子どもの健やかな成長のために実施される1歳半健診。指さしや積み木を使った検査をすることで知られていますが、検査を通じていったい何をチェックしているのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、保健師資格を持つ育児中のママが1歳半健診のチェック項目について解説していきます!
1歳半健診とは
1歳半健診とは、母子保健法で定められている乳幼児健診のひとつです。子どもの心身の発達を確認し、疾患や障がいを早期に発見、サポートすることを目的としています。
ごく一部の自治体では個別の健診を行っていますが、多くの自治体は集団健診を実施しています。
▼詳しくはこちらの記事でも解説
1歳半健診でチェックする項目
1歳半健診でチェックする項目は厚生労働省によって定められています。健診の内容を通して、項目を確認し、問題の早期発見を目指しています。
ア 一般健康診査の項目は次のとおりとする。
① 身体発育状況
② 栄養状態
③ 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無
④ 皮膚の疾病の有無
⑤ 四肢運動障害の有無
⑥ 精神発達の状況
⑦ 言語障害の有無
⑧ 予防接種の実施状況
⑨ 育児上問題となる事項(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)
⑩ その他の疾病及び異常の有無イ 歯科健康診査は、歯及び口腔の疾病及び異常の有無について行うものとする。
(出典:乳幼児に対する健康診査の実施について)
健診では、以下の3つの側面から子どもの状態をチェックします。
身体の発達の状況や身体機能に問題がないか
1歳半健診では、身体が正常に成長し、身体の機能に問題がないかをチェックしています。
厚生労働省の定めている項目としては「身体発育状況」「栄養状態」「脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無」「皮膚の疾病の有無」「四肢運動障害の有無」、また口腔内の歯及び口腔の疾病の異常の有無などです。身長や体重の推移を確認したり、自宅での様子などの問診で確認をします。
精神発達の状況に問題がないか
身体だけではなく、心の発達状態もチェックします。厚生労働省が定める項目の中では「精神発達の状況」「言語障害の有無」などが該当します。コミュニケーションの様子の観察などを通して確認します。
育児状況や環境に問題がないか
子どもの生活習慣や育児における環境について、家族が課題を抱えていないかを確認します。
「予防接種の実施状況」「育児上問題となる事項(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)」などの項目が定められています。
【健診の内容別】チェック項目のチェック方法
では、実際に健診内でどのように項目の内容をチェックしていくのか、解説していきます。
問診
問診では、問診票に沿って簡単な検査もまじえながら生活の様子を確認します。「身体発育状況」「精神発達の状況」「言語障害の有無」「予防接種の実施状況」「育児上問題となる事項(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)」等、チェック項目全般を確認します。
1人歩きの様子の確認
1歳半健診で重要なポイントは、1人歩きができるかどうかです。1歳6ヶ月ではおよそ9割の子どもが1人歩きができると言われています。子どもに1人歩きをしてもらい、歩くかどうかだけでなく、姿勢や転びやすさも確認します。
細かな動き(微細運動)の様子の確認(積み木)
指先の細かい動き(微細運動)ができるかも大きなポイントです。微細運動は、積み木をつまんで積むことができるかで確認します。
筋肉や神経系の病気が隠れていないかどうか、運動発達の様子で確認します。
言語の発達の様子の確認
意味のある言葉を話すかどうか確認します。1歳半では「ワンワン」や「マンマ」など1語文の表出が増えてくるころです。3つ以上の単語を話せるかどうかが目安となります。
知的障害や聴力障害が隠れていないかを確認します。
コミュニケーションの様子の確認
コミュニケーションの様子は、社会性の発達を評価するうえで重要です。具体的な確認方法は、指さしの検査です。
犬や車などいくつかイラストの書いてある紙をみせて「ワンワンはどれ?」と問いかけをし、指さしで教えてくれるかどうかをみます。
この検査は、大人の質問に対して子どもが自分に言われている言葉を理解し、質問されている対象を指さすという行動で、子どもと大人の双方向のコミュニケーションがとれているかが確認できます。また、人見知りがあるかどうかや、周囲の人や物に関心をもつかどうかもチェックします。
自閉症スペクトラム障害などの発達障害の早期発見のために確認します。
食事の様子の聞き取り
1日3回の食事+おやつ(補食)を食べているか、離乳食の進み具合をチェックします。小食、食べるのに集中できない…などがあれば、子どもの成長や発達に影響が出ないようにサポートします。
保護者の健康や周囲のサポートの聞き取り
睡眠や食事をしっかりとれているか周囲に育児をサポートしてくれる人がいるか、育児の相談相手がいるかなどを確認します。これらの情報から、育児負担の大きさを評価します。
その他生活の様子についての聞き取り
見えにくさや聴こえにくさがないか確認します。具体的には、子どもの後ろで小さな声で名前を呼ぶと振り向くか、目つきや目の動きで気になることはないか、などの問診を受けます。視力や聴力の低下は、発達の遅れにつながることもあります。
予防接種の接種状況ついても確認します。予防接種は赤ちゃんを病気から守るために、とても重要です。
身体測定
身体測定では「身体発育状況」「栄養状態」を確認します。主な実施内容としては、身長、体重、頭囲、胸囲を計測します。
発育状況の確認
乳幼児発育曲線と照らし合わせて、発育状況を確認します。
