「難病の子どもがいる家庭」と聞いた時、あなたがイメージするのはどんなご家庭でしょうか?もしかしたら、悩み苦しんでいるご家族の姿を思い浮かべる方も多いかもしれません。
でも実は、子どもが難病だからこそ「毎日一緒にいられること」を貴重に感じ、共に過ごせる日の幸せを噛み締めて笑顔で暮らす家庭もあります。今回は、そんな幸せ溢れる毎日を過ごしている難病児のママ、竹井さんにインタビューしました。竹井さんのお話から難病の子どもがいる家族の様子や生活、楽しく前向きに暮らすための考え方などをお届けします。
今日5月23日は難病の日。難病の子どもがいるご家庭のひとつのケースとして、関心を寄せていただけたら嬉しいです。
難病の日とは
毎年5月23日は難病の日です。2014年5月23日に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が成立したことを記念して、JPA(一般社団法人日本難病・疾病団体協議会)が登録しました。難病患者やその家族の実情や思いを知ってもらうことを目的とし、この日に合わせイベントや啓発活動を行っています。
難病とは
厚生労働省によると、難病とは、治療の困難性があり慢性の経過をたどる(病状は安定しているが、治っているわけではない状態になっている)病気のことをいいます。
▼医師に難病について解説していただいた記事がありますので、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
13トリソミーの子どもがいるご家族にインタビュー
お話をお聞きしたのは、子どもにとっての「難病」ともいえる、小児慢性特定疾病のひとつ、13トリソミーの子どもがいる竹井さんです。
子どもが生まれる前に「13トリソミーの可能性」を指摘され、そこから生後1ヶ月くらいまでは毎日泣いて暮らしていたという竹井さんですが、今では「一緒にいられる毎日がただただ幸せ」と笑顔でお話しされています。その変化の背景や子どもの病気に向き合う考え方について伺いました。
お子さんの簡単な情報
- 名前:ひなのちゃん(1歳9ヶ月・女の子)
- 診断名:13トリソミー(生後3週間で確定診断)
- 併発している病気:口唇口蓋裂・心疾患
- 医療的ケア:気管切開、経管栄養
13トリソミー(13トリソミー症候群)とは
13トリソミーは常染色体の異常の一つで、13番染色体が3本存在する状態のことです。「パトウ症候群」とも呼ばれます。13トリソミーの子どもの80%は、生後1ヶ月を迎える前に死亡し、1年以上生存できる小児は10%未満という予後の厳しい病気です。
疑いを指摘されてから泣いてばかりの日々
ーーお子さんが13トリソミーと診断された経緯を教えてください。
子どもの疾患について最初に指摘されたのは、妊娠8ヶ月の時の口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)でした。妊娠経過は特に異常もなく、ずっと個人産院で妊婦健診を受けていたのですが、口唇口蓋裂が見つかってから大きな病院に転院に。そこで超音波検査をしたら、今度は「両大血管右室起始症(りょうだいけっかんうしつきししょう)」という心臓の病気が見つかったんです。
その時に検査を担当した主治医から、「口唇口蓋裂と両大血管右室起始症の二つが併発している時は13トリソミーの可能性がある」と伝えられました。生後、血液検査を行い、確定診断がついた、という流れです。
ーー疑いを指摘された時や診断された時はどういう気持ちでしたか?
正直、間違いであってほしいと思いました。
口唇口蓋裂が見つかった時もすごく落ち込んで、自分を責めてしまって。妊娠初期でまだ妊娠に気づいてない時にお酒飲んだからじゃないかとか、頭痛薬飲んじゃったからじゃないかとか考えてしまってました。何度も泣いて、夫の支えもあり何とか気持ちを切り替えたところに13トリソミーかも、と言われたので、すごくつらかったです。
13トリソミーは口唇口蓋裂と違い、生まれてすぐに亡くなってしまう子も多い命に関わる病気です。その現実が重くのしかかって、全く眠れなくなりました。「生まれても生きられないなら、ずっと生まれてこないで」と祈ることさえありました。
でも、13トリソミーかもと言われた2日後に陣痛がきて。生きて生まれてくれて嬉しいと思ったのも束の間、出生時仮死状態で呼吸ができずすぐに気管挿管され、NICUに搬送されたんです。そのままNICUに入院となり、そこからはずっと心配が尽きませんでした。入院中はコロナ禍で面会制限もあったので1日15分しか会えず、抱っこしてあげることもできない、という状況もつらい気持ちに拍車をかけました。
産後に子どもの染色体異常検査の結果が出て確定診断がつくまでの約3週間、毎日泣いて過ごしていました。
パパの一言で病気を受け入れ、前向きに
ーーそうだったんですね…でも今お話ししている竹井さんはとても明るくて、そんなふうには見えないです。
そうですか?そう言ってもらえるとなんだか嬉しいです。本当に今は幸せでしかないって思ってて、すごく前向きに生活できているんです。
泣いてばかりの私が気持ちを切り替えられたきっかけは、夫の「ひなのはママを泣かせるために生まれてきたんじゃないよ」の一言でした。本当にそうだな、となぜかすっと言葉が入ってきたんです。その瞬間からもう、前向きな気持ちに切り替えられました。そこからは涙を流していません。
ーー気持ちのターニングポイントがあったんですね
はい。家族や友達にも恵まれていると感じられたことも大きいと思います。
ひなのは生まれてから7ヶ月入院し、やっと退院したと思ったらひと月も経たずにまたすぐ入院、という生活を繰り返していました。入院時は私も付き添い入院をしなくてはいけません。そんな私たちを支えてくれたのが、家族や親戚です。
以前は義実家の近くに住んでいたこともあり、入院中のきょうだいの世話や家事は義母や親戚が主に担ってくれていました。今は私の実家近くに引っ越したこともあり、母の協力も大きいです。
他にも、ママ友が多めにご飯作ってきょうだいや付き添い中の私に差し入れしてくれたりしてくれたこともありました。今でも本当に感謝しています。
家族みんなで自宅で過ごせる毎日が幸せだって、伝えたい
ーーきょうだいはひなのちゃんのことをどう受け止めていますか?
