発達障害児の子どもの療育に用いられている「ABA(応用行動分析)」をご存知ですか?ABAは、行動が生じる前の“きっかけ”と行動後の“結果”に対して効果的な工夫をし、生活上の問題を解決していこうという心理技法です。
今回は自閉スペクトラム症の娘と暮らす筆者が、ABAを療育で取り入れるメリットやその具体的な方法をご紹介します。
子どもの問題行動、どうやって改善したらいい?
場に応じた行動を、子どもに少しでも身に付けさせてあげたい
そんな方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
ABA(応用行動分析)とは?
ABAとは「Applied Behavior Analysisno」の頭文字を取った言葉です。日本語では「応用行動分析学」と呼ばれています。
ABAは、1930年代にアメリカの心理学者スキナー(B.F.Skinner)によって生み出されました。「人がなぜその行動をするのか、もしくはしないのか」「その行動は続いて別の行動は続かない理由は何か」「個人で行動が違うのはなぜか」など、行動に関する“なぜ”を科学的に理解して説明しているのがABAなのです。
ABAは、療育だけではなくスポーツや経営、リハビリ現場などさまざまな分野で活用されています
ABA(応用行動分析)と療育の関係性
ABAを用いることで特に高い効果を期待できる分野が、発達障害児、特に自閉スペクトラム症の子どもへの早期療育です。ABAは「好ましい行動を増やして望まない行動を減らす」という考え方。問題行動の原因や目的を分析しながら計画的に好ましい行動を制限するABAは、発達障害児にとって分かりやすいため、療育との相性が良いと言われています。
ABAを用いた自閉スペクトラム症の療育は、1960年代から、アメリカUCLA大学のロバース博士(O.I.Lovaas)によって研究が始まりました。ロバース博士の研究では、週に40時間訓練した自閉スペクトラム症20名のうち9名が普通学校へ進学し、その後もほぼ全員が一般社会で生活しているとの結果が確認されています。
【参照】Behavioral Treatment and Normal Educational and Intellectual Functioning in Young Autistic Children
URL:https://earlyautismservices.com/wp-content/uploads/2018/02/lovaas-1987.pdf
繰り返しになりますが、ABAは“人はなぜそのような行動を取るのか”というように「行動の理由や目的」を探るもので、周囲の環境の相互作用から問題解決を見出す学問といえます。
行動の責任や問題を、子どもや家族、育て方のせいにしないということです
療育でABA(応用行動分析)を取り入れるメリット
ABAがどんなものかはなんとなく分かったけど、実際に療育へ取り入れたらどうなるの?
そう考える方も多いのではないでしょうか。療育でABAを取り入れるメリットは、次のようなものが挙げられます。
問題行動を軽減できる
ABAを療育で取り入れると、問題行動の原因や目的を分析しやすくなります。
「自分が子どもとしっかり関わってあげられていないから、問題行動が起きてしまうのではないか」
これは、 発達障害児と暮らすご家族からのご相談でときおり聞かれる声です。しかし実際には、子どもの問題行動は家族が日々の関わりを多く持っていても起きてしまう場合があり、原因はそれだけではありません。
なぜ子どもがこの行動を起こすのか、この行動を繰り返すのかを理解したうえでABA療育で望ましい行動を増やしていけば、望ましくない行動を軽減しやすくなるのがメリットです。
こだわりを抑制する効果が期待できる
自閉スペクトラム症の子どもによくみられる「こだわり」は、やみくもに制止するだけでは逆効果になってしまう場合があります。ABA療育では、抑止するのではなく代わりに別の適切な行動の強化に繋げる方法をとります。ただ、抑止するだけでなく、こだわり行動を徐々に抑制できる効果が期待できるのも魅力です。
自分の意思を言葉で表す練習になる
言葉で気持ちを伝えられるようになれば、周りとのコミュニケーションがスムーズになり、子どもは精神的に落ち着いて生活できるようになりますよね。ABAの療育では、欲しいものを言葉で要求できた際に賞賛したり、ご褒美をあげたりして「言葉での表出」の強化を目指します。
発話が難しい場合は、ジェスチャーや絵カードなどの代替手段を取り入れて言葉の意味や役割を一つひとつ身に付けられるようにしていきます
子どもの行動を理解するきっかけになる
「我が子は、障がいや特性があるから問題行動を起こすのではないか」
このように考えてしまうことはありませんか?
しかし、例えば大声を出したり物を投げたりする行為は、単に障がいや特性があるからではありません。「注目を引きたい」「嫌なことから逃れたい」「欲しいものを手に入れたい」など、子ども一人ひとりに何らかの目的があるからと考えられます。
ABAを用いた療育は、問題行動の背景にある目的をていねいに分析し、適切な対応を考えるものです。そのため、子どもの行動はどこからくるものなのか、なぜそのような行動を起こすのかを理解するきっかけになります。
ABAを用いた基本的な療育の方法
ここまで読んでくださった方で、
ABAを療育で活用する魅力は理解できたけど、一体どうやってすればいいの?
