体の不調が複数ある、症状が治らない、障がいが重複しているなど、何か病気や原因がありそう、ということはわかっていても、具体的な病名の特定に至らないケースも中にはあります。
たとえば子どもでも、重症心身障害児と判断されているにも関わらず、何が原因でそうなったのかが検査をしてもわからない、というようなことが実際に起きています。
そういった時、患者や家族としてどう動いたらいいのでしょうか。
————————-
本稿は「医師に聞く!医療の理解を深める特集」にてお届けしています。特集では、疾患や病院のかかり方まで障がい児育児をする上での知識を「誰も取り残さない医療を」をミッションに掲げる株式会社Mediiの皆様と共にお届けします。
▼特集ページ
————————-
山田 裕揮(やまだ ひろき)さん/株式会社Medii 代表取締役医師・東京医科歯科大学 客員准教授
和歌山県和歌山市出身。和歌山県立医科大学卒業後、内科領域を中心とした研鑽のため堺市立総合医療センターで研修。膠原病領域の専門性を身に付けるため聖路加国際病院、慶應義塾大学病院で勤務。自身が難病患者として、専門医不足の課題を痛みを持って体感したため免疫難病の専門医となったものの、一人で診れる領域、地域は限られていたことに課題を感じる。患者数も限られ、医師の知見に偏りが生じている難病診療を支える仕組みを作り、日本中、世界中の難病患者に最新最適な医療が届く世界に近づけたい強い想いから株式会社Mediiを創業。2023年末時点で全診療科、指定難病の99%をカバーし、日本で最も医師も難渋する患者が早期診断、新薬含む最適治療に繋がる実績を持つ医師向けプラットフォームに成長してきている。日本リウマチ学会専門医・指導医として臨床現場も支えている。
わかり得る先生にアクセスすることも大切
ーー主治医に「原因がわからない」と言われてしまったら、患者や家族としてこれ以上できることがないと思ってしまうのですが、実際まだできることはあるのでしょうか?
主治医に言われたら、これ以上できることがないって思いますよね。ごもっともだと思います。その場合に患者や家族の動きとして、「主治医がわからないのであれば、わかる可能性がある医師にアクセスする」ということも、とても大切です。
ただ、病院は世の中にたくさんあるので、やみくもに片っ端から病院を受診することは現実的に難しいですよね。
では、どこに行けばいいのか、というと、これはコミュニティや同じ病気の可能性がある人たちの情報から得られることが多くなっています。家族会などのコミュニティとつながりを持つことも医療機関を受診する上で大事なポイントです。
また、実は医師側にも疑っている疾患に対して、より詳しい専門医がどこにいるのかわかりにくいという課題があります。
私たちは社会の仕組みとして、この課題を解決するために適切なエキスパート専門医に気軽に相談ができるシステムをつくっていくことも大事だと考えています。主治医が他の医師に相談できる環境や紹介などの医療連携を促進するコミュニケーションの仕組みを作りたくて、僕たちMediiではその「主治医が悩む時の道標」を作る活動をしています。
大きな病院だから「安心」というわけではない
ーー紹介、という話がありましたが、主治医が紹介してくれない場合やすでに大きな病院を受診しているときはどうしたらいいんでしょうか?
患者側としては、大きな病院だったらわかるだろう、と思ってしまうかもしれないのですが、実は必ずしも大きな病院だから安心、というわけではないんです。
先ほど(前回の記事参照)希少疾患は7,000〜8,000種類あるとお伝えしましたが、そのすべての疾患について専門性を持っている先生が全員揃っている病院は全国をみても例がありません。一つの病院ですべての疾患のうち10%でもカバーできていたらすごいんじゃないか、という感覚です。
実際に、例えば脳神経内科の専門医資格を持つ専門医でも、重症筋無力症や多発性硬化症という神経免疫難病を専門にしている先生はその中の10%もいないとされています(日本神経内科専門医数が約5,000人に対して、神経免疫診療認定医は114人)。今の時代は10数年前とは比較できないほどに医療が進歩し、情報が増え過ぎており、医師の世界も専門細分化が著しく全てを完璧に対応できるような先生はほぼいないか、相当に生活や家庭を犠牲にして毎夜中勉強し続けて頑張っている他ない状況です。
ただ、1つの病院で全疾患をカバーするのは無理でも、それぞれの疾患について専門的な知識のある医師は、全国で見ればどこかに数名から数十人はいます。その専門性の高い先生を探すこともひとつの方法です。
しかし、現状では専門性の高い先生に会うまでの主要な手段は、熱心に、諦めずに、探し続ける方法になりやすいです。患者側の負担にはなってしまうのは心苦しい限りなのですが…。
しかも、その専門医がたまたま通えるような地域にいるということはほぼなく、通院し続けることもとてつもなく大変です。私も和歌山という地方に住んでいた難病患者の当事者として、とても苦労した経験があります。
ですが、今は私たちMediiが進めている仕組みも含めてデジタルを活用した取り組みも徐々に広がり始めています。今通っている主治医も巻き込んで、もし遠方に専門性の高い医師がいたとしたときに、地元で治療を続けるために医師同士が連携しながら治療をしていけるような仕組みもこれからは必要だと考えます。
受診すべき医療機関をみつけるには?
ーー探し続けるのが主流とはいえ、良い方法にシフトしていくのを祈るばかりです…!とはいえ、今お困りの方も多いと思うのでお聞きしたいのですが、疾患はまだ見つからないけど他の病院の紹介も受けられない、情報もない、という場合には、次にかかる病院や医師はどうやって見つければいいんでしょうか?
そういう場合に受け皿になるのは難病指定病院です。
先ほどお話(以下過去記事参照)した難病の3つのタイプや発症している体の部位によって受診する科が異なるので、自分や家族に出ている症状や部位から受診すべき診療科を探し、その診療科で難病指定病院になっているところを受診すると見つかりやすくなると思います。
▼難病の3つのタイプについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
また、その疾患に精通したエキスパートな専門医を探す時には、その症状について論文を書いている医師がいないかを探してみることも有効です。
ただ論文は英語のことも多く普通の人には相当ハードルが高く、難しいことでもあります。ガイドラインを書いていたり、委員をしている専門医に受診したり、その周辺からインターネット経由で探ってみるのが一つの方法だと思います。
主病名が診断されない時は専門医を探し続ける
今回の話のまとめ
- 主病名が確定診断に繋がらないときは主治医と連携しながら、受診すると良さそうな専門医を探して受診してみるのも大事
- 受診する情報源は家族会や親同士のつながり、コミュニティで得やすい
- 難病指定病院を活用することもひとつの方法
- 専門医は論文・ガイドラインや学会からも探すことができる
- 全国的にみれば専門医は数名から数十名になることもあり得る。東京だから見つかりやすいとも限らないので地方もふくめて探す
病気に苦しんでいるけど、原因や疾患名がわからないまま過ごす、というのは、本人はもちろん、見ている家族にとってもつらいことですよね。
主治医以外の医師や専門医の知見を取り入れることで、もしかしたら、新たな病気に関する糸口を見つけることができるかもしれません。どうしても患者に負担はかかってしまうこともありますが、「どうにもできない」と何かできることを探している時には、ひとつの方法として他の医師を受診することも視野にいれることをおすすめします。
▼次の記事では、地方と首都圏の医療のあり方の違いやその状況を踏まえて患者がどう動くべきなのか?をお伝えします。
コメント