体に不調があり病院に行ったものの「様子を見ましょう」という状態が続く、治療しても効果が表れないといった困りごとに悩んだ方や今お悩みの方もいるかもしれません。
このように主治医に困りごとを伝えても自分の望む結果が得られない場合、患者はどう動けばいいのでしょうか。医師の山田さんにお聞きしました。
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本稿は「医師に聞く!医療の理解を深める特集」にてお届けしています。特集では、疾患や病院のかかり方まで障がい児育児をする上での知識を「誰も取り残さない医療を」をミッションに掲げる株式会社Mediiの皆様と共にお届けします。
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山田 裕揮(やまだ ひろき)さん/株式会社Medii 代表取締役医師・東京医科歯科大学 客員准教授
和歌山県和歌山市出身。和歌山県立医科大学卒業後、内科領域を中心とした研鑽のため堺市立総合医療センターで研修。膠原病領域の専門性を身に付けるため聖路加国際病院、慶應義塾大学病院で勤務。自身が難病患者として、専門医不足の課題を痛みを持って体感したため免疫難病の専門医となったものの、一人で診れる領域、地域は限られていたことに課題を感じる。患者数も限られ、医師の知見に偏りが生じている難病診療を支える仕組みを作り、日本中、世界中の難病患者に最新最適な医療が届く世界に近づけたい強い想いから株式会社Mediiを創業。2023年末時点で全診療科、指定難病の99%をカバーし、日本で最も医師も難渋する患者が早期診断、新薬含む最適治療に繋がる実績を持つ医師向けプラットフォームに成長してきている。日本リウマチ学会専門医・指導医として臨床現場も支えている。
受診結果に納得がいかない場合に患者はどうするべき?
まずは主治医に不安や聞きたいことを素直に伝える
ーー前回の記事(医師にうまく相談できない時は?診察時に患者が医師に伝えるべき2つのこと)「医師に何にいつから困っているかを伝えることが大切」と教えていただきました。しかし、病気の困りごとをしっかり伝えたとしても「ずっと様子見が続いてしまう」「経過観察から進まない」というケースもあります。そういう場合どうしたらいいのでしょうか?
様子見になってしまうことは、よくありますよね。医師から様子見と言われてしまうと患者目線では、どうしたら良いかわからず、不安な気持ちになってしまうかもしれません。
しかし、医師も理由があって「様子見」という判断になっている場合も多いんです。例えば、受診されるタイミングによってはまだ診断のキーとなる症状や検査結果が出ていなかったり、治療の反応性を確認するには実は週や月の単位で時間がかかる、などです。この理由を聞くことは失礼なことでは全くありません。
もし「様子見ばかりだな」と感じたら、いま一度前回紹介したように「何にいつから困っているか」を主治医に伝え、「どういう状態になったら様子見がおわるのか」「診断がつかないままなぜ通い続けているのか」ということを素直に伝えるだけでも、実は状況が変わるのではないかと思います。
他の先生に診てもらう
ーー少ししつこいと思われてしまうかもしれないんですが…それでもやはり「理解はできても様子見の状況が続くと困る」「できることがあればしたい」と考える方もいると思います。そういった場合はどうしたら良いのでしょうか?
理由はわかっても、なんとかこの状況を変えたい場合には、セカンドオピニオンなどを利用しながら他の医師にも意見を聞いてみるのもいいと思います。その際は、無理にする必要はありませんが、もしできるのであれば、主治医から他の医師を繋いでもらったり、連携させてもらえるとより良いこともあります。
様子見の状態になっている場合、症状の重さに限らず、その症状が続くことで生活や家族の患者への介助が大変になっていることも考えられます。家族の負担や介助度も医療介入をするか否かの重要な指標なため、無理につらい状態を一方的に我慢する必要はありません。
生活や家族の患者への介助が大変で困っていると伝えてもどうにかならないのであれば、他の医師はどう考えるのか、意見を聞いてみるのもひとつの方向性ということです。
一人の医師で診断がつかないことがあったとしても、複数の医師に相談することで診断がつく可能性としては上がるはずなので、そういう意味でも他の医師を受診することはメリットもあります。
ーー様子見の状態はどの医師に診てもらっても様子見になることが、やはり多いんでしょうか?
そうなる場合もあるし、そうならない場合もある、というのが現実値かな、と思います。症状や状態は背景疾患や同じ疾患だったとしても経過によって様々なため、ケースによるというのが正直なところです。
仮に他の医師に相談しても同じ「様子見」という結果になった場合にも、医師ときちんと対話して「どうしてこの結果になるのか」をクリアにしていくことが大切です。
前回お話したように、医師にも専門性があるため、どのくらいの医師に受診すれば、その原因を見つけられるのか、というのは難しいポイントです。気力と根気も必要になってしまいますが、どうにもならない時には自身の状況などと相談して様々な医師の見解を取り入れていくこともひとつです。
主治医は変えるのはあり?
様々な医師を受診することは患者の権利
ーーどの医師にかかるかというのは患者や家族にとって重要ですが、もし合わないなと思う医師だとしても、「お世話になってるし…」と思って別の病院を受診することを躊躇ってしまったり、我慢してしまったりすることもあると思います。
そう気にしてしまう人は多いんですよね。気持ちはよくわかります。でも、患者が思っているよりは医師は意外と気にしないことも多いものです。納得できるまで医師を変えて相談することや主治医を変えることは患者の権利なので、それを嫌がる医師は基本的にいません。
医師も完璧じゃないですし、自分にわからないことがあるということもわかっています。その場合に別の医師を受診することが有用であることも知っています。だから多くの先生はそこまで気にしないです。正直に気持ちを伝えてみてください。
大学病院だけがベストソリューションでない場合も
ーーあまり医師のことを気にしすぎなくてもいいんですね。少し別の観点かもしれないですが、大学病院などの大きな病院にかかっていたら、これ以上行くところがないと思ってしまいます。こういった場合にはもう行くところはないんでしょうか?
