子どもの成長にともなって進めていくトイレトレーニング。
トイレの自立が少しでもできることは本人の自立や親の負担にとって嬉しいことですが、実際は難航してしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、知的障がいのある肢体不自由児を育てる筆者が、障がい児のトイレトレーニングについて、トイトレをするべきなのか、進めていくにはどうしたら良いのかを、難病児を育てられている言語聴覚士の佐々木美都樹先生に聞きました
言語聴覚士 佐々木 美都樹(ササキミヅキ)先生 / ササミ先生
北里大学言語聴覚療法学専攻を首席卒業。言語聴覚士免許(国家資格)及びパーキンソン病治療「 LSVT®︎LOUD」ライセンス所持。マカトン法ワークショップ基礎1、PECS®︎レベル1ワークショップ修了。成人を対象とした外来リハビリテーション施設・訪問リハビリテーション施設・介護老人保健施設、小児を対象とした児童発達支援事業所に勤務。息子の超希少進行性遺伝子疾患をきっかけに、オンラインでの相談事業を立ち上げる。現在は、児童発達支援事業所で勤務する傍ら、ことばの相談室Hopalを運営している。
本稿は「障がい児のトイレのお悩み徹底解明特集」の企画として排尿予測デバイスを提供するDFree社の企画協賛でお届けしています。
トイレの自立には蓄尿と排尿の2つの機能が必要
ーー早速ですがトイレトレーニングといっても、まず何からはじめたらいいんでしょうか?
大前提として、トイレができるようになるためには身体の成長の「蓄尿」の機能、「排尿」の機能2つが必要です。この2つの機能はまったく別のものです。
蓄尿は身体の機能として尿を溜めておく機能、排尿は身体から尿を出す機能です。トイレトレーニングというと排尿をイメージしてしまいがちですが、実は単純に出す練習だけではなく、子どもの身体の準備や感覚の準備も必要なのです。
ーーつまり、まず膀胱に尿が溜められるようにならないとトイレトレーニングをしても意味がないんですね。
そうなんです。尿が溜められるようになってきて、はじめてトイレで出すことができるステップに進めます。
定型発達の場合、2歳頃になると徐々に膀胱に尿が溜められるようになり、トイレトレーニングを開始する家庭も多くなってきます。疾患や障がいのある子どもの場合は、この年齢がさまざまなため、まずは膀胱に尿が溜められるようになっているのかをチェックしてあげることが大切です。
ーー子どもが尿を溜められる状態か、どうやってチェックしたら良いのでしょうか?
まずは、どれくらいの水分を飲ませたら、どれくらいの時間で尿がでるのかを観察します。
そして、1日の生活スケジュールの中でどの時点で排尿しているか、を把握するのが入り口です。トイレの間隔が日中2時間程度あけられるようになっていれば、きちんと尿が膀胱に溜められるようになってきています。
排尿機能の取得は観察と失敗の積み重ね
ーー蓄尿ができている状態になったら、排尿はどうやってできるようにしたら良いのですか?
トイレに行きたい感覚=膀胱に尿が溜まっている状態なのですが、この溜まってる感覚は理解するのが子どもにとって、難しいポイントです。
それを踏まえて、まず定型発達児のトイレトレーニングの基本の流れを紹介すると、以下のように進められることが多くなっています。障がいがなくても、ステップ順にスムーズにいくわけではないですが、説明するとこのようなかんじです。
トイレトレーニングの流れ
- 蓄尿できるようになる
- オムツの状態で事後報告ができるようになる
- 排尿する、しないのコントロールができる
- 尿意を感じて事前報告できるようになる
- 事前報告をもとに親がトイレ誘導をする
障がいや特性がある子どもの場合は、特性や障がいのためにどこかのステップが難航することが多いので、以下のように繰り返していきます。
障がい児のトイレトレーニングの進み方
- 子どもが蓄尿できているかも?という状態
- 特性や障がいのために事後報告が難しく、排尿感覚を親が測ってトイレ誘導
- 排尿にトライしてみる(失敗 / 成功しながら②と③を繰り返す)
繰り返していく中で尿意を感じて事前報告までできるようになる子もいると思いますし、尿意や事前報告がまるでなく完全に時間誘導で長く過ごす子もいます。
ーー子どもの「おしっこ行きたい」感覚はどうやって習得していくのでしょうか?
