身体に障がいのある子どもがいるご家庭では、食事や入浴、移乗の際に、子どもの身体を持ち上げる場面があります。子どもが小さいうちは問題なくても、身体が大きくなってくるとケアする側の負担が大きくなり、負担軽減の方法を検討されるご家庭も多いのではないでしょうか。
筆者の場合は、身体障害のある娘を入浴させる時に、特に腰への負担を感じるようになりました。子どもの体重ももちろんですが、身体が大きくなると、抱えるのが一苦労。入浴シーンでは体が濡れて滑りやすいのも不安です。
そこで新築で家を建てる際、主に入浴時の負担軽減を目的として、リフトの導入を検討しました。とはいえ、リフトといっても普段の生活では馴染がなく、何をどう情報収集したらいいかわかりません。
実際のところリフトって負担軽減につながるの?
そもそもリフトにはどんな種類があるの?
誰に相談すればいい?
調べていくと、想像以上にたくさんの選択肢があり、さらに入浴シーンだけではないリフトの活用方法もわかってきました。
そこで今回は、筆者が新築でリフトを導入した際に収集した情報をもとに、リフトの種類やメリットについて解説していきます。
リフトの種類にはどんなものがあるの?
まず、リフトには大きく分けて天井走行リフトと床走行リフト、固定式リフト、据置型リフトの4種類があります。
天井走行リフト
天井走行リフトは、利用したいエリアの天井に走行用レールを固定または埋め込み、レールが通過する自由な場所で昇降操作をするものです。
我が家ではこのリフトを購入しました!
床走行リフト
床走行リフトは、自立式のスタンドにスリングを吊り、スタンドごと床面を動かして運ぶキャスター付きのリフトです。最近ではロボット化されたものも出ているようです。
固定式リフト
特定の場所でリフトを使用する場合に、その場所に固定して使用するタイプのリフトです。ベッドに固定することが多いようですが、玄関、脱衣所などに固定して移乗に使用するケースもあります。
据置型リフト
特定のエリアでリフトを使用する場合に、該当箇所に支柱で走行用レールを設置し、そのエリア内で行き来することができるタイプのリフト。支柱で設置したレールの範囲内であれば自由に昇降できます。2本のレールを縦横に設置することで面での動きも実現できます。
リフトの導入理由やメリット
筆者がリフト導入を考え始めた当初は入浴シーンでの介助者の負担軽減を想定していましたが、調べていくと、リフトには入浴以外にも様々な活用方法があることがわかりました。また、介助する側だけではなく、される側にとってもメリットがあることも。リフトを導入することによる様々なメリットについてお伝えします。
入浴時の負担軽減
ベッドや脱衣所から洗い場、そして浴槽までの導線にリフトを導入することで、入浴時に介助者が障がい児を持ち上げて移動する必要がなくなり、足腰への負担が大幅に軽減できます。入浴中もリフトで吊っておけるので、介助者が全力で支えている必要がありません。きょうだいの面倒をみながら、または自分のケアをしながらの入浴も安心です。
リフトと合わせてシャワーチェアを併用することで、安心して体を洗うことができます。移動や体を洗う時の負担がなくなることで、心おきなく大好きなお風呂に入ってもらえることが、家族としては何よりも嬉しいメリットだと感じています。
移乗や姿勢変換時の負担軽減
ベッドから車椅子、車椅子からベッドへの移乗時や、ベッド上での姿勢変換時などは、障がい児の身体が大きくなればなるほど、介助者の負担は大きくなります。移乗や姿勢変換にリフトを活用することで、介助者の足腰への負担が軽減されます。
筆者の9歳の娘は体重およそ20キロほど。今はそこまで負担を感じませんが、将来的には移乗時やベッド上でもリフトを活用することで、介助側の身体的負担を和らげることができると期待しています。
介助される障がい児本人の負担軽減
リフトの導入目的は介助する側の負担軽減とばかり考えていましたが、実は介助される身体障害児側にもメリットがあります。自分の身体を自分で保持しにくい身体障害児は、成長とともに体重が増加すると、体への負担が増え、関節脱臼などのリスクも高まります。リフトの活用で、生活姿勢の転換における本人の身体への負担軽減が期待できます。
また、人力での抱え上げがよしとされてきた従来の医療や介護の現場において、リフトなどの福祉機器活用を訴える日本ノーリフト協会の保田淳子さんによると、リフトの活用で介助をうける側の拘縮予防や自由度の拡大も期待できるといいます。
人力による移乗では、介助される人は抱え上げられるときに身構えてしまい、全身のこわばりの原因となることがあります。さらに、介助する人の力の入れ具合や癖により、どうしてもアンバランスな力が働き、介助を受ける人の体が拘縮してしまうことも。リフトを活用することで、バランスよく支えながら介助することができるため、体のこわばりや拘縮の心配が軽減します。(日本ノーリフト協会保田さん談)