乳幼児発育曲線とは、乳幼児の平均的な発育を経時的にグラフ化したものです。発育については個人差が大きいですが、基準の範囲内であれば平均的な成長です。グラフの曲線に沿って成長しているかどうか、これまでの経過とも合わせて評価します。
ホルモン系統の病気や消化吸収に関連する病気などが隠れていないかをチェックします。
小児科医の身体診察
小児科医師による診察があります。診察によって、先天性の身体の疾患がないか確認します。先天性の身体疾患は1歳半までに見つかることが多いですが、この時期にわかる疾患もあります。
身体の状態の観察による確認
診察では「脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無」「皮膚の疾病の有無」「その他の疾病及び異常の有無」を確認します。具体的には、以下の通りです。
視診
皮膚の状態、胸郭や背骨の変形がないか、外陰部や生殖器に異常がないかをチェックします。
アトピー性皮膚炎や先天性股関節脱臼などの疾患がないか確認するために行います。また、男の子場合は停留精巣(精巣が陰嚢内に下りてきていない状態)が見つかることがあります。
聴診
胸の音や肺の音を確認し、心臓の疾患、肺の疾患がないかチェックします。
触診
大泉門が閉じているか、お腹にできものなどがないか確認します。
大泉門とは、額のやや上にある骨と骨の隙間のことです。生まれた直後は大きく隙間が空いて触るとペコペコしていますが、1歳半ごろまでに徐々に骨が合わさって閉じていきます。この大泉門が閉じるのが遅いと、水頭症などの病気が隠れている可能性があります。
歯科検診
歯科検診では「歯及び口腔の疾病及び異常」がないかを確認します。ママやパパが子どもを抱っこした状態で歯科医師の診察によりチェックします。
口腔内の観察
乳歯がどのくらい生えそろっているか、虫歯がないかなど口の中の状態を観察します。まれに歯の形や色が通常と異なる、先天性の異常が見つかることがあります。
歯磨き指導
小さなうちから歯磨きの習慣をつけておくことは、虫歯予防のためにとても大切です。歯ブラシの選び方や磨き方などを教えてもらえます。
結果説明と相談
チェック項目の確認結果は、健診がすべて終了した後に伝えられます。
健診の結果はいくつかの判定区分に分けられます。区分わけは自治体によって違いがありますが、大まかには以下の5つです。
異常なし | 疾患の疑いがないもの |
既医療 | 既に医療機関にかかっているもの |
要観察 | 疾病の疑いがあり、経過観察の必要があるもの。 |
要紹介 | 疾患の疑いがあり、医療機関に紹介して診断や治療等を求める必要があるもの。 |
要精密検査 | 疾患の疑いがあり、医療機関等で精密検査が必要であるもの。 |
1歳半健診で引っかかる子どもの割合は、自治体によって差があるものの、平均して13.5%程度と言われています。およそ10人に1人の割合です。
結果の確認時に育児相談をすることができます。日頃の育児の悩みや気になっていることなどを、専門職に相談できる絶好の機会です。一人で抱え込まず、ぜひ相談してみましょう。ママやパパの精神的負担の軽減にも繋がります。
【参照】松原三智子「1 歳 6 か月児健康診査で保健師が気になる母子の様子」P6|北海道科学大学研究紀要 Bulletin of Hokkaido University 第 39号(平成 27年)
経過観察や精密検査が必要になった時は?
経過観察が必要な場合は「どのくらいの期間」「何に注意して観察したらよいのか」を医師、または保健師に確認します。医療機関の紹介や精密検査が必要な場合は、地域のどこの病院が対応できるのかを医師に確認しましょう。
健診でフォローが必要となった場合、不安でたまらなくなると思いますが、必ず疾患や病気があると決まったわけではありません。まず一番大切なことは、落ち着いて医師や保健師からの説明をよく聞くこと。そして今の子どもの状態や、どのような点に注意して見守っていけばいいのかを保護者が理解することです。
発育や発達は個人差が大きいものです。中には、経過観察を続けた結果、問題なしだったというケースもあります。一方で、ある程度経過をみることで明らかになる障がいもあります。
例えば発達障害では、1歳半の時点では診断をつけることは難しく、成長に伴って症状や特性がはっきりとしてくることが多いです。
もしも疾患や障がいがあったとしても、いち早く発見して早期治療や適切な関わり方ができれば、子どもの成長にとってプラスになります。
筆者の次男は頭囲が大きく、1歳半健診でも基準値よりかなりオーバーしていました。健診でも他の子どもより明らかに頭が大きかったので心配しましたが、発達に気になる点はなく経過観察することに。成長に伴い、少しづつ体と頭のバランスがとれてきて、問題なしとなりました。筆者の子どものように、経過をみた結果、個性だったという場合もあるのです。
▼発達に悩みがあるときはこちらの記事もおすすめです
1歳半健診は子どものサインを確認する大事な機会
1歳半健診は、子どもの疾患を早期に発見するためにとても大切な機会です。
保健師や小児科医は専門的な視点から、子どもの発達に気になる点がないかチェックします。そして必要であれば、経過観察や医療機関の紹介など早期の対応をします。
健診で指摘を受けても、必ず疾患があると決まったわけではありません。小児科医や保健師などの専門職は、子どもの健やかな成長を願う1人であり、ママやパパの味方です。不安や悩みは相談して、落ち着いて子どもを見守ってあげてください。
▼この記事はこちらのサイトを参照し執筆しました
・【参考】標準的な乳幼児期の健康診査と保健指導に関する手引き
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/tebiki.pdf
・子どもの発達とその支援について of New Site 1
https://www.shiga-med.ac.jp/~hqpeddev/pg12.html
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