と考える人もいますよね。次は、ABAを用いた基本的な療育の方法をご紹介します。
STEP1.ABC分析
「そもそも問題行動を起こす原因はどこにあるのか?」を明らかにしたうえで用いられる対応策を「ABC分析」といいます。ABC分析は、Antecedent(行動前の状況)・Behavior(行動)・Consequence(行動の結果)の頭文字を取った言葉です。
ABC分析では、問題行動を理解する際にABCフレームにあてはめ、対応すべきことをより明確にしていきます。
▼ABC分析の一例
行動:お菓子売り場でお菓子を買ってもらえないので泣いて癇癪を起こす
ABC分析:「A(欲しいお菓子を買ってもらえない)B(泣いて癇癪を起こす)C(お菓子を買ってもらえた」
STEP2.行動の原因を発見する
ほとんどの問題行動は、“〜したい!”という「欲求」からくるものだといわれています。そして欲求の原因は「要求」「回避」「注目欲求」「感覚刺激」から起こります。
ABAの実施は、この4つのうちのどれが子どもの問題行動を引き起こしているのかを見分けるところから始まります。問題行動が起こる前の状況や環境要因に目を向け「○○が欲しい、○○したい!」「○○したくない、されたくない!」「こっちを見て!かまって!」「なんだか気がまぎれる、楽しい!」のどれに当てはまっていそうかを検討しましょう。4つのうちのいずれか、あるいは複数の原因に該当します。
行動の原因1:要求の実現
例えば「貸して欲しい」「〇〇がしたい」などの欲求が、何らかの問題行動を起こすことで叶えられたとします。その場合「問題行動を起こしたら欲求が実現した」という事実が「強化子(行動の頻度を高める刺激)」になり、その後も問題行動が増える可能性があります。
▼「欲求」が問題行動に繋がっている例
- お菓子が欲しかったので、お菓子売り場で泣いて癇癪を起こした
- お菓子を買ってもらえた
- 欲しいものがある場合に癇癪行動が増えやすい
行動の原因2:回避・逃避
「ある特定の行動をしたら不快を避けられた」との事実が強化子になると、嫌なことを回避するためにその後も同じ行動を起こす可能性があります。「回避」が問題行動に繋がっているパターンです。
また「ある特定の行動をしたら“嫌な事態”を避けられた」という事実から問題行動を繰り返すことを「逃避」といいます。
▼「回避」が問題行動に繋がっている例
- 病院や学校へ行きたくないから「お腹が痛い」と言った
- 学校へ行かずに済んだ
- 回避したいことがあると体調不良を訴えるようになりやすい
▼「逃避」が問題行動に繋がっている例
- 園や学校で嫌な活動があったから離席した
- 嫌な活動をせずに済んだ
- 嫌悪事態を避けるために離席を繰り返すようになりやすい
行動の原因3:注目要求
「ある特定の行動をしたら周囲からの注目を得られた」との事実が強化子になると「気を引きたい・注目されたい・構って欲しい」などの欲求が現れるたびに、問題行動を起こしやすくなります。
▼「注目欲求」が問題行動に繋がっている例
- 悪ふざけをした
- 先生に叱られ、お友達が笑った
- 周囲からの注目を集めるために悪ふざけが増えやすい
行動の原因4:感覚刺激
「ある特定の行動をしたら退屈や不安を紛らわせられた」との事実が強化子になると、刺激そのものの快を得るために問題行動を続ける場合があります。
▼「感覚刺激」が問題行動に繋がっている例
- つばを出したり入れたりした
- 退屈しのぎになった
- 退屈だと感じるたびにつばを出し入れするようになりやすい
STEP3. 条件付けを活用する
問題行動の原因が分かった段階で、次はある特定の行動を引き起こすために別の刺激を与える「条件付け」を活用します。つまり、考え方を使った実践です。ABAに用いられる条件付けは、主に「強化」「弱化」「消去」「他行動分化強化」「選考条件操作」です。
条件付け1:結果によって行動が増えていく「強化」
ある結果によって行動が増えていく状態を「強化」といいます。報われることでその行動が増えるよう働きかける技術です。
療育におけるABAでは、子どもが望ましい行動をした場合に褒めたり、ご褒美をあげたりします。
条件付け2:ご褒美を取り上げて問題行動を減らす「弱化」
問題行動を起こした場合に賞賛やご褒美を取り上げてその行動を減らすのを「弱化」といいます。その場から離れさせたり注意を払わなかったりすることで、行動が報われないようにして、問題行動を減らす技術です。
条件付け3:問題を起こした際に注目や声掛けをしない「消去」
問題行動を起こした際、子どもへ気配りはしつつ注目や声かけをあえて行わないのを「消去」といいます。見守りながら目線は与えずに淡々と様子を見ることで子どもにとっての「欲しい反応」を与えないようにし、問題行動を減らしていく技術です。
療育における消去は「愛ある塩対応」と呼ばれることもあるよ
条件付け4:強化をうまく活用する「他行動分化強化」
問題行動の代わりに別の適切な行動を強化することで、望ましい行動に置き換えていくのを「他行動分化強化」といいます。問題行動以外の望ましい行動を「強化」で増やし、問題行動にかける時間を減らしていきます。
見守っているけれど目線を与えない「愛ある塩対応」との併用で、より高い効果が期待できます
条件付け5:問題行動の原因を事前に調節する「先行条件操作」
五感への刺激が多すぎる環境を改善したり、指示の出し方を工夫したりと、問題行動が生じにくい環境に整えるのを「先行条件操作」といいます。事前に約束を示したり、あらかじめルールを作ったりなど、代替行動での対応で問題行動を起こさせない技術です。
▼ABAを用いた療育の具体的な実践事例はこちらの記事をご覧ください!
ABAで「行動」にアプローチして困った行動を解決
障がいや特性だけに原因を求めるのではなく、子ども一人ひとりの「行動」にアプローチして困りごとの解決に繋げるのが、ABAの考え方です。「我が子はなぜこの行動をするの?」「どんな環境を整えればいいの?」を知るヒントにもなり得るため、子どもだけではなく、発達障害のある子どもと関わる大人にとっても道しるべになる手法といえます。
「みんなはABAをどんな風に活用してるんだろう?」
ABAに関する疑問がある方は、ぜひファミケア公式SNSやアプリにてお寄せくださいね。
「我が家ではこんな風にABAを取り入れています!」というエピソードも待ってるよ~
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