また、無理な抱え上げは人間の持つ自然な動きをさえぎっていることが多く、介助される人の自立度を奪ってしまうことがあります。
人力ではなくリフトを使って体を起こすことで、視界が変わり、自立への意識が高まる効果もあります。
ノーリフト、という名前を初めて聞いたとき、リフトに対してNOを突きつけているのかと混乱しましたが、人力で持ち上げること(英語でlift)に対してのNO、つまり「抱え上げない介護を推奨したい」という意味だったようです。
リハビリや遊びなどへのリフト利用も
日本ではまだ導入例は少ないですが、リフトをリハビリに活用する事例もあります。例えば立位をとる時にリフトを活用してバランスよくサポートしたり、トイレでの着座姿勢をリフトでサポートしたり。リフトに乗ってゆらゆらするだけでもリラックスできる子どももいますし、リフトを活用することで、行動範囲や自由度が広がる可能性が期待できます。
筆者は、せっかく自宅に導入するなら入浴や移乗だけでなく、遊びやリハビリにも活用したいと考え動線を設計しました。娘はぐずったときにリフトに乗せてゆらゆら揺れるだけでも心地よさそうにしています。また、バランスボールの上にうつ伏せに乗るリハビリ姿勢でも、リフトを使えば安全に支えることができるかな、と期待しています。
リフトの導入に困ったら誰に相談すればよい?
ここまで、リフトを導入する事での負担軽減や様々なメリットについて解説してきました。リフトの様々なメリットを踏まえ、実際にリフトの導入を検討したいと思う方もいらっしゃるかもしれません。ここからは、リフトの導入を検討する際の相談先についてご紹介していきます。
病院のリハビリスタッフや主治医
まずは、普段お世話になっているリハビリスタッフや主治医の先生に相談してみましょう。子どもの特徴を踏まえたうえで、リフトの導入が子どもにとって有効かどうか専門的なアドバイスがもらえます。
また、病院によっては提携している業者のリフトを体験できることもあります。ただし、病院と提携している業者が取り扱うリフトのメーカーはごく一部であることがほとんど。気になるメーカーがある場合は、積極的に自分から問い合わせをするのが良さそうです。
病院のスタッフもリフトについて専門的な知識がある方ばかりとは限りません。また、病院と提携している業者は限られているので、リフトの情報は別途ご自身で情報収集をしていくのがよいかもしれません。
リフトの施工業者や販売店
リフトの施工業者によっては、様々なご家庭での施工経験から、具体的なアドバイスをしてくださる場合があります。筆者も、施行経験豊富な業者に相談したことで、利用シーンを具体的にイメージしてレールの位置や向きを検討し直すことができました。
ただし、リフトの施行経験が豊富な業者は決して多くありません。ご自身が住んでいる地域でなくとも、興味のあるメーカーを取り扱っている業者や施工経験豊富な業者があれば、積極的に相談してみましょう。
地域によっては、施工業者が1社しかないことや施工業者での取り扱いメーカーが1種類しかない場合もあるため、そういった事情を理解したうえでいくつかの業者に相談してみるとよいかもしれません。
筆者が実際に相談した施工業者は、施工経験豊富と言われるウェルネット研究所とシーホネンスでした。実際に施工をお願いしたのは地域に事務所のある別の業者でしたが、両社とも様々なご経験をもとに親身になってアドバイスをくださいました。
日本ノーリフト協会
「日本ノーリフト協会」は、医療や介護の現場で福祉機器の活用を推進する医療従事者有志の団体です。介護やケアについて、フラットな立場からのアドバイスが期待できます。現在は主に医療者向けの研修などに力を入れているようですが、個人からの相談も受け付けています。
筆者の場合はたまたま知人を通じてこの協会からアドバイスをもらうことができました。直接相談したい場合は、同協会サイトの「お問い合わせ」から連絡すると受け付けてくれます。
専門家に相談しながらリフト導入を考えよう
身体障害児を介助するためのリフトの基本知識とそのメリット、そしてリフト導入にあたっての相談先について解説してきました。リフトは入浴以外にも活用でき、介助者にとっても子どもにとってもメリットが大きいです。
ただ、種類も多くそれぞれの活用ニーズによって適したリフトが異なるため、主治医をはじめご紹介した専門家に相談しながら導入を検討していきましょう。
リフト導入を迷っているご家庭の皆さんの参考になったら嬉しいです。
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