あまり特別視しているそぶりはありません。口唇口蓋裂で見た目が特徴的ですが、普通に友達を家に遊びに呼んだり、ひなののことを堂々と友達に紹介して病気のことを説明したりする姿をみて、頼もしいなと思いました。
それに、みんなひなのが大好きです。一緒にいる姿を見てると幸せだなって思います。みんなひなのにくっついて寝ようとしたりするんですよ。それがもうかわいくて。
長男はもう小学校6年生ですが、ひなのの病気がわかってからすごく優しくなりました。同じ学校の支援級のお手伝いに自分で手を挙げて行くようになったりとか。この間なんて「夏休みの過ごし方」というテーマでそれぞれ発表する授業で、ひなのの通院で見たカニューレ交換のことをみんなに説明したらしいんですよ!先生に聞いて驚きました。
みんな、ひなのがかわいくて、一緒におでかけしたいって、毎日言ってます。入院が多いからこそ、そんなふうに自宅で家族が一緒に毎日を過ごせることが、幸せで仕方ないんです。
ーー竹井さんの表情や話し方から、幸せに過ごしていることが伝わってきます。ファミケアのインタビューを受けたいと思った理由も、それを伝えたいからだとおっしゃっていましたよね。
そうなんです。病気の子どもがいる他のご家族に、幸せなこともあるよって伝えたくて。
やっぱり子どもが病気だって言われたら、それはつらいですよね。私もそうだったからわかります。でも、つらいだけじゃないって、今は思っているんです。
ひなのの気管切開の手術経験から、たまに同じようにお子さんの気管切開手術をするかどうか悩んでいるご家族を紹介されて、話をすることがあるんです。その時「できればしたくない」とみなさんおっしゃいます。その気持ちはものすごくよくわかるし、いろんな考え方があっていいと思っていますが、気管切開をしたらいいこともあるんですよね。
私たち家族は気管切開の話が出た時「自宅に帰れる手段」として前向きにとらえました。むしろ手術の提案を聞いて「やっときた!これで家に帰れる!」と心の中でガッツポーズしたくらい嬉しかったんです。もちろん手術は避けられるなら避けたいですが、そのおかげで自宅に帰れる、家族みんなで暮らせる、という恩恵もあります。だから、今うちはこうして自宅で生活してて幸せだよっていうことを伝えたいんです。
そういう思いもあって、Instagramも始めました。ひなのがかわいいから見てほしいっていう気持ちもあるんですけどね。笑
いつかみんなでUSJに!常に希望を描き今を乗り切る
ーー医療的ケア児のご家族は、入退院を繰り返したり、医療的ケアで睡眠不足だったりして、気持ちが落ち込んでしまうこともあるのではと思いますが、竹井さんはどう乗り切っていますか?
まず前提として、入退院を繰り返してるからこそ、自宅で過ごせることが幸せって毎日思っているので、体が少しつらくても、家にいられるならこれくらいどうってことないなっていう考えがベースとしてあります。あとはお昼寝とかしたりして、なんとか睡眠とることと、あとは将来やりたいこととか「希望」を常に頭に描いておくことですかね。
うちは家族でおでかけするのが大好きなので、ひなのの体調が落ち着いたら旅行に行きたいなって思ってて、つらいときはそういう楽しいことを考えます。いつかはユニバーサルスタジオジャパン(USJ)に行くぞ!って、今はそれを希望にしていますね。
難病児がいても、支えがあれば心から笑って過ごせる
竹井さんはインタビューの最中、愚痴や不満を一言たりとも漏らしませんでした。ただ毎日が本当に幸せで、それは家族や親戚、主治医や看護師はもちろん、ママ友など周りの人たちの支えがあるからと、笑顔でお話しされる姿に、聞いているこちらが元気をもらえるほど。
子どもが難病児だからこそ、生まれてくることすら難しい病気だからこそ、一緒に過ごす毎日の尊さを誰よりも知っている竹井さんご家族の姿に勇気づけられる方もいるのではないでしょうか。
子どもの難病との向き合い方や難病児を抱えての生き方は人それぞれ。今日の難病の日に、明るく前向きに家族と暮らす家族もいることを、一つの事例として知っていただけたら嬉しいです。
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