まず、赤ちゃんの頃はみんなおむつで排尿しますよね。この時は何も意識せずに”出ちゃってる”だけです。
その状態から膀胱におしっこが溜められるようになってくると、おむつをした状態でも「おしっこをする」という排尿の運動コントロールができることに気づきます。この気づきは自身で気づくこともありますし、場合によってはトイレトレーニングの一貫で習得していくものでもあります。
この気づきを親に教えてくれるのが「おしっこ行きたい」を言い出す、つまり排尿の通知です。子どもの通知は、単純におしっこが出た行為を説明して伝えてくることもありますし、出たことが気持ち悪いから伝えていることもあります。
いずれの場合でも良いので、まずは排尿の事後報告ができるようになることが大切です。
ーーでも、発達障害や知的障害があるとぶっちゃけ通知はかなりハードルが高いと感じてしまいます。
そうなんです。障がいの有無に関わらず、感覚や表現が成長段階の子どもにとってうまくおしっこを言い出せるようになるまでのプロセスは大変難しいことです。
「おしっこがしたい」をわりとスムーズに親へ言い出せるようになる子もいれば、身振りや仕草でもじもじするところから進む子もいます。
このプロセスを乗り越えていく方法は親と子で「観察」と「失敗」を繰り返すことです。
言葉で伝えられなくても「おしっこ行きたいかな?」を観察してパターンを把握して失敗が少なくなっていく、という形でトイトレを進めていきます。
そして、膀胱の尿の溜まり具合によってトイレ誘導が間に合ったり、間に合わなかったり、間違っていたり、合っていたりして子どももトイレを理解していきます。
この繰り返しはすべての子どものトイレトレーニングにある過程ですが、障害があるとその特性上、繰り返しの数が多く必要だったり、失敗も多くしてしまったりすることはあり得ます。なので、ハードルが高いと感じてしまうこともありますよね。
ーー正直ここまでお話を聞いて、私もトイレトレーニングは無理かも、と過酷さを感じています…!
そうですよね、トライアンドエラーのバリエーションが多すぎるので障がい児のトイレトレーニングは難航しやすく、相談を受けることも実際にあります。さらに体幹が弱いなどの身体の不自由が合わさってくる場合は、考えることが多いのでより難易度は上がってきます。
失敗が必要、と先ほど伝えたものの、実際漏らしてしまうと汚れるのも相当ですし、一緒に生活する人からは、うまくいかない繰り返しや後片付けのストレスはかなり高くなってしまいます。その状態では、親だって疲れちゃいますよね。
なので、たとえばですが、ずっと続けるというよりは、休みやすみ、何回もやって、少しずつ段階を踏むのもひとつの手だと思います。
トイレトレーニングの目標地点というと、どうしても「おむつなしで自分でトイレに行っておしっこできるようになる(完全自立)」ことになりがちです。しかし、トイトレを何段階かに分けて、今回のトイトレでは、便座に座れるところまで、トイレに入れるようになるところまで、などでも良いので、長く期間がかかっても負荷を親も子も軽減しながら取り組むのがいいと思います。
ーー長く、少しずつ進めばいいと思うと、少し希望が見えてきそうです。
トイレに限らずですが、子どもが何かしらできるようになるのは発達的にはとてもいいことです。体幹が弱い子どもでも、座って、足をついてと動作をして成功したら、親も本人も嬉しいし、成長にも繋がります。
かといって、できないとダメかというと介助の負担もあるので、無理に進めるのがそのご家庭にとっていいとは一概には言えません。
できる大人からすると、トイレをすることは当たり前に思える、いち生活の一部ですが、分解して1つずつでもできれば、それはその子の立派な「トイレができた」ということなのです。
おむつがとれなくても、肢体不自由で完全に自力でトイレをするのは難しくても、トイレに行きたいという排尿の通知ができるだけでもいいのです。
子どもによってトイトレもトイレのやり方もそれぞれ
今回は、トイレトレーニングと一言で言っても、それぞれの子どもにとってのトイトレをはじめるタイミングやさまざまなトイレの在り方がある、ということを教えていただきました。
トイトレをするならトイレが完全にできるようにならないといけないと筆者も思っていましたが、様々な形があると知ることで気軽に取り組んでみる気持ちにもなれそうだと感じました。
次回の記事では、トイレトレーニングを進める時期やトイレトレーニングにおいて発生するこだわりとの付き合い方、乗り越えられるようになるのかなどをお伺いしていきます。
子どもが蓄尿してるかわからない、おしっこの観察・通知が難しい…!と感じた方は、おしっこサインをスマホで可視化できるDFreeをお試ししてみてはいかがでしょうか?
※本記事はDFreeのSponerdにて提供しています