そうですよね。でも実は「今大学病院でみてもらってるんだからこれ以上診てもらうところはないんだ」と諦める必要はないんです。
大学病院には「研究」「教育」「臨床」という3つの役割があります。臨床、つまり患者の診察はそのうちの1分野です。「大学」病院というだけあって「研究」に多くの時間を費やしている人も多いです。どれも医療を支え、進歩させるのには大切な分野なので、それぞれの医師が注力分野に日々励んでいます。大学病院というのは、そういった今と未来の医療を支える役割の場所です。
臨床だけに限った話を言えば、大学病院は医師の数も多いですが役割も多様なため、市中病院のほうが実は臨床経験は多い、ということもよくあります。専門性も様々なので、たまたまその人の疾患に詳しい専門医が市中病院に出向中、というパターンもありますし、内容によっては臨床に基本的に注力している市中病院のほうが経験が豊富な可能性もあるということです。
他の医療機関を円滑に受診する方法は?
ーー他の病院を受診したい、と思った時に、うまく主治医に伝える言い方はありますか?
あまり深く気にし過ぎる必要はないですが、気をつけたいのは、患者側から指示するような言い方にしないことです。「こうするべきだと思います」という表現ではなく、あくまでも判断は医師に委ねるスタンスだと進めやすいと思います。
他の病院にかかりたい理由を伝え「だったらその先生のところに行ったほうがいいね」という判断をしてもらうようにコミュニケーションをとることは、ひとつポイントになると思います。
たとえば、これまでの経過や家族なりにやってみたこと、ここまでやったけど思うような結果が得られなくて悩んでいること、他の先生にかかることで解決したいことなどを伝えるのがいいんじゃないでしょうか。
「〇〇病院がこの病気に詳しいと聞いて行きたいなと思ったんですけどどうでしょうか?」「一度〇〇な視点からも意見を聞いてみたいのですが」というような伝え方ができるかと思います。
また、個人の意見ではなく組織や同じ病気の方におすすめされたというのも有効ですね。たとえば患者会や家族会があれば「患者会の方におすすめされました」と伝えるのもありです。
良い主治医の見つけ方
ーーなるほど。コミュニケーションについてすごく勉強になりました。そんな中で自分の希望を伝えやすかったりコミュニケーションがとりやすかったりする医師に出会うのは個人的に難しさを感じています。
わかります。どんな医師に診てもらうかというのは、難病患者にとっては死活問題といっていいくらい大事なのに、すごく難しいんですよね。
でも私は、そう簡単に見つからなくて当然なのかなと思っています。ストレスなく会話できたりずっと付き合っていける人を見つけるのって普段でも難しいじゃないですか。将来のパートナーを見つけるのと同じで、ずっと付き合える主治医をすぐに見つけるのも難しいんじゃないかなと思います。
なので、たまたま受診して出会った医師にそのままずっとお願いする必要はないし、何人もの医師に診てもらった上で長く付き合う医師を見つけてもいいんです。医師も人だから相性もありますし。
病気に詳しいからといって、自分にとって完璧な主治医とも限らないということもありますよね。
ーーそうですよね。逆に知識がない医師でも話しやすくて相談しやすかった結果、いい解決法が見つかったりすることもあります。
そうなんです。実は、いい主治医だなと判断する軸は2つあります。
1つ目が根拠に基づく医療と言われるエビデンス軸(EBM:Evidence-Based Medicine)。これはどれだけ医学的なデータや研究・経験に基づいた詳しい、確からしい知見や専門性を持っているかという判断基準です。
2つ目はナラティブ軸(NM:Narrative Medicine)です。病気は一緒でもその人の生活や物語に応じてどんな支障があるかというのが異なる中で、その個別性に配慮して患者の困りごとを受け止めて最適化していけるかというオーダーメイド視点の配慮をしてくれるのか、という基準で判断します。
コミュニケーションをとりやすいのはおそらくナラティブ軸の高い医師になると思うので、主治医にするのはナラティブ軸の先生、病気や病態についての相談をするのはエビデンス軸の先生、というふうに、どちらの軸の医師もうまく使って、より相性のいい医師を主治医にする(ハブになってもらう)ことでよりいい医療体制が築けるかもしれません。
受診結果に納得がいかない場合は複数の医師を受診していい!
今回の話のまとめ
- 受診結果に納得がいかない場合はその旨を医師に伝え、それでも変わらなければ他の医師を受診することも選択肢
- 複数の医師を受診したり主治医を変えることは患者の権利
- 主治医を変えることを相談する場合には、コミュニケーションを工夫する
- いい主治医かどうかは、エビデンス軸とナラティブ軸を用いて考える
受診結果に納得がいかなかったとしても、他の医師を受診することはためらう方も多いのではないでしょうか。でも、医師は自分が完璧ではないことをわかっていますし、他の医師を受診するメリットも知っています。医師も人なので相性もあります。「患者の権利」だと思って複数の医師に診てもらうことで、いい結果が得られるかもしれません。過度に遠慮することなく、自分に合った主治医を探していきましょう。
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