者もつい「迷惑なのでは…」と思ってしまい、頼ることが苦手です。

しかし、災害などの非常時には家庭だけで解決できないこともあるのが現実。困っていること、心配なことは普段から積極的に発信して解決策を話し合っておくことで、いざという時にも安心して行動できることを、Hさんのお話から学びました。

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この記事を書いた人

6歳長男が稀少遺伝子疾患によるてんかん性脳症、重症心身障がい児。
次男、夫と4人でまったり田舎暮らしをしています。
保健師の資格を持ち、看護師の仕事をしながら文章を学ぶかけだしライター。

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